私の年末年始の決まり事は、「紅白歌合戦」を鑑賞し、「ゆく年くる年」で新年を迎え、おもむろに初詣に繰り出すというものです。
“歌は世につれ”という先人の知恵どおり、四時間ほどの間に一年の世相を振り返り、日本各地の厳かな表情に身の引き締まるような感慨を覚えつつダウンジャケットを羽織り、御町内の氏神さまをお祀りする神社へと向かいます。
当地の御祭神は毘沙門さまで、五穀豊穣、商売繁盛、家内安全、長命長寿、立身出世といった、現世利益を授ける七福神の一柱として信仰されております。
それに加えて、毘沙門さまは江戸時代以降、特に勝負事に利益ありとして崇められたため、この神社も株式等の市場関係者の信仰を集める、密かなパワースポットなのです。
例年、お参り後に御神籤(おみくじ)を引き、新年の吉凶に対する御神託を伺うのも習慣ですが、こちらでは毘沙門さまらしく、御神籤にも、願望、待ち人、恋愛、家庭などの項目の最後に相場(賭)という一項があります。
昨年2024年元旦にはこんなお言葉を頂戴しました。
【運勢 吉】
相場(賭) 油断すると不利になる
では、実際に2024年はどのような年だったのか振り返ってみましょう。
日本経済新聞をはじめとする各種報道機関が発表した通年の回顧を月次ごとにまとめると、下記のようになります。
1月年間を通じた高値は7月11日につけた4万2,224円02銭、安値は8月5日の3万1,458円42銭で、高値/安値の値幅は1万765円60銭と過去3番目の大きさでした。
年前半は生成AI(人工知能)ブームに伴う半導体関連株の上昇や上場企業の資本効率改革を背景に大きく上げ、年後半は海外投資家が売りに転じた影響等で大きく下げる局面もあった一方、米景気の堅調さや日本の上場企業による自社株買いが相場の支えとなりました。
これまでが大方の投資家の御記憶に新しいところですが、私自身が気づきました点を以下、記してみたいと思います、。
まずは悪い記憶から・・・・・
・市場関係者の不正
昨年一年間で、証券取引等監視委員会が報道発表した、不正取引関係の事案は下記の15件でした。
日 時 | 事 案 |
---|---|
2月13日 | 株式会社ニチリョク株券に係る相場操縦事件の告発について |
2月16日 | 株式会社コンテック役員による公開買付けの実施に関する事実に係る伝達及び取引推奨行為並びに当該役員から伝達を受けた者3名による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
3月22日 | 大盛工業株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について |
3月26日 | Quadeye Trading LLCによる高速取引に係る偽計に対する課徴金納付命令の勧告について |
3月29日 | タツタ電線株式会社社員による内部者取引及び情報伝達行為並びに同社員から伝達を受けた者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
5月24日 | 株式会社小僧寿し役員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
5月24日 | 株式会社小僧寿しの子会社社員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
6月4日 | Abalance株式会社株券に係る内部者取引事件の告発について |
6月14日 | 株式会社ストリームメディアコーポレーションとの契約締結交渉者の社員から情報伝達を受けた者による内部者取引及び当該社員による重要事実に係る伝達行為に対する課徴金納付命令の勧告について |
7月26日 | ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式に係る風説の流布に対する課徴金納付命令の勧告について |
9月13日 | 株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド役員からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
9月25日 | 野村證券株式会社による長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について |
10月25日 | 株式会社アルファクス・フード・システムとの契約締結交渉者による取引推奨行為並びに同契約締結交渉者及び同社役員から情報伝達を受けた者4名による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
12月23日 | 東京証券取引所社員が関与した内部者取引事件の告発について |
12月23日 | 金融庁職員による内部者取引事件の告発について |
私の記憶では、証券取引等監視委員会の発足以降、東京証券取引所、および金融庁の職員がインサイダー取引により摘発された事例は初めてではないかと思います。
市場取引の公正性を担保し、監視する組織の職員が不正に手を染める事態は、その信頼性ばかりでなく、あらゆる市場関係者の利益を大きく毀損します。
組織における悪意の発見は意外と重いテーマですが、それはそれとして、不正根絶のための関係者による不断の努力が求められます。
・拡大するグローバル投資資金の流入
ボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)は、グローバルアセットマネジメント・レポートとして、資産運用市場と運用会社の動向についてまとめたレポートを毎年発行しております。
昨年5月21日、2024年版として「AI and the Next Wave of Transformation」を発表しました。
そこにはハッキリと、一昨年の2023年における世界規模での運用資産の回復、すなわちコロナ禍を経験した投資家のマーケット回帰がハッキリと示されております。
この傾向は2024年も継続していたものと推察でき、それが市場を押し上げていた要因の一つと考えられます。
株式市場だけを見ても、南北アメリカ、アジア・パシフィック、欧州・中東・アフリカの株式市場全体の時価総額は18.15%増と、大幅な上昇を示しております。
⦁以下図表は全て国際取引所連合:World Federation of Exchanges(WFE)の統計資料より筆者が作成
・アメリカ一人勝ち
同じ表からは、欧州・中東・アフリカ地域の低迷、南北アメリカ地域の一人勝ちという特徴が表れております。
さらに、そのような状況の中、東証とニューヨーク市場との対比を見てみましょう。
ニューヨーク市場とナスダックは。各々時価総額が3割以上も増加していますが、東証は8.4%の増加にとどまり、グローバルな増加率18%にも到達しておりません。
特にナスダックの増加率は年間36.6%増という凄まじい数字を上げており、アップル、マイクロソフト、エヌビディア等の、IT/AI革命を担ってきた企業の勢いを実感します。
・東証の位置は
それでは、ニューヨークと東京は、世界株式市場の時価総額に対し、どの程度の比率を占めるのでしょうか?
この数字からはニューヨークとナスダックを合計した時価増額が、年間を通じて増加し、年末には世界市場の半分を占めるまでに成長している姿がみられます。
一方、東証は年間を通じで比率が低下し、年末には5%ギリギリの水準にとどまります。
ダイナミックな企業、特に革新的な製造業が資金調達するナスダックと、小粒なビジネスモデルの品評会のような東証のグロース市場では競争にならないという事実が、私たちに突きつけられます。
岸田前首相の肝いりで2022年を「スタートアップ創出元年」と銘打ち各種政策を推進しておりますが、資本市場も並走しながら、その拡大を期待したいところです。
昨年は、投資資金の流入がありながら、腰が入った投資よりも、裁定や思惑により指数が大きく振れました。
また、植田ショック、石破ショックのように、要人発言に一喜一憂した相場でもありました。
その意味では年初の御託宣、「油断すると不利になる」は的を射ていたようです。
2025年1月元旦、その御託宣はこんなものでした。
【運勢 小吉】
相場(賭) 適度にせよ 身を破(やぶ)る
如何でしょうか?
<参考>
[2025.01.29 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。