みなさんは欧米の富裕層が、どのように夏休みを過ごしているか想像できるでしょうか?
カリブ海を疾走する豪華ヨット、シャンペンとロブスター、ビキニ姿の美女たち・・・というステレオタイプな情景を思い浮かべるかもしれません。
しかしながら、富裕層でも、いや富裕層だからこそ、まとまった休暇の間に勉強しようという意欲があるのは当然でしょう。
アメリカの大手金融機関JPモルガン・チェイス:JPMorgan Chaseは、毎年その顧客向けに「夏の課題図書:Summer Reading Listを選定しており、本年も5月15日に25回目となる2024年版が発表されました。
J.P. Morgan Presents its 25th Annual Summer Reading List
私は例年、このリストを心待ちにしており、毎回その絶妙な選択に感嘆しておりますが、その理由は下記の5点にあります。
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I. Supercommunicators: How to Unlock the Secret Language of Connection by Charles Duhigg
著者は会話を効果的にするための最新の研究を基に、コミュニケーションのレベルを上げ、より強いつながりを築く方法を明らかにします。あらゆる会話の実用的、感情的、社会的な層を認識し活用することで、効果的なメッセージを伝える方法を、例を挙げて説明します。
SNSやメールの発展で単純な人と人とのコミュニケーションが紋切り型になりがちですが、今一度その状況を反省し再構築しようという試みでしょうか。無論、企業社会における、命令/指示/伝達の精度・効率の向上にも視点を置く書でしょう。
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II . The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness by Jonathan Haidt
著者は世界的に流行する10代の精神疾患に緊急の警告を表明します。スマートフォンに代表される新たなテクノロジーが子供の社会的および神経学的発達に深刻な悪影響を及ぼしていると主張し、睡眠不足、注意散漫、孤独、依存症等の大幅な増加を止めるために何ができるかを探ります。重要なのは、著者が集団行動を呼びかけ、この流れを終わらせるために私たち全員が取らなければならない道筋を概説していることです。
今年は教育関係の書籍が数点挙げられていますが、やはり後継者問題に直結しているためでしょう。本書は幼少期において、親の過保護と最新のテクノロジーに無防備に晒される事態について警鐘を鳴らします。
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III. Giants: Art from the Dean Collection of Swizz Beatz and Alicia Keys by Phaidon
アリシア・キーズとその夫で音楽プロデューサーのスウィズ・ビーツ(カシーム・ディーン)によりブルックリン美術館に設立されたディーン・コレクションから厳選した作品を集めた画集です。そのコレクションは基本、アフリカ系アメリカ人、アフリカ人、アフリカ系ディアスポラのアーティストです。
世界で3,000万枚以上のアルバム・セールスを誇るアフリカ系アメリカ人女性歌手、アリシア・キーズ(Alicia Keys)とその夫による美術コレクションで、彼らのルーツであるアフリカ系の芸術家中心の画集です。成功したアーティストによる社会貢献という意味でも注目すべき画集です。
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IV. Brave New Words: How AI Will Revolutionize Education (and Why That’s a Good Thing) by Salman Khan
著者は人工知能 (AI) が教育と職場の両方で学習をどのように変革するかについて探ります。新興技術によって、より使い勝手の良い教育システムを構築する方法の概要を述べ、デジタル化が進む世界で私たち全員が AI をどのように活用できるかについての思慮深い洞察を提供します。
AIの教育現場での活用は全世界的なテーマですし、書名からも前向きな姿勢が伺えます。
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V. Love & Whiskey: The Remarkable True Story of Jack Daniel, His Master Distiller Nearest Green, and the Improbable Rise of Uncle Nearest by Fawn Weaver
アメリカで最も象徴的なウイスキー・ブランドの知られざる物語。テネシー州リンチバーグを舞台にした本書ではジャック・ダニエルのウイスキー開発に重要な役割を果たした19世紀のアフリカ系アメリカ人の蒸留酒製造者、ニアレスト・グリーンの生涯を探ります。
「バーボンではなく、テネシー・ウィスキーだ!」という矜持を持つジャック・ダニエル社の物語です。私は1985年の夏、本書の舞台となるテネシー州リンチバーグの醸造所を訪れたことがありますが、山間の小さな町で、世界的なブランドが生み出されている光景に驚いたものです。
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VI. The Formula: How Rogues, Geniuses, and Speed Freaks Reengineered F1 into the World’s Fastest-Growing Sport by Joshua Robinson and Jonathan Clegg
本書は、ウォール・ストリート・ジャーナルの二人の著者による、F1の大胆な改革が如何にしてアメリカでの成功に結びついたか、その魅力的な物語です。企業、速い車、天才的な技術者、ドライバーのライバル関係、華やかな舞台設定など、F1が「突然」アメリカに上陸するまでに、実は数十年かかっていたことを詳しく述べています。
長い間、フォーミュラ・ワン:F1は欧州のスポーツという印象があり、戦略/戦術が複雑に錯綜するその競技は、単純な楕円形コースを爆走するレースが人気のアメリカでは馴染まないという論調もありました。しかし、2017年にメディア王、ジョン・マローン氏が会長を務めるリバティ社がF1の事業を取得したことから、米国でも人気が上がって来たようです。そればかりでなく、中東やアジアでの競技浸透にも成功しつつあります。
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VII. Secret Stays: Pioneering Hosts of the New Chic by Melinda Stevens, Issy von Simson and Tabitha Joyce
本書では現代の旅における力強い進化を反映する 22の隠れた名所を紹介します。クロアチアの人里離れた修道院から日本の町家まで、魅惑的な物件とその所有者に焦点を当て、本物のオーダーメイドのおもてなしから生まれるユニークな体験が記録されています。
人と違ったモノ、より洗練されたモノ、これらは富裕層の嗜好ですが、旅にもその傾向が反映されます。当然、高いコストが求められますが、逆に過度に高価で、かつ大衆迎合的となると富裕層は離れてしまいます。手を変え、品を変えのようですが、日本のインバウンド産業への参考ともなるかもしれません。
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VIII. Finding Fortunato: How a Peruvian Adventure Inspired the Sweet Success of a Family Chocolate Business by Adam Pearson
著者は私たちをペルー北部のジャングルの旅に連れ出し、かつては絶滅したと考えられていた伝説のナシオナル・ホワイト・カカオ豆を発見した起業家一家の感動的な物語を伝えます。成功の鍵は、伝統的で非倫理的な供給網を破壊し、ペルーの地元農家と直接取引することだと気づいた一家は、後に「チョコレート界のロレックス」と呼ばれるようになるフォルトゥナート・チョコレート社を設立しました。
仲買人が利益を独占して、生産農家を容赦ない貧困に陥れる代わりに、農家との直接取引で世界が称賛するチョコレートを生みだす、そんなファミリー・ビジネスとフェアトレードの勝利の物語です。『「公平・公正な貿易」、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」』の確立は時として競争優位性を生みます。
*『』内はFair Trade JapanのHPより
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IX. Uptime: A Practical Guide to Personal Productivity and Wellbeing by Laura Mae Martin
本書は生産性を高め、燃え尽き症候群を防ぎ、より良いワーク/ライフ・バランスを実現するための手順を紹介します。大量のメール、予定表の過密、難しい会議など、どんな状況でも、時間を効率的に管理し、優先事項に焦点を当て、効果的なシステムとルーチンを維持するための具体的な手順を示しています。
日本でもコスト・パフォーマンスにあやかり、タイム・パフォーマンス、タイパなどと云われますが、空いた時間をゲームに浪費するようでは意味がありません。より良いワーク/ライフ・バランスの実現にはどのような技術が必要なのでしょうか?
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X. The Secret Society of Aunts & Uncles by Jake Gyllenhaal and Greta Caruso
俳優のジェイク・ギレンホールと、その幼なじみの親友グレタ・カルーソによる、風変わりで心温まる絵本。叔母さんと叔父さんが子供たちの人生で果たすユニークで楽しい役割を讃えています。
2005年公開の李安監督による『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞助演男優賞候補に挙げられたジェイク・ギレンホールも絵本作家の一角に並ぼうとしております。近年、ショウ・ビジネス界の有名人がこの分野に進出するケースが流行りのようです。
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XI. The Worth of Water: Our Story of Chasing Solutions to the World’s Greatest Challenge by Gary White and Matt Damon
世界的な水危機を終わらせるという共通の使命を意識する著者の二人は、飲料水不足に対処する技術を地域社会や家族に提供する旅に読者を連れ出します。実行可能な解決策を見つけるための試行錯誤を概説し、水危機が集団行動によって解決可能であることを示しています。
25年周年記念に相応しいとして選ばれたのは、環境問題でも、特に水問題に焦点を当てた本書でした。著者の一人はハーバード大学中退の意識高い系:WOKEの俳優マット・デイモン。2024年はエルニーニョ現象の再来も予想され、世界的に干ばつの影響も懸念されており、時宜を得たものでしょう。
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さて、25年前と異なり、ここに挙げた多くの書籍が電子書店を通じて比較的簡単に入手でき、また翻訳も期待できそうなものも何点かありそうです。
遅い夏休みに如何でしょうか?
[ 2024.8.30 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。