バーチャルな世界の中でさまざまな体験ができるメタバース。2022年頃からにわかに注目され、2023年現在においては、日本国内でも一部の企業が活用を始めている状況だ。
しかし「近年におけるメタバースの流行は一過性のもの」だという見解もある。そこで今回はメタバースの現在と未来というテーマで、近年のメタバースの状況と今後の予測、先駆者の言動や動向などを紹介する。
生成AIとは「ジェネレーティブAI(Generative AI)」とも呼ばれるAI(人工知能)の一種で、さまざまな新しいコンテンツを生み出す技術のことだ。
2022年に「メタバース」というワードが、一時バズワード化し様々なメディアで取り上げられた。しかし2023年段階では「メタバースは限定的」という意見があるのも事実だろう。そこで、今回はメタバースの概要と近況について解説する。
1-1:そもそもメタバースとはメタバース(Metaverse)は、英語の「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」を合成した造語で、1992年に作家のニール・スティーブンソンによって発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ」で初めて生み出された言葉としても有名である。メタバースの定義は発展途上のため明確なものはまだないが、ここではデジタルな仮想世界で、ユーザーが仮想的なアバターを操作したり、他のユーザーと対話したりできるなど、現実とは異なる世界でさまざまな活動を行う空間とする。
メタバースは、エンターテインメントやビジネス、教育など、多くの領域で利用される可能性がある。そのため、ビックテックを中心にメタバースを実現するための仮想現実ヘッドセットや拡張現実デバイスを開発し、仮想空間内での体験を向上させる技術を進化させている状況だ。
メタバースは、現実世界の制約を超えて、ユーザーに新しい形でコミュニケーションやエンターテインメントを提供し、個人や企業にとって新たなビジネスチャンスを創出するといわれている。ただしプライバシーやセキュリティ、アクセシビリティ、倫理的な問題など、さまざまな課題や懸念事項も浮上しており、メタバースの発展に伴う課題にも注意しなくてはならない。
1-2:メタバースの近況今後市場規模が2030年には78兆8,705億円まで拡大すると言われているメタバースですが、2021年頃におけるメタバースの普及度は、限定的な使い方で始まるとみずほ産業調査部のデータで報告されている。VRゴーグルを装着して、あたかも自分自身がその場にいる感覚になるような体験はまだできず、多くがインターネットの延長線上にある2Dのコンテンツにとどまっているのが現状だ。普及のイメージとしては「あくまでリアル世界のおまけであり、エンタメや一部ビジネスでも試行的に使われる世界」である。
しかしメタバースとの親和性が高いエンタメの領域では、ファンの満足度向上に向けて様々な取り組みが進められています。例えば、バンダイナムコエンターテインメントは「ガンダムメタバースプロジェクト」を開始している。世界中のガンダムファンが集まり、様々なコンテンツに触れる場所を提供するもので、バンダイナムコとファンが「共創」する未来を目指すプロジェクトだ。一方「ラブライブ!スクフェスシリーズ感謝祭2023 ~スクールアイドルフェスティバル ALL STARS メタバースライブ~」が開催され、観客がアバターで参加するメタバースライブも実施されている。
また、吉本興業は未来のエンターテインメントの発展のため、最先端のデジタルイノベーションとエンタメを融合させた、メタバース事業および、タレントアバター事業「FANY X(ファニーエックス)」をスタート。さらに吉本興業ホールディングスは、メタバース上にエンターテインメントの新劇場をオープンした。
しかし、その他の業界における活用状況はまだ限定的と言わざるを得ない。同調査によると、一般家庭に普及しはじめるのは、2030年頃だろうという予測である。
一部の有識者の中には、メタバース熱は下降傾向にあるとの意見も散見されるが、メタバースの先駆者と呼ばれる人々の反応はどうなのだろう。ここでは、メタバース先駆者と呼ばれる人々の動向や言動を紹介する。
2-1:マーク・ザッカーバーグマーク・ザッカーバーグ氏は、フェイスブックからメタ・プラットフォームズに社名変更するほど、メタバースに注力していることで知られている。同氏が掲げているのは、単体のサービスやアプリによる空間を開発して終わるものではなく、さらに壮大な未来予想図とのことだ。
同氏は、メタバースがコミュニケーションの形を変えると考えているそうだ。メタバース空間では「他の人がそこにいるという実感」がもたらされ、これまでのメッセージやメール、テレビ電話といったコミュニケーション手段を超えた新たな「インターネットの次の章」が開かれると述べている。
また同氏は、メタバースが新たな雇用を生み出すと予想。今後、メタバース上でクリエーターが増えると予想しており、何百万もの雇用を生み出すと予測している。
メタ社によるメタバースとは、近年のオンラインにおけるソーシャル体験をハイブリッド化したようなもので、ときにはVRヘッドセットなどを装着し、ときには3次元に拡張され、ときには現実世界に投影される。また、ユーザー同士が離れていても、一緒に没入感のある体験を共有できることや、物理的な世界では不可能だったことを体験できることを目指すそうだ。
「人と人がメタバースでつながる未来を信じています」という理念のもと、メタ社はメタバース関連のさまざまなサービスを開発している。
2-2:細田 守細田守監督は、メタバースについて「抑圧から解放する場所」と考えているそうだ。 同氏はメタバースの登場により、現実の制約や一元的な価値観による抑制から解放され、公共性や公平性が担保された公正な社会が実現する可能性が広がることを期待している。これによって、個々の能力が十分に発揮され、多様な才能が活かされる新たなダイナミックな世界が築かれるであろうことを想像しているとのこと。
同氏はこれまで、インターネットやデジタルの世界と人間社会との関わりをテーマにしたアニメーション映画を製作してきた。
近年は『竜とそばかすの姫』を制作し「U(ユー)」と呼ばれる巨大な仮想世界を舞台に、そこで起こる出来事と現実世界とのリンクをポジティブなものとして描いたことが記憶に新しいところであろう。
2-3:加藤直人クラスター株式会社の代表取締役CEOである加藤直人氏は、日本のメタバース界を牽引する著名な起業家だ。同氏は「コンピュータが描く3DCGで構成された世界の中で生活し、そこに住む人々とコミュニケーションし、デジタルな価値を売買する世界観がメタバース的だと捉えています」と語るように、メタバース上に新たなコミュニケーションが生まれ、生活スタイルが変わることを期待しているとのこと。
同氏はメタバースの本質をクリエイティビティと捉えている。メタバースにおける生活やコミュニケーション、デジタルな価値の売買などが行われる世界観をメタバース的だと考えているそうだ。
さらに、同氏は『cluster』と呼ばれる日本発のメタバースプラットフォームを創設している。同プラットフォームでは数万人が同時接続し、自分のアバターで友達と交流したり、「ワールド」と呼ばれるメタバース内の世界を投稿したりすることが可能だ。
2-4:バーチャル美少女ねむバーチャル美少女ねむは、自称・世界最古の個人系VTuberであり、メタバース文化エバンジェリストだ。彼女は2017年から美少女アイドルとして活動しており「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマにしている。
VTuberを始める方法を早くから公開し、その後のブームに貢献。また、2020年にはNHKのテレビ番組に出演し「バ美肉 (バーチャル美少女受肉)」の衝撃も記憶に新しいところだろう。
さらに、彼女は技術評論社から出版された書籍『メタバース進化論』が話題となり、メタバースについての解説を行っている。同著ではメタバースの新たな進化や、仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」について詳しく説明している。
バーチャル美少女ねむは、メタバースに非常に注目しており、その真の革命性を探求していることがわかる。彼女の活動は、人類とメタバースの未来に向けたオープンな議論を活性化させる一翼を担っているといえるだろう。
では、今後メタバースはどのように発展していくのだろうか。まずはデバイスの普及に関して、過去に起きた類似の事象としてスマートフォンの普及過程を振り返りたい。
3-1:スマートフォンの広がりに見るメタバースの可能性iPhoneが登場した2008年には「日本人はガラケーの文化があるので普及しない」という声もあった。しかしその後、わずか数年でiPhoneは一般層にも普及した。 2017年の総務省の調査によると2011年におけるスマートフォンの個人保有率は14.6%程度だったが、2016年の個人保有率は56.8%に上昇し、5年間で約4倍にまで普及している。また、2022年の世帯別の保有率の調査では、86.8%の世帯がスマートフォンを保有しているとの結果が出ており、いかにスマートフォンが生活に浸透しているかが分かる調査結果となっている。今まさにこれと同じ現象が、スマートグラスなどでも起こる可能性がある。これらの端末の普及により、メタバースの可能性が大きく広がることになるだろう。
3-2:2050年の予測デバイスの普及とモバイル通信の進化により、メタバースの再現性は大幅に進化する。具体的には、デジタルとメタバースが同一化し、サイバー空間でリアルを再現できるようになる。
つまり、メタバースとリアルが共存する世界になり、人々は両方の世界を自由に使い分けるようになるだろう。モバイル通信は6G/7Gが普及し、超高速・超大容量・超低遅延のインフラが整備されるため、前途したメタバース先駆者が思い描く世界が現実のものとなっていることも想像できる。この世界においては一人の人間が二つの世界(リアルとバーチャル)を行き来し、双方で自分の理想とする姿を実現しているかもしれない。
2023年におけるメタバースは、限定的なものといえるかもしれない。しかし、メタバースで実現できる世界観や大きな市場性には、誰もが注目せざるを得ないポテンシャルを秘めている。
一方、近年はAIをはじめとするテクノロジーの進化も目覚ましい状況だ。2050年にメタバースで実現できる世界は、おそらく我々の予想をはるかに凌駕するものになるだろう。その世界では、テレワークという概念はなくなり、メタバース内で勤務するメタワークが普及していることも容易に想像できる。メタバースの普及はこれまでのリアルで築き上げられた価値観を大幅に塗り替えるかもしれません。
「私たちはなぜメタバースに夢を見るのか?」
その答えは先駆者たちの言葉に隠れているのではないでしょうか?メタバースは、インターネットの次の章であり、そこは公共性や公平性が担保された抑圧から解放する場所、そして新たな生活の場所など、これらの言葉からも分かるように無限の可能性があります。
もちろん、夢をみるだけでは終われません。しかし今、この夢を実現にするための技術が私たちの手の届くところまで来ているのではないでしょうか?