株主総会がネット配信される時代となり、また開催日の集中が避けられる傾向から、複数社の総会を“観戦”することが可能となりました。
私も数回、株主総会の事務方を担ったことがありますが、膨大な想定問答集を作成するために担当部署を走り回り、会場のレイアウトやスタッフの配備に頭を悩ませ、株主向けの記念品に気を配り、総会当日の突発事項に瞬発力を試されと、本当に無事に終了した時の開放感は今でも忘れられません。
特に昔の荒れた株主総会では、記念に配布された紅白饅頭が経営陣に投げつけられ、株主同士の大乱闘が始まり、「議長!」「異議なし!」「議事進行!」といった罵声が飛び交う中、やっと議決にたどり着くという壮絶なものもあったようです。
近年は、開かれた株主総会を標榜する企業も多く、さらには、いわゆる物言う株主/アクティビストによる株主提案も増えて、株主総会は活性化する傾向にあり、旧態然としたシャンシャン総会や、荒れる株主総会の時代と比べれば、本当に“観戦”という言葉が適切に思える時代になりました。
現在の典型的な株主総会の議事進行では、経営側による経営方針・実績・中期計画等の説明、決議事項の審議/決議の後に、株主との質疑応答、即ち株主の「ご意見拝聴」となりますが、一般株主も声を上げる機会が各段に増えております。
数年前、某外食チェーンの株主総会の席で、「私にも言いたいことがある!」と宣言の上で質問に立った初老の紳士が、「優待券の額面が300円から500円になった、使い勝手が悪い事この上ない!」と大真面目に叫んだ場面には失笑いたしました。
少なくとも、株主総会で議論される話題ではありませんし、この株主が資金不足やハゲタカによる買収と云った、企業の危機存亡の事態に向き合ってくれるものとも思えません。
ところで、この株主優待制度、意外に多くの方が誤解している様子ですが、株主の基本的な三つの権利、①株主総会に於ける議決権、②配当金等々の利益配当請求権、③会社解散時等々の残余財産分配請求権、と同等な“株主の権利”ではありません。
あらためて確認しておきますと、株主優待とは、企業が一定数以上の株式を保有する株主に対して、自社商品やサービス、割引券などの特典を提供する制度です。
ちょっと穿った見方をすれば、その企業が株主に対して、株式保有の「謝礼」として、自社商品を贈呈する日本独特の慣行とも言えます。
とは言え、多くの日本の個人投資家にとって魅力的な投資要因となっているのも事実で、投資家の投資行動への影響には下記の三点が上げられます。
世界の何処かの国に、日本と同様な株主優待制度が存在するかもしれませんが、浅学にして私はその実例を知りません。
特にアメリカの企業は、企業の収益を配当金や自社株買いによる株価上昇を通じて株主に還元することに重点を置いていますし、ブローカーが実施するならまだしも、企業自らが優待品やサービスで株主を引き付けるという理屈は企業プライドが許さないでしょう。
私も米国企業の債券発行にあたり、日本国内では景品を付帯しての販売を提案したことがありますが、そんなことをしなければ売れないのか、と発行体の賛同が得られず、引受業者として別途、景品を用意した経験があります。
ただ、企業によっては大規模な年次総会を開催し、株主を招待しております。
その代表的な例がバークシャー・ハサウェイ社で、ネブラスカ州オマハで開催されるこの年次イベントでは、世界中の投資家や市場関係者が注目する中、同社を率いるウォーレン・バフェット氏がロック・スターの如く登壇し、投資、経済見通し、人生について語るのを株主が直接、聴ける貴重な機会を株主に提供しています。
コロナ禍以前には、カリスマ経営者と云われるようなトップを有する日本企業も、総会に付随して懇親会のようなイベントを催していました。
それでは、米国企業が高慢で株主の長期保有に関心は無いのかというと、そんなことはありません。
これも証券界の古老に伺った昔話ですが、1960年代のアメリカの主要企業では株主政策として、初めて株主になった方には感謝状が、不幸にして売却した株主には遺憾の意を伝える書状が発送されたそうです。
さらには、直接に株主を訪問しての企業広報を長期間に渡り実施していた企業もあったそうです。
市場や株主数、証券の保管システムが大きく異なる現代ではなかなか考えられませんが、それでも株主の維持には多大な努力が為されていたと理解してよろしいでしょう。
歴史的に、このような投資家を大切にする企業の姿勢が、アメリカ企業の透明性を担保し、情報の非対称性を低減し、優良な株主を維持しているとすれば充分に立派な経営哲学ではないでしょうか。
株主優待、それは株主向けの宣伝であり、株主の取り込みであり、市場に提供されるある種の甘味料:スウィートナーでしょう。
しかしながら、株主の公平性と云う観点からみると、いささか誤解を招く慣行とも云え、私も実務で経験しておりますが、一部の海外投資家からは疑問視されていることも事実です。
その懸念を解消するために、近年では株式を保護預かりする銀行や証券会社の保管機関、いわゆるカストディアンの裏方が、金券ショップなどで換金して最終投資家に戻したり、食料品などを公共機関やボランティアに提供する了解を取ったりと、可能な限り株主の利益に供するよう奔走しているようです。
ただ、幸いな事に(?)、株主優遇制度に対し異議を表明する、或いは法的紛争に発展させる海外機関投資家を耳にした事がありません。
少額の経費で個人投資家を引き付け、企業の長期的な株主基盤を安定させ、かつ株価の下支えを図れるとしたら、多少、灰色の領域だとしても、目をつぶるという大人の対応でしょうか。
株主優待実施企業数は、リーマン・ショック直後(2009~2010 年)を除き、おおむね増加基調にありましたが、2019 年をピークに頭打ちとなり、2022 年 9 月時点で、日本では全上場企業の約 4 割に当たる 1,463 社が株主優待を実施している様子です。
また、足元では株主優待の新設企業数を廃止企業数が上回ており、廃止理由として公平な利益還元を上げで、機関投資家や外国人投資家への目配りを感じます。
ただ、株主優待廃止時には一時的に株価が下落したり、株主数に変化が現れたりする傾向がありますが、同時に増配や自社株買い等を公表して下落幅が小さくなる現象もみられます。
<参考>
[2024.6.27 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
風が吹くと砂ぼこりが立ち、砂で目を傷める人が増える。
▼
目を傷めた人は三味線を弾くから、三味線に張る猫の皮が不足する。
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猫が不足すればネズミが増えて、あちこちの桶が齧られるから、桶屋が儲かる。
江戸時代の浮世草子が元ネタと伝えられますが、毎度のことながら先人の知恵には感服するばかりです。
最近では、NHKでも*“蝶の羽ばたきが、巡り巡って竜巻を起こす”という意味で、バタフライ・エフェクト(Butterfly Effect)なる小洒落た英語を使っておりますが、意味は同じようなものです。
(*NHKホームページより)
本稿のテーマである地政学的リスクも、実はこのような不確実性の下に発生する事象の連鎖効果と言えるかもしれません。
ある特定の地域が抱える政治的・軍事的な緊張の高まりが、地理的な位置関係により、その特定地域の経済、もしくは世界経済全体の先行きを不透明にするリスクのこと。地政学的リスクが高まれば、地域紛争やテロへの懸念などにより、原油価格など商品市況の高騰、為替通貨の乱高下を招き、企業の投資活動や個人の消費者心理に悪影響を与える可能性がある。
【出典:野村證券、証券用語解説集より】
兜町の古老から聞いた相場格言に「遠くの戦争は買い、近くの戦争は売り」というものもありました。
その古老が回想するのは、1950年に朝鮮半島で勃発した朝鮮戦争による物資・サービス需要が巻き起こした大相場でした。
さて、いろいろな地政学的事象が日本の経済や金融市場に与える影響は、概ね以下の四点にまとめられます。
さて、上記四点は一般的な地政学リスクを網羅的にまとめたものですが、より具体的に2024年のグローバルな政学的リスクはどこにあるのでしょうか?
1998年に設立された、地政学的リスクを専門に扱うコンサルティングファーム、ユーラシア・グループ(Eurasia Group)は毎年、その年の10大リスクを発表しております。
2024年版の冒頭、本年の大きな課題として三つの局地的紛争を挙げ、その問題点を整理しています。
以上の三つの争いを、先の「地政学的事象が日本の金融市場に与える影響」四点に当てはめると、こんな結論が導かれます。
こんな影響が考えられますが、具体的な紛争ではなく、一国の政策から地政学的リスクが浮かび上がるケースもあります。
今年に入ってからの急激なドル円相場の変動には、日米の景気動向や金利差などで説明する市場関係者が大多数ですが、その動きを地政学的に説明しようとする方もいらっしゃいます。
株式会社 武者リサーチ代表の武者陵司氏は、そのレポートで円安の原因は地政学的リスクにありと指摘されております。
この円先安観はどこから来ているのだろうか。それは地政学、米当局の意志としか考えられない。昨年6月、11月の米財務省による為替監視リスト(中国、ドイツ、マレーシア、シンガポール、台湾、ベトナム)から、対米貿易黒字第5位の日本が外れた。中国・台湾・韓国という地政学的危険地帯に集中しているハイテク製造業の産業集積を安全な日本に移転するしかない、という覇権国米国の国家戦略遂行の手段が、この超円安の背骨にあると考えざるを得ない。
【武者リサーチ2024年05月14日附 ストラテジーブレティン 第353号】
世界的なサプライ・チェーンからの中国排除という米国の政策に伴い、東アジアにおけるハイテク製造業のハブを中国、韓国、台湾から日本に戻すための円安進行というシナリオは、現時点では肝心要の日本における半導体産業の定着や発展が不透明なものの、なかなかに説得力ある論説で興味深いものです。
地政学的リスクの金融市場への影響は、ある程度パターン化しているものもあり、それに対する反論も多数見られます。
例えば、安全資産としての円という前提に疑問を呈する経済の専門家は多数いらっしゃいますし、過去の円高過程で、多くの日本の製造業は海外での生産設備増強で対応力を強化してきたはずです。
それにも関わらず、短期的に金融市場は、あるパターンで動くという前提を念頭に置いておくべきでしょう。
しかしながら、地政学な分析に留意して長期的な視点を得るならば、短期的なショックに動揺して判断を誤るような事態は避けることが出来ます。
そのような地政学的知見を身に着けるためには、日本だけでなく、海外のメディアや外国政府の動向に注視する必要もありますが、限られた時間や言語の問題で、なかなか難しいかもしれません。
それでも、地政学的考え方を身に着けようとする訓練は、金融市場に関わる方々には必須とも言えます。
こんな書籍から始めてみては如何でしょうか?
「13歳からの地政学―カイゾクとの地球儀航海
/田中 孝幸(著)」
本書では米国の地政学的優位性につき、こんな指摘をしております。
● 世界の貿易はほとんどが海を経由し、海を支配する米国が世界の仕切役になっている。このため米ドルが世界中の貿易の大半で使われる。
● 米国は自国通貨で物を買うことが出来るので、豊かになっている。
● 米国が超大国になったのは地理的条件に恵まれている事が大きい。
“13歳からの”と銘打つ本書ですが、20歳でも40歳でも60歳でも地政学的な考察に触れる機会を与えてくれる良書です。
「危機の地政学/イアン・ブレマー (著)」
著者のスタンスは、混迷する世界情勢の中で如何に最適解を求め国際協調を探るかというもので、米国というグローバルな盟主なき世界で、先進諸国が経済支援も含め諸々協調し、危機に対応すべきという主張です。
<参考>
[2024.5.21 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
昨年、2023年の米国株式市場は荒れ模様でした。
コロナ特需の賞味期限は過ぎ、FRB(Federal Reserve Board:連邦準備制度理事会)主導の金融引き締めが急速に進み、3月にはシリコン・バレー・バンクの破綻という要因もあり、悲観的な雰囲気が充満する市場でしたが、Magnificent Seven:M7と称される7社が突出して脚光を浴びました。
投資家の大きな成長期待が寄せられた当該7銘柄に投資資金は集中し、米S&P500種株価指数構成銘柄による時価総額の3割を占めるまでに株価は高騰し、機関投資家も市場に負けまいと買いを入れ、いわば正のスパイラルが出現し、NYダウは年末に向けて大きく上昇しました。
最近では、そのM7からビジネスに暗雲が漂う三社を除いたFabulous Four:Fab 4との呼称も定着しつつあります。
少数企業への取引集中状態を、市場関係者がキャッチ―な呼び方で囃し立てる様は、やはり投資家の眼を少しでも呼び込もうとする業界の性(さが)でしょうか?
GAFA➡Magnificent Seven:M7➡Fabulous Four:Fab 4との変遷、日本語でガーファ➡マグニフィセント・セブン:エム・セブン➡ファビュラ・フォー:ファブ・フォーと口に出してみると、なにやら日本の証券人のセールス・トークも、一段と高度で洒落たものと錯覚しかねません。
しかしながら、一部の新聞・雑誌ではMagnificent Sevenを「神セブン」と、何処かの安手のアイドル・グループを想起させたり、Fab 4をファブ・フォーとだけ記してこちらも韓国のダンス・グループのように記載したりする例も散見されました。
無論、Magnificent Sevenは映画「荒野の七人」、さらにはその原作たる黒澤明の傑作時代劇「七人の侍」を念頭に置いたものですし、Fabulous Four:Fab 4はビートルズの四人を意識したものです。
若い記者諸氏の無知を笑うより、「時代は変る」、The Times They Are a-Changin’ という感慨を深くするばかりの私です。
閑話休題
そんなITやAI企業の話題ばかりに埋もれて、ユニークな企業や知られざる世界企業が隠れているのもアメリカの市場です。
そんな、企業の一社を紹介してみたいと思います。
この間、世界的な人口増、新興国の台頭、地球温暖化の影響、商品市況の高止まり等々の要因から、世界的に食糧問題がクローズアップされ、その需給が国際的に議論されていた時期でもあります。
わが国でも活発な議論が交わされており、その主役たる農林水産省は令和3年(2021年)3月に『世界の食料需給の動向』とする報告を公表しており、その中で供給面での課題として、「収穫面積の増加」と「単収*の増加」の二点を上げております。
(注* 単収とは一定面積当たりの収穫のこと。)
【農林水産省「世界の食料需給の動向」令和3年3月】
その一方で、供給面での問題点として「収穫面積の減少」が上げられおり、目先の食糧供給増には、既存の耕作地で効率的に増産を図るという解が浮かび上がります。
一方、コンサルティング会社、アーテリジェンス社の報告によると、農業を取り巻く環境変遷として次の二点を上げております。
この二つの課題を徹底的に追及して持続的成長を獲得した企業がディア社なのです。
同社は大型農場の中で駆動する自社の農機具に搭載したセンサーで農場、耕作フロント、機械のデータ等々、具体的には土壌分析、耕作の進展具合、局地的な気象情報、機器のメンテナンス情報等々を自動的に収集、クラウドへ自動アップロードしてプラット・フォーム上で管理・分析するというサービスで、農場主が何時でも何処でも農場管理を可能とし、最も効率的な農場運営の方向性を提供します。
また、同じデータを顧客と同社が共有することにより、製品の性能向上ばかりでなく、膨大な農業生産現場のデータが蓄積され、顧客にさらなる最適解を提供することを可能とします。
たとえば穀物の苗を植える際に、その土地で、どの程度の密度で、どのくらいの間隔で植えていくか等々の精緻な耕作プロセスを人口知能:AIで分析して提案させるのです。
AI による分析には、農地や作物、さらにはその土地の天候まで膨大なデータが必要ですが、ディア社はその主力製品である農機具を通じて、世界中の農場現場から、そのデータを蓄積しているのです。
この手法は精密農業(Precision Farming)と呼ばれますが、その定義は、国際的に様々な解釈が存在するようです。
全米研究協議会(United States National Research Council)では「情報を駆使して作物生産にかかわるデータを取得・解析し、要因間の関係性を科学的に解明しながら意思決定を支援する営農戦略体系」としています。
イギリスの英国環境・食料・農村地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs)では「一つの農場内を異なるレベルで管理する栽培管理法」と定義しています。
ちょっと、世界共通な御役所仕事のようで分かりにくい表現ばかりですが、わが国の主要農機具/建機メーカーのクボタが精密農業を、「データを活用することで、肥料、薬剤、水、燃料等のコストを最小化し、収量の最大化を目指す営農技術。加えて、食味や品質向上、トレーサビリティ、ノウハウの伝承、重労働の軽減も叶える」と非常にわかりやすく定義しております。
皆様もワイン生産の現場で、少しだけ離れた農場で出来たブドウから出来上がったワインに大きな差が生まれることもあるという逸話を耳にしたことがあると思います。
それだけ複雑で多様なばらつきのある農場に対して、データ記録に基づく詳細な管理を実施し、土地を傷めずに、収穫と品質の向上および環境負荷軽減などを総合的に達成しようという農場管理手法と言えるでしょう。
従ってディア社は、農機具メーカーでありながら、膨大な一次情報を蓄積してAIを活用し最適解を顧客に提供しつつ、持続可能な企業として、農業の自動化等々に向けて技術革新を進める最先端企業なのです。
農林中金バリューインベストメンツ常務取締役、最高投資責任者:CIOの奥野一成氏はディア社に投資するにあたり下記のような仮説を立てました。
しかしながら、会社訪問時に「精密農業」という言葉が同社のスタッフから頻繁に出されたため、全く違う分野での競争優位性に気付かされたと述べておられます。
このあたり、アメリカの産業界の懐の深さでしょうか?
過去180年以上に渡り、農業機械中心に成長してきたディア社という伝統的企業ですが環境の大きな変化に対応して、さらなる成長を遂げようとしております。
<参考>
[2024.4.19 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
これも古参の金融関係者ならば御記憶でしょうが、昭和30年代の株式ブームに沸く証券会社の店頭に「ダウを買いたい!」という客が現れたという笑い話がありました。
ダウ平均の一本調子な上昇に浮かれた俄か投資家が、在りもしない商品を買いに来たという、素人を嘲笑するような、いささか悪意のあるものでした。
指数関連の金融商品が市場で多数取引される現代において、若手の金融人諸氏には、この話のどこが面白いのか、全く理解できないかもしれません。
このような金融商品が数えきれないほど出現して、市場の多様性と規模が拡大したこの半世紀ほどの間に、どのような動きがあったのでしょうか?
この間、世界の金融市場を牽引してきた米国、その動きを振り返ってみましょう。
1929年10月24日(木曜日)、ニューヨーク証券取引所の大暴落に端を発した大恐慌以来、米国では金融機関に対する規制を強化/維持して、その安定性を確保してきました。
政府がお墨付きを与えることにより、米国の金融機関は厳しく制限されながらも保護され、「3%で借りて、6%で貸し、午後3時にはゴルフに行く。」、3-6-3の法則と揶揄されたほど、安定的で競争もない業界が築かれたのです。
しかしながら1970年代後半から、インフレや経済の低迷という外部環境の変化から、リスクヘッジ手段として金融派生商品が注目を浴び始めます。
その背景となったのが、今日も良く知られている二つの輝かしい金融理論でした。
この流れの中で登場してきた新しい金融商品を、いくつか振り返ってみましょう。
古くは米や綿花等の農作物を対象とした先物取引から発達し、1990年前後からは、株式、債券などの金融商品を対象とした先物取引、オプション取引、スワップ取引などが活発に取引されるようになりました。
さらには、ヘッジ目的よりも、積極的なポジション構築や他の金融商品との組み合わせにより利益を追及する手段として活用され始めました。
近年では、天候(降雨量や降雪量、気温など)を対象とする「天候デリバティブ」や、信用力などを対象とする「クレジット・デリバティブ」なども登場しています。
企業などが有する資産を特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)等に移管、SPCはその資産を担保に証券を発行し、投資家に販売します。
原資産は基本的に定期的に継続的な収入が得られるものと判断できれば、商業用不動産担保ローン、住宅ローン、自動車ローン、リース、クレジットカード、病院収入、著作権収入等、幅広く求めることができます。
ちょっと特殊な例ですが、1997年、ロック・ミュージシャンのデヴィッド・ボウイは、自身の著作権収入を担保に利回り7.9%の10年債を発行し、そのすべてを保険・金融大手のプルデンシャル・ファイナンシャルに売却して、5,500万ドルを入手しました。市場ではBowie BondとかZiggy Bondと呼ばれ、大きな話題となりました。
投資先もグローバルに選べ、米国、日本といった先進国以外にも新興国や地域、あるいは金や石油などの資産に手軽に投資ができるようになりました。
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さて、このような金融商品も俯瞰しながら、この半世紀の変革における重要事項を、私なりにまとめてみました。
Microsoft、Windows革命の前夜、手元のこの小さな計算機が縦横無尽に活躍したのは、石器時代の出来事のようです。
パーソナル・コンピュータの発展により、複雑な計算が机上で簡単に実行でき、過去のデータもネット経由で簡単にダウンロードして処理できる時代となり、金融の現場は大きな変革を遂げました。
金融工学という学究の世界でも、大きな成果が生み出され、2013年のノーベル経済学賞が、「資産価格の実証分析に関する功績」として、ユージン・ファーマ(Eugene F. Fama)、ラース・ハンセン(Lars Peter Hansen)、ロバート・シラー(Robert James Shiller)という三人の米国の研究者に授与されたことは、その証左でしょう。
さらには、ブロック・チェーンの可能性として議論される効率的決済や、ビット・コインに代表される暗号通貨(Crypto Currency)も、IT革命が背景にあってこその課題でしょう。
<参考>
[2024.3.19 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
「ITトレンドEXPO」公式サイト:https://it.expo.it-trend.jp
『SAKIX(サキガケ)』ソリューションサイト:https://sakix.jp/
※『SAKIX(サキガケ)』『WITH-X(ウィズクロス)』『COMBI-X(コンビクロス)』『KIZUNA-X(キズナクロス)』『FOR-X(フォークロス)』は、当社の登録商標です。
日本でも「金儲けは悪いことですか?」と言い放った投資家がいらっしゃいましたが、もちろん、強欲も金儲けも悪いわけではなく、ルール違反が悪いのです。
さて、この映画の冒頭、主人公が朝一番でセールス・フロアーの自席に着くと、ニューヨーク証券取引所のオープニング直前に、フロアーのスピーカーから「よく聴け、特に新入りども!日経指数が大幅上昇で終わっている、寄り付きから日本人は強気で来るぞ!」と大音響でセールス・マネージャの激が飛ばされます。
私は米国で本作をリアルタイムで鑑賞しましたが、劇場の暗闇の中で、アメリカの証券マンが日本の市場動向を意識する描写には、びっくりさせられたことを昨日のように思い出します。
クリスマス休暇のシャンパンが抜けきらない米国の証券関係者の眼に、2024年初頭の日本株急騰は、どのように映ったのでしょうか?
大発会こそマイナスのスタートで冷や汗をかいたものの、月中は一本調子の上昇が続き、結局、月間の上昇率は8.43%となりました。
この間、米国では、各種経済指標の発表に一喜一憂したり、連邦公開市場委員会(FOMC)の動きに疑心暗鬼となったりしましたが、メタやアマゾンなどの好決算銘柄が市場を牽引し、S&P500指数とNYダウは史上最高値を更新、結局、月間で主要3指数はS&Pの1.59%を筆頭に、いずれも1%台の上昇でした。
投資主体別にその動向を見てみますと、東京証券取引所が発表する『投資部門別売買状況』に、月間を通じて、2兆3,500億円の国内法人と個人の売り、2兆円の海外投資家の買いという状況が記録されており、海外投資家の強い買い意向が目立ちます。
たった5週間の大幅上昇ではしゃぐのも如何なものかとも思えますが、「バブル超えも射程に入った」との勇ましい掛け声をともない、日経ヴェリタス誌は2024年1月28日号で≪だから私は日本株推し≫と云う特集を組んでおります
海外の機関投資家で、運用の現場にいる方々から、日本株に向かう様々なコメントが集められており、それは下記のようなものでした。
しかしながら、いずれも中途半端な理由に聞こえ、また各々の要因が相互作用を起こし、相場を短期に大きく押し上げたとは考え難いものばかりです。
結論としては、やはりコロナ禍やウクライナ情勢等々の不透明要因に先が見え、世界規模で投資資金が怖々とマーケットに戻り、ニューヨーク市場やナスダックを押し上げた昨年に引き続いて、その本格的な回復となるであろう2024年・・・日本株の上昇はそれを先取りしているようです。
ただ、現状では戻って来た投資資金のグローバルな配分から、海外投資家に「持たざるを得ない」という理由で日本株が買われているとしたら、指数構成銘柄のような流動性が高い銘柄を、目をつぶって買っている面が大きいのではないでしょうか?
そんな上がるから買う、買うから上がるでは、海外勢も値幅が獲れたり、天井圏にあると判断したりすれば売ってくるのは必定です。
現状の金融相場のような状況から、日本株に関わる海外投資家が、先に挙げるような幅広い要因を消化して堅実な日本株のポートフォリオを構築するには、いま少し時間が掛かるかもしれませんし、その間は高値近辺での荒っぽい値動きが続きそうです。
[2024.2.9 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
株式会社証券保管振替機構の株式等振替制度において、2025年度4Q(2026年1月~3月)を目途に「加入者情報システムと株主通知システムを統合した株主情報システムの新規構築」、および「株式等口座振替システムのリプレース」を行うプロジェクトが進められています。
本資料では、機構から公表された『仕様変更概要一覧』を基もとに、当社ほふり接続システムCOMBI-X(コンビクロス)の担当者が各案件の概要とお客様への影響について解説します。
2024年1~3月に予定されております、機構での制度参加者向けの機構説明会を前に、情報収集としてご活用いただけますと幸いです。
株式会社ODKソリューションズ
ほふり接続システム担当
日本経済新聞の昨年元旦に掲載された「主要企業の経営者による2023年の景気予測」は、下記のように警戒感のあるものでした。
この記事を出発点に、各種報道を拾いながら、2023年の株式市場を振り返ってみましょう。
このように、若干の景気スローダウンが懸念されていた市場ですが、3月に米シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻したことから一時大きく下落しました。
しかしながら、5月には東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対する是正要請や、岸田政権による『新しい資本主義』の最重要課題とされた賃上げによるデフレ脱却期待などを背景として、日経平均株価は3万円台を回復しました。
6月には米投資会社バークシャー・ハサウェイによる商社株の買い増しが判明、日本株に対する注目が一段と高まったとされ、日経平均株価は約33年ぶりにバブル崩壊後の高値を立会時間中に更新するとともに、7月3日には33,753.33円の年初来最高値を記録しました。
その一方、7月以降は米連邦準備理事会:FRBの金融引き締め姿勢が懸念され、米10年物国債利回りが上昇(債券価格は下落)、8月には格付会社のフィッチ・レーティングスが米国の外貨建て長期債務格付けを引き下げ、10月には米10年物国債利回りが16年ぶりに5%を突破、この間、日米の株式市場は大幅な調整を強いられました。
11月に入るとインフレ鈍化の兆しを背景に、FRBの利上げ停止期待が高まり、米長期金利の上昇が一服、株式市場は回復基調を辿り、NYダウは12月13日に1年11カ月ぶりに過去最高値を更新しました。
日経平均株価も11月以降に取引時間中、いわゆるザラバではバブル相場以降約33年ぶりに3万3,800円台を回復する場面が何度かありました。
ただ、植田新総裁率いる日銀の金融緩和政策修正観測が噂されるも、欧米の中央銀行が利下げの議論に移行したことにより、為替の円安基調が反転、円高が進んだ影響を懸念する声が強まる中、年末にかけて日経平均株価は何度も新値をチャレンジするものの、押し返される展開で年末を迎えました。
冒頭に記しました、景気予想と同日・同紙に掲載された「経済人による2023年の株式市場予測」は、下記のようなものでした。
お屠蘇気分の与太話という揶揄もありますが、やはり現場で日本経済の舵をとる方々の予想値ですので、経営者の肌感覚が反映された相場観として敬意を表しても、その予想値、日経平均31,200円を大きく超えて1年を終えた原因は海外投資家の買いにあったと言えそうです。
海外投資家を呼び込んだ理由は巷間、いくつか挙げられております。
しかしながら、いずれも中途半端な理由に聞こえ、また各々の要因が相互作用を起こし、相場を大きく押し上げたとは考え難いものばかりです。
実際は世界の投資資金自体が増加し、日本株もグローバル・ポートフォリオの中でリバランス/調整されたと見る方が適当ではないでしょうか?
世界規模での投資資金の動向は、なかなか見え難いモノですが、ボストン・コンサルティング・グループが2023年5月15日に米国で「Global Asset Management 2023: The Tide Has Turned」と題したレポート発表しており、資産運用市場と運用会社の動向について下記のように報告しております。
2023年の動向については未発表ですが、2022年に落ち込んだ部分を、株高等により回復していたとすれば、2023年の日本株高も理解できます。
しかしながら、当時と現在の日経平均の構成銘柄や算出方法の違いから、もはや単純に比較するのも難しい数値になっているのは、市場関係者の共通認識でしょう。
それでも、2023年の株式市場ではこの数字が固い抵抗線として機能していたように、市場関係者の強い、強い記憶の残像が感じられます。
連続性も指数としても、いささかいびつであったり、先物・オプションとの関連を無理やり設定されたり、日銀によるETFの過剰購入といった状況を考えると、日経平均に代わる指数を真剣に考えるのは新時代における金融関係者の課題でしょう。
それでは市場を取り巻く環境は如何でしょうか?
企業業績の行方や、地政学的リスク等々は、各種、新聞雑誌に取り上げられておりますので、簡単に指摘する程度にとどめますが、以下に株式市場を取り巻く具体的な課題を上げてみたいと思います。
ただ事前の報道では積み立ての人気商品はS&Pや全世界型のETFであり、日本の株式市場にはどの程度の資金が流入するのかは未知数です。
ただ、市場は高値圏での取引にありがちな、ちょっとした悪材料に大きく反応する状況にあります。悪材料が出た場合には下値を丁寧に拾うことも戦略ですが、それはどんな投資家にとっても「言うは易し、行うは難し」ですので、3月/9月の決算時期の売り買い交錯のなかで安くなった局面を狙うという戦略もあるでしょう。
レンジとしては年前半で32,000円から36,000円まで、年後半に35,000円から39,000円までと思われます。
[2024.1.9 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
元旦夕方に発生いたしました、
石川県能登地方を震源とする「令和6年能登半島地震」、
また2日には羽田空港において発生した
航空機事故の被害に遭われた方々に
謹んでお見舞い申し上げます。
地震、事故によってお亡くなりになられた方々の
ご冥福をお祈りするとともに、
被災地域の一日も早い復興をお祈りいたします。
昨年弊社では、3月に証券ソリューションを
「SAKIX(サキガケ)シリーズ」
としてリブランディングを行い、
新たなブランドとしてスタートを切りました。
また、直近12月には、
ソリューションサイトを立ち上げ、
これまで以上に皆様に有益な情報を
お届けできるよう体制を整えております。
本年は昨年築いた礎のもと、
より一層の飛躍を目指すとともに
お客様に寄り添うベストパートナーであれるよう
社員一同、努力してまいりますので、
昨年同様にご高配を賜りますようお願い申し上げます。
株式会社ODKソリューションズ
証券・金融ソリューション部
唯一無二の価値を裏付けるNFTは、Web3.0の技術の中でもっとも事例が多く、さまざまな分野において活用が進んでいる領域だといえる。では現在、NFTの技術は人々にどこまで理解され、そして浸透しているのだろうか。
ここでは、今後より広く利用できるように、NFTを技術的側面から一歩踏み込んで解説する。NFTのビジネス活用を検討する企業は、ぜひご参考ください。
近年、注目を集めるNFTは、多くの領域でビジネスへの活用が実施・検討されている状況だ。ここでは、そもそもNFTがどのようなものなのかについて、おさらいしておこう。
さらにNFTはプログラマビリティを有しており、さまざまな情報や機能を追加できる点も特徴といえます。 なお、NFTを活用するおもなメリットは、以下の通りです。
NFTの代替不可能性という特徴は、各NFTはユニークであり、まったく同じものが存在しないことを意味する。NFTを実現するための技術でメインとなるものがブロックチェーンだ。ここでは、ブロックチェーンの概要と種類、歴史、最新情報を紹介する。
2-1:ブロックチェーンの概要と種類ブロックチェーンのアイデアは、実は1991年から既に存在していた。ブロックチェーンが広く注目されるようになったのは、2008年にサトシ・ナカモト(正体不明の人物またはグループ)が、暗号通貨ビットコインを実現する手段として、ブロックチェーンの論文を発表したことがきっかけだ。 ブロックチェーンにより、ビットコインは非中央集権的で信頼性のある取引ネットワークを実現した。
その後、イーサリアムはブロックチェーンを拡張し、任意のプログラムを帳簿に載せる機能(スマートコントラクト)を実装。スマートコントラクトのプログラムをブロックチェーン上の帳簿に組み込むことで、銀行業務や役所業務、IoTまで幅広い分野でブロックチェーン技術が活用されるようになった。
2-3:ブロックチェーンの最新情報近年、ブロックチェーンは世界中で活用され、依然注目を集めている。米国の議員らが、SECゲンスラー委員長に対して、現物ビットコインETFの承認を要請している。大手運用会社(例: ブラックロック)は、ビットコイン・マイニングへの投資を増加させているそうだ。
日本においても、東京ゲームショウ2023でCROOZ Blockchain Lab株式会社と株式会社gumiが、ブロックチェーンゲームについての合同記者発表会が開催した。またコンバースジャパンが、3Dアバターコレクション「MetaSamurai」とコラボした「ワンスター」50周年記念3DアバターNFTを販売予定だ。
さらに近年は、新興のブロックチェーンであるSolanaやAvalancheや、レイヤー2と呼ばれる技術も登場しはじめている状況である。次章で各技術について解説する。
※この記事が書かれたのは2023年10月。
ここでは、最新のブロックチェーンであるSalanaとAvalanche、レイヤー2について、技術面から深堀する。
3-1:SolanaSolana(ソラナ)は、2020年にローンチされたレイヤー1のブロックチェーンだ。高いスケーリング性能と、ユーザーフレンドリーなアプリケーションを提供する。
Solanaは1秒あたり50,000を超えるトランザクションを処理できる点が特徴だ。また独自のコンセンサスアルゴリズムである「プルーフオブヒストリー(PoH)」を採用しており、高いスケーリング性能も実現している。
さらにSolanaのトランザクション手数料は、ビットコインやイーサリアムに比べて非常に安価である。
3-2:AvalancheAvalanche(アバランチ)は、高いスループットと低い遅延を提供するブロックチェーンプラットフォームだ。このオープンソース・プラットフォームは、高速でコスト効率の良いトランザクションを実現し、分散型アプリケーション(dApp)の構築に適している。
Avalancheは独自のコンセンサスアルゴリズムを採用しており、1秒間に最大で4,500のトランザクションを処理できる卓越したスケーリング能力が特徴だ。また、高い互換性を持ち、イーサリアムのdAppをAvalanche上で利用でき、さらにネットワーク内のサブネットを利用して独自のブロックチェーンを構築することが可能である。
Avalancheは一部で「イーサリアム・キラー」として注目を浴び、数多くのプロジェクトが開発を進めている。
3-3:レイヤー2レイヤー2は、ブロックチェーンのスケーリング課題を解決するために開発された追加の層だ。レイヤー1ブロックチェーンからトランザクション処理を引き受け、アプリケーションの拡張性を向上させる役割を果たす。おもな特徴は以下の通りだ。
NFTやブロックチェーンの活用が進む中、ハッキングによる被害も増加している。例えば2022年には、NFTゲーム運営者にハッキングが行われ、約750億円相当の仮想通貨が流出するという事件が発生した。また、ブロックチェーンの匿名性が失われることで、セキュリティ面での課題も浮き彫りになっている。 このような問題を防ぐためには、ブロックチェーン技術の専門家によるセキュリティ対策や、適切な暗号化技術の導入が必要だ。またユーザー側でも、強力なパスワードの設定や二段階認証の有効化などを行うことで、セキュリティを強化する必要がある。
環境への負荷NFT取引はブロックチェーン上で行われるため、膨大な電力を消費する。特にイーサリアムネットワークでは、マイニング作業による電力消費が大きい点は課題だ。 環境への影響を軽減するために、エコフレンドリーなブロックチェーン技術やカーボンオフセットサービスが模索されている。
発行コスト(手数料・ガス代)NFTの発行や取引には手数料(ガス代)が必要である。これはブロックチェーン上で処理を行うためにマイナーに支払われる報酬だ。 ガス代は取引量や処理速度に応じて変動し、NFTの購入や送信時に発生する。ガス代を安価にするためには、価格の安い時間帯を狙ったり、効率的なブロックチェーンを利用したりすることがポイントだ。
NFTの将来性NFTの将来性は、以下のような理由から非常に有望といわれている。
NFTが将来、異なるプラットフォーム間での移動が可能になることで、新たな市場が生まれ、ネット業界がさらに活性化すると考えられている。今後、NFTには実用的な機能が実装されていく見込みで、社会・経済のさまざまなシーンにおける利用が拡大し、それに伴い市場も回復・安定化する公算が高いだろう。さらに、近年のNFT市場拡大を受けて、投機性の高さにおいても注目が集まっている。
NFTは、ブロックチェーン技術を利用して、デジタルアセットの所有権を証明するためのトークンだ。NFTはユニークであるため、1つとして同じものが存在しないことを意味する。NFTは、おもにイーサリアムと呼ばれるブロックチェーン上で作られている。イーサリアムはスマートコントラクトというプログラムを使って、NFTの作成ややりとりを簡単にする点が特徴だ。
NFTやブロックチェーンには依然として課題やリスクが存在するのは事実である。しかし本記事で述べた通り、それらの課題を解決するために世界中で新たな技術が生まれ、その進化のスピードは加速度的に進んでいる。
そのため、NFTを効率よく活用するためには、一定のリテラシーと最新情報のキャッチアップが重要といえるだろう。(無論最新技術における法的リスクの確認も必要である。)
本記事をきっかけにNFT、およびブロックチェーン技術への理解が深まれば幸いだ。
1987年(昭和62年)9月、野村証券は連結ベースで5,409億円の経常利益を上げ、トヨタ自動車をおさえて日本一の高収益企業となりました。(注:当時の証券会社の多くが9月決算を採用しておりました。)
野村證券百年史には1987年9月期の収益動向、特に株式関連業務については次のように記されております。
株式流通市場は、公定歩合の引下げや景気の回復等を背景に、国内機関投資家の投資が活発となった。1987年2月には日本電信電話(NTT)株式が東証に上場され、4月には東証第一部の時価総額がニューヨーク証券取引所(NYSE)の時価総額を抜く場面も見られた。日経平均株価も1987年9月には過去最高値となる2万6,118円を記録した。こうした株式運用のニーズが一段と高まる中で、当社は株式投資情報提供体制の充実やトレーディング体制の一層の整備に努めて、対応を図った。その結果、株式委託手数料収入は前期を大きく上回った。
当時は私も東京勤務であったため、テレビ番組で野村証券の営業現場にカメラが入ったり、研修中の新入社員に密着したりする番組を目撃してその注目度を肌で感じておりました。 NTTブームやバブル経済の狂騒といった背景もあり、証券各社は軒並み高収益を記録、並み居る製造業を凌駕して我が世の春を謳歌しておりましたが、出る杭は打たれるとばかりに、儲け過ぎ批判も広く展開されることとなりました。
では、なぜこの時期の証券会社は歴史的な高収益を上げることが出来たのでしょうか? その理由の一端に、当時の証券会社は大蔵大臣による免許制で、株式委託手数料も細かく規定された、1%程度の固定制であったことがあげられます。 証券業界内部でさえ、生活物資を扱う商社が証券会社並みの手数料を徴収したら社会問題になるのでは?との声までありました。 一方、海外の市場をみると、米国では1975年にニューヨーク証券取引所の株式手数料が(実施が5月1日だったためメーデーと呼ばれます。)、英国でも1986年には手数料自由化(ビッグバン)が断行されておりました。 そのため、日本でも株式委託手数料の自由化があるべき将来像として意識されており、実務的な議論も業界と監督官庁である大蔵省の間で始まっておりました。 しかしながら、日経平均株価が1989年(平成元年)12月29日の大納会に最高値38,915円87銭をつけたのをピークとして、市場は暴落に転じ、湾岸危機、原油価格高騰、公定歩合の急激な引き上げなどにより、1990年(平成2年)10月1日には一時20,000円割れと、9か月あまりの間に半値近い水準にまで暴落し、証券界は長い、長い冬の時代に入ります。 そんな不安の中で、主たる収益源のブローカー収入に大きな影響が出る手数料自由化は、証券界にとり死活問題でしたが、公正取引委員会を中心にカルテルではないかとの批判もあり、次第に株式委託手数料の自由化致し方なしとされて行きます。 ただ、自由化は避けられないものの、悪化する一方の経営環境もあり、「可能な限りゆっくりと」というのが証券界の本音であり、結果として「段階的な株式委託手数料の自由化」という道を進むことになります。 その結果、1994年(平成6年)4月には1銘柄の売買代金が10億円を超える部分につき、ついで98年4月には売買代金5,000万円超の取引につき株式委託手数料の自由化が断行されます。 1996年(平成8年)6月14日付で東証正会員協会から発表された「株式委託手数料自由化問題について」 という報告には業界の苦悩が滲み出ております。
この報告では、上記のような、おっかなびっくりの業界の懸念に加え、ディーリング等の多様な業務の規制緩和、有価証券取引税の即時撤廃等の要望を併記しておりました。
最終的に、橋本龍太郎内閣が提唱した金融制度改革(日本版ビッグバン)により、銀行・証券・保険間の相互参入の促進、投資信託の銀行窓口販売の解禁、株式売買手数料の自由化、取引所集中義務の撤廃、持ち株会社制度の導入、連結決算制度の本格導入などが98年12月1日施行の金融システム改革法によって実施され、ここに全面的な株式委託手数料の引下げ競争が開始されたのです。 ちょうどその時機に、対面や電話での取引が主流であった証券営業の世界に、インターネットという通信革命によって、人件費や間接費の大幅削減も可能な新しい株式販売経路として、オンライン証券が出現し、一気に普及することになります。 手数料を低く抑えることにより口座獲得を狙い、ある程度の口座獲得が出来たら、さらに手数料を引き下げる、この循環がビジネス・モデルとして成立するならば、その究極の形態は「手数料セロ」のビジネスでしょう。 米国では2013年設立のロビンフッド・マーケッツが手数料無料の株式売買サービスを開始して、ミレニアル世代(18~36歳)中心に顧客を集めておりました。 さらに、オンライン証券大手チャールズ・シュワブが2019年10月インターネットを通じた株式、上場投資信託(ETF)、オプションの売買委託手数料を撤廃、同業他社も追随したことにより、米国は一気にゼロ手数料時代に突入しました。 その競争に耐えきれなかったTDアメリトレードはチャールズ・シュワブに、Eトレードはモルガン・スタンレーに、各々買収され大きな業界再編成が進行しました。
日本でも米国のケースのように、ネット経由の注文に課す手数料をゼロと想定しても、信用取引の融資金利や証券の品貸料で収益を上げられるという議論もありましたが、そのためには、やはり厚い顧客基盤は必要であり、競争は熾烈を極めるであろうと予想出来ました。 2023年、SBI証券が満を持して、さらに楽天証券が追従して10月からの手数料完全無料化を宣言し、この分野での競争に火蓋が切られました。 そのきっかけとなりましたのは、岸田政権の掲げる資産所得倍増プランと、国民に提供されたNISA/新NISAという投資家優遇プランでしょう。 かつてのマル優とは異なり、最初に選んだ金融機関が固定化しがちなNISAでは、どんなことをしてでも顧客の囲い込みを図るという経営戦略は合理的なものです。 SBI証券は総合金融機関として多様な金融ビジネスの積み上げ、楽天証券は楽天経済圏の構築という目標はいささか異なるものの、目の前の顧客争奪戦はオンライン証券の業界再編の始まりでもあります。 マネックス証券はNTTドコモの子会社として、auカブドットコム証券は大株主のKDDIと連携して、大手でも大和証券が若年層をターゲットに大和コネクト証券を設立して、各々スマホ経由の注文を獲得しようとしており、この動きも日本型の業界再編といっても過言ではないでしょう。 また、SBI証券や楽天証券にしても、連携を深める地方銀行や独立系の金融アドヴァイザーを使い、対面営業にも商機を見出し、提供する金融サービスの多様化を図ろうとしております。
一方、投資家の立場に立ってみると、投資判断に資する情報提供や投資機会の助言が豊富で、投資収益に見合う手数料であるならば合理的であるとの考え方や、人間関係、取引の利便性も考慮して、現在でも一部の中堅証券ではそれなりの手数料を徴収しております。 しかしながら、岸田政権の掲げる資産所得倍増を目指す機運の中では、なかなかに困難な道ではないでしょうか?
特に「長期的な資産形成」への早道が手数料というコストの削減と、利益や配当に対する節税とするならば、一時的な市場情報よりも、そこに至るプロセスへの助言が求められるのではないでしょうか? また、大手証券が指向する富裕層ビジネスも、やはり一時的な市場情報ではなく、資産保全や、事業承継の助言が求められ、手数料ビジネスとは異なるものが求められるのではないでしょうか?
多様化する金融ビジネスの中で、ブローカー業務自体の収益比率が著しく低減する可能性もあります。 さらには、長く証券会社の収入基盤であったブローカー業務自体の存続も問われる時代となり、オーバーブローカー論どころか、ブローカー専業証券の不要論も出て来るかもしれません。
[参考文献]
野村證券百年史
実録 バブル金融史/恩田饒(著)河出書房新社
[2023.11 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。