「DERMATOGRAPH」の語源はギリシャ語です。「dermato」は「皮膚」、「graph」は「書く、記録する」ということ意味を表しています。つまり「皮膚に書けるもの」という意味で、もともとは、皮膚に書く目的で開発され、医者が手術で切開する場所にマークするなどに使用されていたと思われます。
現在発売している商品は、皮膚への筆記用ではありません。三菱鉛筆では、昭和30年から製造しています。最初は木軸で、色は赤・青・黒・黄の4色でした。昭和33年頃には、軸を削らなくても済むように紙巻になり、現在は12色発売しています。紙はもちろんのこと、ガラスや金属、フィルムにも書くことができます。
※「DERMATOGRAPH/ダーマトグラフ」は、三菱鉛筆の登録商標です。
私が仕えた証券界の或る大物は、常に赤色のダーマトグラフを手にされておりました。
新聞を読む際に、気になる見出しや語句に赤マルや赤線を引くその様子は、何やら手練れ(てだれ)の職人技のように見えたものです。
しかながら、当方が何か報告をする際に、持ち込んだ資料の上にダーマトグラフが動き回ると、こちらの主旨が見透かされたり、挙句の果てにはクエスチョンマークまで大書されたりと、冷や汗をかいたものです。
「手を動かすことで認知機能が連動される」というエンボディード・コグニション(embodied cognition)の適例でしょうか、それとも単に赤線を引くことにより集中して記憶の定着が促されるのでしょうか。
あるいは、線を引くことで「読む」から「考えながら読む」アクティブ・リーディング(能動的読書)に移行し、脳が積極的に情報処理を行うようになり、理解と記憶が深まるのでしょうか、それとも視覚(読む)+運動(線を引く)というマルチ・モーダル処理により情報がより強く脳に残るのでしょうか。
そんな理屈はさておき、ダーマトグラフを手にしたその方の立ち居振る舞いを知った瞬間、若き兵隊だった私は、全ての仕事を放り投げ、日本橋丸善に駆け込み、その場で同じものを10本買い込んだものです。
あれから幾星霜、私はダーマトグラフを手放すことが出来ません。
若き金融人諸君、日本経済新聞を読むその手にダーマトグラフを!
さて、近年、大きく発展するデジタル社会では、日本経済新聞に対する皮肉な目が散見されます。
曰く・・・
本当にそうなのでしょうか、ちょっと見直してみましょう。
とどのつまり、日本経済新聞は金融経済の専門紙です。
身も蓋もない言い方ですが、読みこなし、実戦に結びつけるためには、ある程度の期間と修練が必要です。
キャリアの入り口で、安易な先入観から、この情報誌を遠ざけるのは、あまりにも稚拙な判断ではないでしょうか。
日本経済新聞の紙面は概略、以下のようなカテゴリーに分類されています。
1. 記録
株式、債券、金利、商品・・・多くの市場商品の取引価格や出来高等の情報が満載です。
2. 報道
政治、経済、企業、技術、社会・・・自社での取材もありますが、外部機関によるフォロー、無論、先にも出たFTの翻訳記事もあります。人事情報は一部の方には必読です。
3. オピニオン
「社説」、「大機小機」、等々、本当にオピニオンの形態を持つものありますが、紙面全体としてどのような記事を取り上げたかにこそ、日経自体の姿勢や考え方が見えてまいります。
4. 講座
「経済教室」や「きょうのことば」等々、基礎学習だけでなく、ベテランでも新しい知識が吸収できます。
5. 教養・文化
文化欄、土曜日の書評、日曜日のThe Styleと海外のクォリティペーパーを参考にしている紙面づくりですが、近年、日経のこの分野の充実が目立ちます。
まず、朝一番でヘッドラインを確認し、とりあえず、見出しをチェックしながら記事の軽重を判断します。
その後、下記の諸点を押さえながら読み込みます。
また、同僚同士で読み合わせたり、ネット上での朝会等に参加したりすれば、複数の視点に気づかされることにもなり、さらに理解が深まることになります。
さて、午後の空いた時間にでも、作業しておきたい諸点は以下のようになります。
経済や市場は記憶のゲームです。
過去、どのような経済状況や国際情勢の中で、市場がどうのように動いたかの記憶蓄積は、誰にでも出来る相場観の養成方法です。
自分の中に記憶を蓄積するためですのでエクセル等に打ち込むのではなく手作業で記帳してみては如何でしょうか。
通常のA4横罫ノートを開いたページをひと月として、毎日記帳していきます。
あまり詰め込んでも負担が大きく長続きしませんので、見開き2ページに収まるくらいの情報を選びます。
手作業での記録は記憶に転換され、長年の記憶は経験となります。
私の知人では、半世紀に渡り、今でも毎朝きちんと記録している方がいらっしゃいます。
金融用語辞典や政治・経済年報のようなものが手元にあれば、日経の読み込みには便利でしょう。
しかしながら、近年の混沌とする世界情勢の中で、私が一番重宝しているのは、この一書です
二見書店
世界の全ての独立国の情報を網羅した「世界各国要覧」と自然・産業・貿易・経済など多くの分野を網羅した「統計要覧」の2部構成。地理学習や入試対策はもちろん、国際理解を深める助けとなるビジネスにも活用できる社会人必携の書。
例年、年頭に発行されますので、年末には忘れずにAmazonで来年分を予約します。
私自身も日経とのお付き合いは、この世界に足を踏み入れた日から始まりました。
幸い、営業現場では、朝会にて先輩諸氏が重要記事を指摘してくれ、同僚との自主的な読み合わせも経験いたしました。
海外では、当時はまだ電子版も無く、アジア地域では当日の午後に朝刊が東京から届くような時代でしたので、午後のひととき、熟読するのが常でした。
資料整理にしても、当時の証券系研究機関でさえ、新聞の切り抜き、台紙への貼り付け、業種・企業ごとのファイリング、ファイルの保管に膨大なリソースを振り分けておりました。
現在、日本経済新聞も海外の主要都市では現地で印刷され、朝一番でオフィスに届けられますし、電子版では情報のクリッピングや保管も個人の手元で可能です。
そういう時代では、行間を読む力、記事に隠された真意を読む力、時代の流れを読む力、等々がビジネスパーソン個々人の競争力の源泉となります。
その力こそ、日本経済新聞との長いお付き合いで育まれるモノなのです。
<参考>
[ 2025.06.30 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。