コラム

犯収法改正で変わる対面本人確認 ~要点と実務対応~



Ⅰ :犯収法における対面本人確認の見直し

2025年12月5日、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」施行規則の改正案が公表され、特定事業者が行う対面での本人確認について、確認方法の見直しが進められています。

対面確認方法の見直しについては、デジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において以前から方向性が示されていましたが、今回の公示と意見募集開始をもって、いよいよ制度改正に向けた実務的な検討段階に移ることになります。

本記事では、改正案の要点を整理したうえで、実務に落とし込むにあたって確認しておきたいポイントを整理します。今後の対応検討の一助としていただければ幸いです。

Ⅱ :犯収法改正の要点

今回の改正案では、対面での本人確認について、外観確認だけでは判断しにくい偽造・改ざんや、真正な書類を用いたなりすまし等への備えを意識し、提示(目視確認)だけで完結しない手順への見直しが行われています。

具体的には、提示に加えてICチップ情報の読み取り等による確認を行い、また用いる本人確認書類の種類によっては住所への到達確認(転送不要郵便)も組み合わせることによって、本人性を補強する形となっています。

今回の改正対象となっている主な方式について、対面本人確認の手順がどのように変更されるか、以下具体的にご説明します。

1. 改正後イ方式:ICチップ情報の読み取りまで含めた手順に変更
従来のイ方式では、提示を受けた本人確認書類を目視で確認する運用が中心でしたが、改正後は、提示に加えてICチップ情報を読み取り、画面表示で確認することとなります。

本方式の対象となるのはICチップ付きの顔写真付き本人確認書類であり、マイナンバーカード・運転免許証・在留カード等がこれに該当します。

  • 本人限定郵便を用いる方式(改正後チ方式)においても、これまでは「本人確認書類の提示のみ」で足りるとされていたところ、イ方式同様に「提示+ICチップ読み取り」までの確認が求められるようになっています。

2. 改正後ロ方式:住所への到達確認(転送不要郵便)を組み合わせる場面が整理
改正後ロ方式では、対面での確認に加えて転送不要郵便を組み合わせることとなっています。具体的な手順については、本人確認書類の種類(ICチップの有無、顔写真の有無)に応じて以下のように整理されています。

  • ICチップが組み込まれていない顔写真付きの本人確認書類(例:身体障害者手帳等)
    → その場で提示を受けたうえで、取引関係文書を転送不要郵便として送付する。
  • ICチップはあるが、顔写真がない本人確認書類(例:16歳未満の在留カード等)
    → 提示に加えてICチップ情報の読み取り等を行い、さらに取引関係文書を転送不要郵便として送付する。
  • ICチップが組み込まれておらず、券面に顔写真が貼り付けられていない本人確認書類
    → 偽造・改ざん対策が施された本人確認書類(例:住民票の写し等)に限り用いることができ、提示を受けたうえで取引関係文書を転送不要郵便として送付する。

3. 改正前のハ方式・ニ方式は削除
今回の改正により、従来ハ方式・ニ方式として利用されていた、本人確認書類を複数組み合わせて提示する方法や、提示に加えて別の本人確認書類等(補完書類やその写しを含む)の送付を受ける方法が廃止されます。

対面での本人確認は、書類の組み合わせで本人性を補う方法から、ICチップ情報の読み取り・転送不要郵便を軸にした確認へと整理されることとなります。

4. 改正後ヲ方式:非居住外国人における例外対応
上述の方法の実施が難しい非居住外国人等について、改正案では、写真付き本人確認書類の提示を受ける方法(改正前のイ方式と同等)が存置されており、これに伴ってヲ方式が新設されます。

なおこの方式は、特定事業者側において、当該顧客が非居住外国人であることを確認できることが前提とされています。例外的な取扱いが残る分、実務では「誰が、何を根拠に、いつ確認するか」を明確化しておくことが重要になります。

Ⅲ :要点を踏まえた実務上のポイント

ここまで、今回の法改正によって「何が変わるか」を解説してきました。

ではこうした要件を、日々の窓口・店舗等の手続に落とし込む場合、どこから考えると整理しやすいでしょうか。キーワードは複数ありますが、実務での検討は大きく「手順」「運用」「証跡」「例外」の四つに分けて捉えると、論点が散らばりにくくなります。

1. 手順:どこまで確認したら「本人確認完了」なのか
イ方式を中心に、対面本人確認は提示だけで終わらず、ICチップの読み取り等を含む手順として整理されます。ここで先に決めておきたいのは、読み取り等の作業手順そのものに加えて、「どの状態をもって本人確認が完了したと扱うか」です。

例えば、読み取った結果について何を確認するのか、券面と表示内容が一致しない場合にどのように扱うのか等、手順として明確にしておくと、担当者による判断の違いが出にくくなります。

2. 運用:現場で無理なく回すための「例外時の動き」を含めて整える
手順を決めても、現場では読み取りエラーや端末不調など、想定外の事象が起こり得ます。そこで、再試行の回数、別手順へ切り替える条件、顧客への説明の仕方などを、運用ルールとして揃えておくことが重要になります。こうした点をあらかじめ整理しておくと、対応のばらつきが抑えられ、窓口対応が安定しやすくなります。

また、ロ方式を用いる場合は、郵送工程も運用の一部として整えておく必要があります。取引関係文書を何にするか、送付のタイミングをどこに置くかに加え、返送(宛先不明・転居等)が出た場合に本人確認をどう扱うのか(再送するのか、別手順へ切り替えるのか等)を決めておくと、対応の一貫性を保ちやすくなります。

3. 証跡:後日説明できるよう、確認記録と添付資料の扱いを整理しておく
本人確認は、後日、説明が必要になる場面(監査・検査、問い合わせ対応等)を想定しておくことが大切です。そのため実務では、採用する本人確認方法に照らして、何を確認記録として残し、何を添付資料として扱うかを、社内の記録・保管のルールに沿って整理しておくことになります。保存期間やアクセス権限など、情報管理面の要件も併せて確認し、必要な範囲で無理のない形に整えることが、運用負担の抑制にもつながります。

4. 例外:例外運用は前提条件を具体化しておく
本改正では、非居住外国人等を対象に現行方法が一部存置される一方で、「事業者側で非居住外国人等であることを確認できること」が前提とも示されています。例外が残る場合、実務で必要になるのは、どの顧客が例外の対象になるのかを、誰が、どの資料を根拠に、どの時点で判断するのかを決めることです。判断根拠が曖昧だと、担当者によって対応が分かれやすくなります。対象判断の根拠、判断する人、判断するタイミング、判断結果の記録まで含めて手順化しておくと、運用の見通しが立てやすくなるでしょう。

Ⅳ :今後の対応スケジュールについて

本改正について、施行日は2027年4月1日が予定されています。

施行まで一定の期間がありますが、対面本人確認は窓口・店舗等の業務の進め方に影響します。準備が遅れると、手続に要する時間が延びたり、問い合わせが増えたりする可能性があるため、早めに手順を固めていくことが重要です。

まとめ

今回の改正案では、対面本人確認について、提示だけで完結させずにICチップ情報の読み取り等による確認(用いる本人確認書類によっては、転送不要郵便による住所への到達確認)まで求めることとしています。

今後の検討の中心は、法令要件を踏まえたうえで、「手順」「運用」「証跡」「例外」を無理のない形で実務に落とし込むことへ移っていきます。施行日までの期間を活用し、整理できるところから順に整えていくことが、負担を抑えた対応を進めるうえで重要になってくるでしょう。

  • 本稿は2025年12月に公表された改正案に基づく整理であり、今後変更される可能性があります。

[ 2025.12.29 ]


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