コラム

話題の生成AIとは?金融機関での活用事例や注意点を詳しく解説

話題の生成AIとは?金融機関での活用事例や注意点を詳しく解説

質問に対する回答が手軽に得られる「ChatGPT」が注目されるようになって久しい。ChatGPT は、従来のAIと異なる特徴を持つ「生成AI」をベースにしたツールだ。しかし生成AIとはそもそもどのようなシステムなのか、正確に理解している人はさほど多くないだろう。

本記事では生成AIに関する基礎知識や、金融機関での活用方法などを詳しく解説する。

1:生成AIとは

生成AIとは「ジェネレーティブAI(Generative AI)」とも呼ばれるAI(人工知能)の一種で、さまざまな新しいコンテンツを生み出す技術のことだ。

今回の審査結果を受けて、日本は3年間にわたって指摘事項の改善状況を毎年報告することが義務付けられた。ここで注目したいのは、その指摘事項の中で「優先的に対応すべき事項」として挙げられた以下の項目だ。

●従来のAIとの違い

AIを実現するための技術として膨大な量のデータを学習し、予測・判断する「機械学習」がある。その学習法は「教師あり学習」、「教師なし学習」、「強化学習」、「深層学習」の大きく4つに分けられる。

「教師あり学習」とはその名の通り、大量のデータを教師に見立てて学習していく手法だ。この手法では人間が正解となる大量のデータを与え、特徴や傾向を学習させていくシステムになっている。

これに加え、AIの精度を向上させることに深く関与しているのがディープラーニング(深層学習)だ。ディープラーニングとは、人間の脳神経回路をモデル化した「ニューラルネットワーク」と呼ばれる仕組みを利用したもので、データの特徴をより深く多層的に自動で抽出する技術である。これによって従来の機械学習では難しかった複雑で扱いづらいデータでも、AI自身で解析し、処理できるようになった。

生成AIの特長はこれらの技術を駆使して、Web上に存在する大量の情報を学習している点にある。大量のデータを学習することによって、文章や画像、音楽など様々な領域で独自性の高いコンテンツを生み出せるようになった。これまで人間が手動で行なっていた作業を大幅に効率化したり、思いつかなかったアイデアを形にしたりすることも可能になっている。

さらにChatGPTでは、より人に近い回答を行えるように「ファインチューニング」の技術が用いられている。ファインチューニングとは、すでに学習したモデルに新たな層を追加し、モデル全体を再学習する技術だ。個人やそれぞれの企業が持つデータを使用して追加学習ができるようになったことで、ChatGPTを自分たちの特定の用途に合わせて調整できるようになった。

●注目されるようになった背景

生成AIが画期的であったのは、0から1を「生み出す」点である。従来のAIは人間が決めたルールや学習済みのデータの中から回答を「予測する」するものだ。しかしAI自身が自ら学習し人間が与えていないデータさえもインプットすることで、生成AIはまったく新しいアウトプットを生み出すことができるようになった。これにより、より創造的な作業も自動化できるようになったのである。

また、出力結果の精度や生成スピードが大幅に向上し、質問に対する回答や文章表現の自然さなどの精度が、ビジネスシーンで問題なく利用できる程度にまで向上したことも生成AIが注目されるようになった理由の一つといえるだろう。

さらに、無料生成AIサービスが登場し、以前よりも生成AIが身近な存在になったことで一般的な認知度も高まっている。文章生成AIの「ChatGPT」や画像生成AI「Stable Diffusion」、動画生成AI「Gen-2」などさまざまなサービスがリリースされており、凄まじい勢いでユーザー数を増やしている。

●生成AIの種類

生成AIは、さまざまな種類のクリエイティブな成果物を生み出せるのが特徴だ。各ツールに対応した形式でデータを入力することで、オリジナルの成果物を生み出せる仕組みとなっている。 たとえば文章生成AIでは、AIに行動を促す「プロンプト」と呼ばれる文章を入力することで、適切な回答や文章を得られる。画像生成AIや動画生成AIなら、文章で指示したイメージに近い画像や動画を作成できる。文字起こしAIであれば、音声ファイルを入力すると、テキストデータが出力されるといった具合だ。

2:金融機関における生成AIの活用方法・事例

生成AIはその汎用性の高さから、さまざまな企業で導入が検討されている。帝国データバンクの調査によると、生成AIの活用を検討している企業は6割以上存在するようだ。

金融機関も例外ではなく、すでに国内外のいくつかの金融機関では活用が期待されている。実用化が進めば、各業務において大幅に作業工数やコストを減らせるようになるだろう。

●顧客対応

カスタマーサポートの分野では、チャットボットによって回答案を提示する際に生成AIが大いに役立つだろう。パターン化された業務の効率化は、生成AIが得意とするジャンルでもある。24時間365日、クオリティの高いサービスを顧客に提供できるようになるはずだ。

●事務処理

与信審査やKYCなどにおいては、AIがすでに用いられているケースもある。しかし生成AIを活用することで、将来的に稟議書の作成や申し込みの支援など、これまで手動で行っていたプロセスを自動化できる可能性は少なくないはずだ。

文章の要約や翻訳、資料作成などの事務処理の分野において、生成AIはさまざまな場面での活用が期待できる。ノンコア業務はAIに任せ、人間ならではの業務に集中できれば、全体的な生産性向上が狙えるだろう。

実際に、日本の金融機関では銀行を中心に生成AIの導入が進んでいる。

三菱UFJフィナンシャル・グループでは、生成AIを行内の事務手続き照会や通達の添削など110を超える業務で導入することを決定した。本部の企画書や通達、稟議書やコールセンターのマニュアルなど、CD140万枚分に相当するデータを生成AIが参照する情報として取り込む予定となっている。

三井住友銀行では業務を支援するAI「SMBC-GPT」の整備に向けて、2023年4月から実証実験を開始している。京都銀行では地域金融機関として初めて「ChatGPT」の試行導入が決定された。

3:生成AIを活用する際の注意点

生成AIはビジネスシーンでの利用に大きな期待を寄せられている一方で、先ほどの帝国データバンクの調査結果にもあるように、既に業務で活用している企業は9.1%に留まる。活用にいたらない理由の一つに生成AI特有のリスクが挙げられる。

ここでは、生成AIを利用する場合、どのようなリスクがあるのか確認しておこう。

●ハルシネーションが起こる可能性がある

ハルシネーションとは、AIが幻覚を見ているかのように事実とは異なる情報を出力してしまう現象のことを指す。生成AIは「0から1を生み出す」機能があるといわれてはいるものの、大量のデータの学習を基盤として成り立っているシステムだ。つまり、学習するデータ内に偏りや誤った情報が含まれていると、誤った結果がアウトプットされることも珍しくない。 そもそも、正しい情報を出力することを目的として訓練されるわけではなく、ある単語に対し次に続く確率が高い単語を予測する言語モデルでは、文脈にあっていたとしても真実とは異なる情報を出力してしまう可能性もある。 ハルシネーションが発生した場合、生成AIから得られた情報を業務にそのまま活用してしまうと、誤った判断につながるリスクがあるだろう。また顧客向けのチャットボットにおいて誤った回答を出してしまった場合は、顧客からの信頼を損ねてしまうリスクがあるため注意したいところだ。

●情報漏洩のリスクがある

とくに金融機関が注意したいのが情報漏洩のリスクだ。生成AIに入力したデータの中に個人情報や機密情報が含まれている場合、その情報が生成AIの学習に利用されると第三者に機密情報が漏洩する恐れがある。 生成AIが保有する大量の顧客データや金融情報が、悪意のある第三者から意図的に抜き取られるリスクについても考えておかなければならないだろう。特殊なプロンプトを入力することで、個人情報や機密情報などを抜き取られる可能性も少なくない。

●説明責任を果たせないリスクもある

生成AIは膨大な情報を高速で処理するため「なぜその結果が出力されたのか」を説明することが難しいという問題がある。 ヒューマンエラーであれば、原因を分析し一定の対策を講じることが可能だ。しかし、生成AIの結果をもとに業務を進めた結果、顧客に損害を与えてしまった場合は、問題の解決はおろか、その原因を追求・説明すること自体が困難になるだろう。説明責任を果たせなければ、企業としての信頼低下を招く可能性がある。

4:金融機関で生成AIを上手く活用するためのポイントは?

金融機関で生成AIを適切な形で活用するためには、利用に関する「ガイドライン」を作成し、浸透させることが大切であろう。ガイドラインを策定することによって、生成AIの倫理的な利用と安全性が担保されるはずだ。

ガイドラインを作成する際は、生成AIを導入することによって生じるリスクの分析から始めることが重要だ。そのうえで、具体的な使用例や注意点などをプラクティスとしてまとめていきたい。ガイドライン策定後も、利用者のフィードバックに応じて随時見直すことも大切になってくるだろう。

なお、東京都ではすでに職員に向けて「文章生成AI利活用ガイドライン」を策定している。また、3メガバンクや生損保など金融大手が加入する「金融データ活用推進協会」では生成AIの活用に関する共通指針が年内にも示されるようだ。導入を検討している金融機関業は、これらの事例に注目しておくとよいかもしれない。

5:今後も金融機関では生成AIの活用シーンが増える可能性も

今後は金融機関、とくに資産運用の分野でAIが活用されることが期待されている。

ある国内証券会社では、投資リポートを生成AIに学習させ、投資対象として魅力的な銘柄を抽出する、といった試みも行われているようだ。正確性をどのように担保するのかといった問題もあり、現段階では実用化に至っていない。しかし、海外では一部金融機関で顧客のニーズに合わせて銘柄を選択するソフトウェア(いわゆるロボアドバイザーのようなサービス)の開発が進んでいるといった報道もあり、今後研究が進めば実用化される可能性は十分あるだろう。

6:まとめ

生成AIを活用することで人間がノンコア業務から解放され、自身のコア業務に集中できるようになる可能性がある。業務を進める上での強い味方になっていくことも十分想定されるだろう。

しかし、生成AIは最新技術であるため、一定のリスクが存在するのも事実だ。そのため、まずは影響の少ない部分から実験的に導入し、今後リスクがクリアになった際はより重要な業務でも利用できるよう、進めていくとよいだろう。