【流通市場】
● 立会場廃止、全取引システム化(1999年4月30日)
● 完全週休2日制スタート(1988年2月4日)
立会場廃止により取引所の花形であった場立ち(ばたち)が一掃され、その取引は全てシステム化されました。当時、兜町の古老からは場味(ばあじ)が読めなくなったとの嘆き節が聞かれました。
完全週休二日制の導入は、証券界の労働環境改善という意味もありますが、実務的には同日決裁がなくなった点が思い出されます。当時、土曜日には決済執行がなかったことから、水、木曜日の取引決済は翌週の月曜日に集中して、取引によっては顧客口座が資金不足に陥ることがありました。
【仲介業者】
● オンライン専業証券の登場
● 銀行系証券の発足と発展
ネット取引が普及し、顧客にとって仲介業者の選択肢が大きく広がりました。加えて日本版金融ビックバンにより自由化された取引手数料の一段の低減と、取引の迅速化が進みました。 1998年11月24日、山一證券の自主廃業に端を発した四社体制の崩壊後、銀行系証券がそれに取って代るように勢力を拡大し、現在では五社体制とも称されるようになりました。
【管理監督】
● 免許制から登録制へ(1998年12月1日施行)
● 金融庁の発足(2000年7月1日)
「箸の上げ下げまで」と揶揄された大蔵省の管理監督が続いた時代から、証券業界が自助努力により自らを律する時代へと大きく転換しました。 一方で固定手数料制等、業界保護の諸制度が撤廃され、競争が促進され、その最終章が金融庁の発足でした。
【決済機構】
● 証券保管振替機構発足(1991年10月9日)
● 株券電子化開始(2009年1月5日)
集中決済の進展により、証券会社での株券保管、店頭での株券や現金の出し入れ等々が一掃され、不正や事故のリスクが大幅に減りました。
【その他】
● 金融ビッグバン
1996年に橋本内閣が打ち出した「日本版金融ビッグバン」は、フリー(自由)、 フェア(公正)、グローバル(国際的)の3つの原則を掲げ、2001 年までに東京市場 をニューヨークやロンドンと並ぶ国際的な金融・証券市場とすることを目指すものでした。
基本的考え方
○明確な理念の下での広範な市場改革
本改革は、Free、Fair、Globalの3原則に照らして必要と考えられる改革を全て実行。
○利用者の視点に立った取組み
各審議会の報告書の主な内容は、利用者の立場に立った改革という観点から、月刊資本市場(公益財団法人 資本市場研究会)の 2024年1月号(No. 461)の巻頭に日本証券業協会会長 森田 敏夫氏による『これからの証券市場を展望して』と云う一文が寄せられております。(要約は筆者)
Ⅰ 投資家・資金調達者の選択肢の拡大
Ⅱ 仲介者サービスの質の向上及び競争の促進
Ⅲ 利用しやすい市場の整備
Ⅳ 信頼できる公正・透明な取引の枠組み・ルールの整備
・・・の4つの視点を網羅。
○金融システムの安定
本改革の実現に当たり、金融機関の不良債権問題の速やかな処理を促進するとともに、我が国金融システムの安定性確保とこれに対する内外からの信頼確保に万全を期することとする。
(金融庁HPより)
この大きな変革により、顧客に提供可能な商品が一気に多様化し、同時に手数料競争に突入しながらも、証券業は相当に厳しく自らを律することが求められる金融業に生まれ変わっていきました。
また、あまり話題には上りませんが、従来の証券会社における国際業務が「日本株の海外投資家への販売」という輸出中心であったのに対し、「外国の株式の国内投資家への販売」という輸入業務にも業容を拡大していったのもこの時代です。
1980年代以降は年金基金や保険会社などの機関投資家に加えて海外投資家の参入も進み、内外の資金流入が日本の証券市場を多様化し、さらなる国際競争力を高める・・・・・・はずでした。
月刊資本市場(公益財団法人 資本市場研究会)の 2024年1月号(No. 461)の巻頭に日本証券業協会会長 森田 敏夫氏による『これからの証券市場を展望して』と云う一文が寄せられております。(要約は筆者)
1.国民の資産形成支援の強化
2.SDGsの達成に向けた取組み
〜サステナブル・ファイナンスの推進〜
証券業界における当該分野に関わる専門家不足を見据えて、2023年7月、「サステナブル・ファイナンス推進宣言附属書」を改訂し、サステナブル・ファイナンスに関する市場関係者の人材育成強化に向けた取組みを推進することを明確化にした。
3.スタートアップ育成の支援
協会では、特定投資家向け銘柄制度(通称J-Ships)を2022年7月に創設、特定投資家と呼ばれるプロ投資家に、一定条件の下、証券会社が非上場企業の株式等の勧誘を行うことを可能とした。
4.デジタルトランスフォーメーション(DX)の促進
目論見書や投資信託の運用報告書など、交付書面の原則デジタル化の実現に向けた体制作り。
サイバーセキュリティについても、会員証券会社に向けて、様々な研修を行う。
5.高齢化社会に対応した金融サービスの実現に向けて
協会では、高齢化社会に対応した資産運用・管理や代理人等取引のあり方について、任意代理等の法的制度に関し、今後、一定の方向性が見出せるよう取り組む。
6.コンプライアンス相談窓口の設置
2023年9月、協会に「コンプライアンス相談窓口」を設置。同時に、様々なコンプライアンス上の規制、特に既存のルールに、形式的になっているものや時代遅れのものなどがあれば、スクラップアンドビルドにも取り組んで行く。
年頭にあたり、証券界の課題を実務的に簡潔にまとめておられますが、長期的な課題に組み直すと下記の四点が浮かび上がります。
1. デジタル社会への対応
◆<ロボ・アドバイザー>
主としてオンライン経由で、①顧客の年齢・年収・保有金融資産・投資目的・リスク許容度等のプロファイリングを実施し、②それに基づく運用方針に沿った、ETF・投信等による投資一任等による資産運用を提供するサービスです。
顧客にとって、一部富裕層や機関投資家が享受してきたような高度な投資助言サービスを低コストで少額から受けることができます。
富裕層にとっても、ロボ・アドバイザーを併用することで、担当者の個性に依存しない、より中立的なサービスを受けることが期待できます。
◆<個人金融資産管理(Personal Financial Management:PFM)>
銀行、証券、クレジットカード、電子マネー、ポイントカード等の情報を収集し、家計簿を作成するサービスです。
ばらばらの金融機関に存在する各種情報を自動的に収集・統合して顧客に提供するPFM は、多様化する金融チャネルを利用する個人にとり、大きな武器となります。
退職後の生活資金管理、公的年金や住宅ローン、子弟向きの積み立てなどの情報が集約されるとすれば、実際の課題解決を提供することが出来る業者には優位性が見られそうです。
◆<個人向けトレーディングツール>
機関投資家、特にヘッジファンドが駆使するようなアルゴリズム・トレーディングを個人向けに提供するサービスや、
AIによって価格変動パターンを認識してし、自動取引アルゴリズムを生成するサービスもみられます。
◆ <SNSの参加者間で投資関連情報を共有するソーシャル・トレーディング>
参加者間で様々な投資関連報を共有する「コミュニティ型」と情報共有する他者の投資戦略を真似る「コピートレード型」が現れております。
前者には参加者間で広く情報を集めることで、企業収益の予測を行うものもあり、その優位点はアナリストや証券会社の偏り:バイアスが影響しない予測にあるでしょう。
後者には参加者が銘柄や投資成績といった情報を開示し、参加者間で取引情報が公開・共有され、投資成果の高い参加者の取引を真似ることができるものです。
◆<モバイル証券の登場>
スマートフォンの普及を背景として、そのアプリ上でのサービス提供に特化した証券会社が登場しています。
米国では、2013 年創業の Robinhood がスマートフォン上で手軽に株式を売買できるサービスを提供していますが、SNSなどで話題となっている株が集中的にモバイル証券経由で頻繁に取引され、株価が暴騰・暴落する現象、いわゆる「ミーム株(はやり株):Meme Stock」という市場混乱要因を生み出したことは記憶に新しいところです。
◆<小銭、ポイントの自動積立>
買い物時のお釣りやポイントを、あらかじめ指定した ETF や投資信託で自動的に積み立てるサービスも無視できないサービスです。
◆<ブロックチェーン>
決済・インフラ分野において、ブロックチェーン技術の金融市場インフラへの適用が検討されています。
ブロックチェーン自体は暗号資産(Crypto Assets)で脚光を浴びましたが、証券決済においてこの考え方を導入しようとの試みが検討されておりますが、 課題は多いようです。
<参考>
[2024.8.6 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。