ちょっと大きめの書店に入り、ビジネス書の棚を前にすると、“ビジネスマンのための◇◇”、“ビジネスエリートが実践する▲▲”と云った背表紙が目につきますが、その伏せ字部分には、多種多様なテーマがはめ込まれています。
ビジネスマンはまだしも、ビジネスエリートの定義が曖昧な日本で、従来型ハウツー本の域を出ないようにみえる書籍の氾濫には、いささか圧倒されます。
それでも、私自身、不案内な分野への簡便な入門書として、そんな書を手に取ってみる機会も多数ございます。
「知の巨人」と言われた故立花隆氏も、新しい分野の取材への第一歩は、書店で数多くの入門書を手当たり次第に買い集めて読み込むことであったと伺いましたが、やはり玉石混交のようです。
ちょっと視点を変えて、自分が良く知っている分野の入門書を読む場合は如何でしょうか?
私は、きちんと時系列やカテゴリー等の分析により、自分自身の知識をまとめてくれ、読後に整理整頓された情報を第三者に理路整然と説明できるようにしてくれるかを測ります。
結果として、いろいろ逍遥したあげく、何故に“ビジネスエリートになるための・・”と云う陳腐な枕詞を冠したのか、理解に苦しむような高度な入門書に出逢ったケースもありますので、なかなか油断がならないものです。
Amazonで「ビジネスマンのため」、「ビジネスエリート」という語を使って検索を掛けると、たちまちに下記のような書籍が上がってきます。
とりあえず、各々の語でランダムに10冊挙げてみますが、これだけでも、そのバラエティが理解できます。
検索したリストを見ると、日本のビジネスパーソンの関心事が見えてくるように感じます。
それは以下のように、カテゴリー分類が可能で、どのような書籍が各々に当てはまるか、みてみましょう。
● Skill & Technique (手腕と技巧)
日本の一般的なビジネスパーソンは専門職というよりも、ゼネラリストとしていろいろな職場を経験します。
そのため、アイデアや企画の発想力、プレゼンテーション力、基礎的なWord, Excel, Power Pointの技術、語学力といったビジネス上の基礎体力の取得は個人の責任とされているようで、一番の関心事です。
そのようにした取得したBusiness Skill & Techniqueにより、現場での仕事にあたる、日本のビジネスパーソンの姿が浮かび上がってまいります。
● Culture & Education(教養と知識)
教養から雑学まで、社会人として知っておけばビジネスでも個人の人生においても役立つような知識ですが、集中して学んだことが無い分野への関心です。
欧米のビジネスパーソンがビジネスをBusiness Schoolのような大学院で専門的に学び、大学Under Graduateでは別の分野を学ぶ事例が多いのに比し、日本のビジネスパーソンは幅広い知識への関心が高いようです。
こうして身に着けた Culture & Educationはビジネス現場において、一回り大きな器をみせるようで、その円滑化や迅速化に資するようです。
● Health & Physical(健康と体調)
健康維持はビジネスパーソンの必須条件で、さらには運動習慣を巡る議論からの体形維持まで、幅広い関心事です。
定期的な健康診断は、今では雇用主たる企業が義務として課す制度になっておりますが、ビジネスパーソンも日常生活の中で身に着ける Health & Physical の知識は自分自身を護るチェックリストです。
● Mind & Spirit
(心の平安と精神の在り方)
平常心や泰然自若とした在り様は、混沌とするビジネス情勢にブレない姿勢として求められるものです。
また、近年メンタルヘルスへの取り組みが社会的な注目を集めるにあたり、関心が高まっております。
それ以上にMind & Spiritの正常な抑制は現代人の必須要件でしょう。
● Social & Communication
(社交と対人関係)
他人との接触にあたり、コミュニケーションの能力や技術、あるいは他人に与たえる印象、恥ずかしくない着こなし等は意外と気づかないものですので、関心も高く成ります。
ビジネスパーソンとしての常識であるSocial & Communicationの知識は決して一朝一夕で身に着くものではないようです。
また、個々人のレベルが上がれば、企業のコーポレート・フィランソロフィの意識も高まるのではないでしょうか。
● Current Affairs & Topics
(時事問題)
いわゆる時事問題や新しい技術への関心事です。
Current Affairs & Topicsへの関心は、より良い世界への第一歩でしょう。
● Money & Investment (お金と投資)
経済的基盤が確立されなければ安心してビジネスシーンで戦えないのは自明ですが、消えた年金、老後2,000万円問題以降、投資と経済的自立への関心が高まったようです。
実は私たちが生きる高度資本主義社会を俯瞰するためには、Money & Investmentの知識が欠かせないものなのです
ChatGPTに「日本のビジネスパーソンがその生活の中で関心をよせる事柄を、事実調査を基にして箇条書きにせよ。」と問いかけると次のような回答がありました。
日本のビジネスパーソンが関心を寄せる主な事柄(2020年代以降の傾向)
ChatGPTは『各種の調査(例:内閣府、経済産業省、リクルート、民間の意識調査など)や報道を基にまとめた。』としておりますが、大まかなところでは、大型書店をぶらついた感覚と同等のモノでしょう。
とすると、冒頭の“ビジネスマンのための◇◇”、“ビジネスエリートが実践する▲▲”と云ったタイトルは、それが示すような読者ではなく、極々、普通の就労者向けに出版されていると解釈するのがよさそうです。
<参考>
[ 2025.05.30 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
オンラインでの口座開設などにおいて、ご利用者の本人確認の真正性と信頼性を確保し、より安全・確実な本人確認を行うための方法としてJPKI(公的個人認証サービス)の注目度が増してきています。JPKIをテーマに2025年2月開催し、多くの好評をいただきましたウェビナーの第2弾を開催します。
今年2月27日には、犯罪収益移転防止法の改正内容に対する意見募集が開始されました。今回の改正案は2027年4月1日施行とされており、非対面取引において本人確認方法の「ホ」方式が廃止され、本人確認書類の撮影や写しの利用ができなくなります。
本ウェビナーでは、改正犯収法と公的個人認証(JPKI)における最新情報の解説やJPKIの利活用について、3社共催で詳しく解説します。
前回のウェビナーからのアップデート情報もあり、押さえておきたいJPKIのポイントがよく分かります。最新情報をチェックしたい方はぜひお申込みください。
【第 1 部】犯収法の改正内容と公的個人認証(JPKI)を解説
犯罪収益移転防止法(犯収法)の改正における金融機関が今とるべき対応や、犯収法で定められている本人確認方法、公的個人認証(JPKI)で実現できることを解説。
【第 2 部】徹底解説!公的個人認証サービス導入で何が変わるのか マイナンバーを中心とした業務フローへ
犯収法改正により多くの金融機関でマイナンバーを中心とした業務フローへの移行が必要となりました。
公的個人認証サービスを利用することでどのようなメリットが得られるのか解説します。
【第 3 部】「Synergy!」で実現するWEB口座開設+JPKIソリューションのサービス紹介
WEB口座開設における金融機関での動向や効果を踏まえ、弊社サービス「Synergy!」を用いたWEB口座開設とJPKIソリューションをご紹介します。
「口座開設数を増やす施策」という観点からもお手伝い可能なデジタルマーケティング関連サービスをご紹介します。
名称 | 必見!犯収法改正における金融機関に求められる対応を解説 ~改正施行まであと2年、JPKI最新動向や利活用・顧客接点の整備など~ |
---|---|
開催日時 | 2025年6月27日(金)14:00-15:00 (待機可能 13:55-) |
会場 | オンライン(zoom) ※開催前に視聴用のURLをメールにてお送りします。 |
定員 | 50名 |
参加費用 | 無料 |
第1部 14:05-14:25 |
犯収法の改正内容と公的個人認証(JPKI)を解説 サイバートラスト株式会社 セールスマーケティング本部パフォーマンスマーケティング統括部 フィールドマーケティング部 担当部長 田上利博氏 |
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第2部 14:25-14:45 |
徹底解説!公的個人認証サービス導入で何が変わるのか マイナンバーを中心とした業務フローへ 株式会社ODKソリューションズ 証券・金融ソリューション部 証券・金融営業課 戸祭 陽菜 |
第3部 14:45-15:00 |
「Synergy!」で実現するWEB口座開設+JPKIソリューションのサービス紹介 シナジーマーケティング株式会社 金融ソリューション事業部ビジネス開発グループ 大下 譲司氏 |
※講演内容は変更する場合がございます。あらかじめご了承ください。
※競合企業、同業他社、個人の方のご参加はお断りさせていただく場合もありますのでご了承ください。
古今東西の投資家は、どうしたら株式市場で利益をあげることができるか?常に頭を悩ませてまいりました。
資本主義大国の米国では、この命題に対する学問的な解を求め、ファーマ/ハンセン/シラーによる資産価格の実証分析のように、ノーベル経済学賞受賞者を生むなど、大きな成果を上げてきました。
残念ながら、日本では「安く買って、高く売る!」といった香具師(やし)の啖呵売(たんかばい)のような物言いや、「何も知らなくとも、お任せください!」といった甘い囁きが、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の如く跋扈(ばっこ)してきたようです。
ただ、金融技術の進捗から、投資信託やETFといった革命的な金融商品が生まれ、さらにはネット証券の登場が促され手数料が大きく低減したことにより、日本も含む、世界の個人投資家が俯瞰する投資の地平は大きく拡がりました。
個人投資家が、巨大な機関投資家が運用するポートフォリオと同等なモノを簡単に、安価に保有できる時代になったのです。
では、そんな時代の株式投資とはどんなゲームなのでしょうか?
素顔を晒さない作家/評論家、橘玲氏による著書「新・臆病者のため株入門」では、氏の皮肉なコメントと共に、こんな風にまとめられております。
新・臆病者のための株入門 (文春新書)
橘 玲 (著)より
株式投資は確率のゲームである
・・・「絶対に儲かる方法」は絶対にない
株式投資はおおむね効率的であるが、わずかな歪みが生じている
・・・その歪みは、すぐに発見され、消滅してしまう
資本主義は自己増殖のシステムなので、長期的には市場は拡大し、株価は上昇する
・・・それがいつになるか分からない
上記は当然、現代ファイナンス理論の紹介等を消化したうえでのまとめですので、気になる方は原著を手にして頂くことをお勧めします。
この中で、市場の歪みを狙い利益を上げるのは、場合によっては膨大なエネルギーを注入する必要もあり、個人投資家が太刀打ちできる世界ではありません。
従って、「長期投資で樹から果実が落ちるのを待つ」(同書より)長期投資が一つの解として提示されることになります。
それでは、「必勝法」は無いものの、個人投資家の長期投資の世界において、「勝つ」ための必要条件を考えてみましょう。
それは次の二点に絞られます。
すなわち、売買手数料が低い証券会社を選び、購入費用や運用報酬が低い金融商品を選び、値上がり益や配当に税金を課せないようにする、こんな投資プラットフォームの構築が必要であり、長期投資になればなるほど、このプラットフォームは大きくその投資成果に影響を与えることとなります。
もうお気づきでしょうが、そのプラットフォームこそ、日本政府にお墨付きを与えられたNISAなわけです。
ここで簡単にNISAについて、おさらいしておきましょう。
【新NISA概要 金融庁HPより】
新しいNISAのポイントは下記のような点です。
良いことづくめのNISAですが、この制度を前に個人投資家はハタと立ち止まります。
何を買ってこの枠を埋めれば良いんだ?
新NISAが導入された時期は、円安/ドル高傾向が進行していたこと、GAFAに代表される新興テック企業が注目を集めていたことに加えて、シンプルでわかりやすい投資戦略、低コストという商品の特徴もあり、「オルカン」と「米国株式:S&P500」の二つの商品が資金を集めました。
ドル/円推移本年2月3日付でQuick Money Worldが両投信への資金流入について報じております。
「オルカン」、1月の資金流入額が設定来最大 3,758億円両方の記事を読んでも、なんとなく同じ記事を読んでいるような感覚をお持ちになるのではないでしょうか?
それは、購入動機に共通なものが多いからです。
「オルカン」の購入動機はどんなものでしょうか?
一方、「米国株式:S&P500」の購入動機はどんなものでしょうか?
ほとんど共通する購入動機ですが、その違いはどこにあるのでしょうか?
「オルカン」と「米国株式:S&P500」の最大の相違点は投資対象です。
前者がアメリカ、日本、欧州、新興国をも含む幅広い国々を投資対象にするのに対し、後者はアメリカという世界最大の経済に特化する点です。
従って、二つの投信を比較すると、オルカンのような幅広い投資はリスクを抑え、S&Pのような一極集中型の投資はリターンが高まる可能性が高いことになります。
投資家のリスクアバースの度合い、即ち、許容可能なリスクの程度が、どちらの商品を選んだかの根拠になります。
気の利いた投資家ならば、S&P 型のETFに加え、日本株、欧州株などのEYFを組み合わせれば、オルカンから特定のリスク、例えば新興国を外したポートフォリオの構築も可能ですが、リバランス等の管理が面倒という理由からオルカンを選んだ方もいらっしゃるでしょう。
S&Pはオルカンの部分集合であるから意味がないという議論は、いささか筋違いというものです。
トランプ大統領による世界経済秩序への挑戦は、金融市場に大きな混乱を巻き起こしております。
その関税強化策や米中の対立は、グローバル企業にとって大きな影響を与えました。
特にグローバル・サプライチェーンの再編が強いられ、新興国にも大きな影響を与えております。
通貨不安・金利動向の不透明さが株式市場や債券市場への投資判断に影響が出ることも当然です。
何よりも問題なのは、米国内の政治的安定性が損なわれることによるリスクプレミアムの高まりでしょう。
前述のように、どれだけのリスクを抱えられるのかが投資の出発点であるならば、投資判断のターニングポイントにあたり、今一度思い出してみて下さい、
資本主義は自己増殖のシステムなので、長期的には市場は拡大し、株価は上昇する
・・・それがいつになるか分からない
<参考>
[ 2025.04.30 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
2025年2月に3社共催で開催し、ご好評いただいたJPKI(公的個人認証サービス)を知れるウェビナーについて、多くのご要望にお応えし、アーカイブ配信が決定いたしました。
オンラインでの口座開設やローン申込時に、ご利用者本人の認証や契約書等の文書が改ざんされていないことの確認を公的に行い、より安全・確実な本人確認を行うための方法としてJPKIの注目度が増してきています。この機会にぜひご視聴をお申込みください。
【第 1 部】公的個人認証(JPKI)と、犯収法の見直し案とその動向
犯罪収益移転防止法(犯収法)で定められている本人確認方法、公的個人認証(JPKI)で実現できることや、現在政府によって検討が進められて
いる犯収法の見直し案と今後の動向について解説。
【第 2 部】公的個人認証によるマイナンバーカードの利活用とユースケースのご紹介
公的個人認証サービスでは、本人確認に加えマイナンバーの収集や、現況確認と言われる後日事業者がユーザーの基本4情報(氏名・住所・生年月
日・性別)に変更はないかの確認ができるなどeKYC にはない、新たな機能があります。これら機能の詳細やどのように活用可能か解説。
【第 3 部】「Synergy!」で実現する JPKI 連携を含む口座開設申込フロー
JPKI との連携を含めた口座開設お申込みフローについて解説。また「口座開設を行っていただくお客さまの数を増やすためには?」という観点からデジタル
マーケティング関連サービスをご紹介。
名称 | 【アーカイブ配信】金融機関担当者が知っておくべきJPKI(公的個人認証サービス)解説 〜犯収法の見直し案やJPKI の様々な利活用と非対面チャネルの整備方法とは〜 |
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配信期間 | 2025年4月17日(木)10:00 ~ 2025年5月30日(金)18:00 |
時間 | 57分(倍速再生可能) |
形式 | YouTube ※お申込み後に視聴用のURLをメールにてお送りいたします。 |
費用 | 無料 |
第1部 |
公的個人認証(JPKI)と、犯収法の見直し案とその動向 サイバートラスト株式会社 セールスマーケティング本部パフォーマンスマーケティング統括部 フィールドマーケティング部 担当部長 田上 利博 氏 |
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第2部 |
公的個人認証によるマイナンバーカードの利活用とユースケースのご紹介 株式会社ODKソリューションズ 証券・金融ソリューション部 証券・金融営業課 戸祭 陽菜 |
第3部 |
「Synergy!」で実現する JPKI 連携を含む口座開設申込フロー シナジーマーケティング株式会社 金融ソリューション事業部ビジネス開発グループ 高橋由香里氏 |
※登壇内容や特典情報は2025年2月開催時点の内容となります。
※競合企業、同業他社、個人の方のご参加はお断りさせていただく場合もありますのでご了承ください。
2023年に放映送されたテレビドラマ『ブラッシュアップライフ』、突飛な設定ながらユーモラスな内容で話題を集めておりました。
主人公は地方都市の市役所に勤務する女性ですが、交通事故に遭遇し33歳の若さで亡くなってしまいます。
死後の世界の受付係(!)から、来世はオオアリクイに生まれ変わると告げられショックを受ける主人公ですが、今世をやり直すことも可能だと知らされ、ゼロから人生を再スタートする選択をします。
2周目の人生では、前世の経験値を駆使して、1周目より優秀な成績を獲得し、薬剤師に成長します。
主人公は同じような不慮の事故により人生を何度もやり直しますが、3周目の人生ではテレビ局員、4週目では研究医、5周目ではパイロットと、異なるキャリアを生きることになります
無論、現実の世界ではありえない夢物語ですが、あの時、勉強しておけば良かった、もう少し踏ん張っても良かったと云う人生上の悔いは、どのような方にもあるものではないでしょうか?
今回のコラムでは、自分の人生 My Life では不可能でも、若い証券人の人生 Your Life のブラッシュアップに資する書籍をいくつか紹介したいと思います
証券人として、現代株式市場の 本質:Principle を理解しておくことは、キャリア形成の土台を築くことです。
バートン・マルキール著
Burton G. Malkiel
まず投資とは何か?本書の中で明確に定義されております。
配当や金利、賃貸料など、かなり確実性の高い収入の形で利益を上げること、および長期間保有して値上がり益を得ることを目的とした金融資産の購入で、少なくともインフレ率と同じだけリターンを上げ続けなくてはならない
しかしながら、投資家がそのような金融資産を市場から見つけるためには、さまざまな困難が存在し、著者は下記のように結論付けます。
その根拠は現代ファイナンス理論の主力「効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis)」にあり、市場はすべての利用可能な情報を即座に反映して価格は常に公正であるとすれば、どのような予測も実効性が低いとされます。
これをベースに著者は、個別株の短期売買よりもインデックス投資の有効性を説きます。
個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンド・マネージャーが運用する投資信託に投資するよりも、ただインデックス・ファンドを買ってじっと持っている方が遥かに良い結果を生む
チャールズ・エリス(著)
D. Ellis
現在、原著第8版を底本した新訳が紹介されておりますが、1985年の初版発表時と比べて大きな環境変化は、金融工学の発展によりインデックス投資が大衆化された点にあるでしょう。
また、著者が初版から主張する『自身の家計を管理し、人生の節目の必要資金や事故・病気で倒れた際の生活資金を担保し、目の前の仕事の報酬が最大化するよう努力し、余裕があれば投資せよ』という提言は、ひとつの“大人のたしなみ”とも響き、本書が30年以上に渡り読み継がれているポイントでしょう。
著者が個人の責任として挙げている事項には、住宅の購入・子供の教育・老後の生活費用・災害などへの備え・自分の学んだ学校への寄付等々があり、どれも極めて身近で頭を悩ます事項ばかりですが、それらの課題に一つ一つ解決策を与えるものではなく、あくまで自分自身で意識すべしという論調です。
自分自身の人生は自分で管理せよという、いかにも米国的な独立独歩の勧めですが、日本人が現在置かれている状況は同じようなものです。
本書の要点は、「ウォール街のランダム・ウォーカー」と共通する点も多いのですが、以下のようにまとめられます。
投資の世界における一般的な誤解を明確にし、市場平均を上回ることの難しさとインデックス投資の優位性を合理的に説明しています。
木村 剛 (著)
令和元年6月3日附で発表された金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」が大変な波紋を引き起こしたのは記憶に新しいところです。
「老後資金の2,000万円不足」といった点ばかりが大々的に取り上げられましたが、実は長期の資産形成を通じて自分の身は自分で守れ!という提言でした。
「国が君のために何ができるかを問うなかれ、君が国のために何ができるかを問え。Ask not what your country can do for you. Ask what you can do for your country.」と述べた米国第35代大統領ジョン・F・ケネディの演説とは大違いですが、我が国では大騒ぎになるのも至極当然だったかもしれません。
その報告書の概要に「ライフステージ別の留意点」とあり、現役時代に留意すべき三点が挙げられております。
では、個人投資家は、現代の混乱する世界で自分を護りながら、そんな留意点を解決するために、どのような指南書を紐解けば良いのでしょうか?
米国では、国民性か(?)、先に挙げました二冊も含め、引退後の人生を謳歌するための投資戦略という趣旨の優れた解説書が投資教育や資産運用の現場でいくつか挙げられております。
私はそのような書籍のエッセンスは次の三点と考えます。
本書は2001年に発表された後、改訂版、2008年版、2010年版と版を重ねてまいりました。
しかしながら、著者の木村剛氏が日本振興銀行事件に関与したことにより有罪判決を受け、また版元であるナレッジフォア社も2013年に倒産したため、本書は、いわば”まぼろしの投資指南書”となってしまいました。
ただ、最も直近の発刊である「投資戦略の発想法 2010」でも、投資に関する記述は効率的市場仮説に立ちながら、≪資産を5つの分野に分散投資する≫ とか ≪自分の働きたい会社を20社選んでみよう≫といった古臭い提言が見られたり、市場指数への投資についての言及はありません。
それでも、「ウォール街のランダム・ウォーカー」と「敗者のゲーム」のエッセンスを日本語に整理した書と言えそうです。
近年、証券人として身に着けなければならない 能力や技能:Skills は、以前に比べて格段に幅広く、かつ高度なものとなっております。
財務諸表を読みこなす簿記の知識、統計学を理解するための数学の素養、海外の情報を読みこなす英語力等々は、企業によっては社員教育の一環として、鍛錬の場を設ける企業もあるのではないでしょうか。
ここでは、それ以外に証券人として意識しておくべき、分野として、金利と決済について注目してみたいと思います。
上野 泰也(著)
1980年代以降の金融工学の発展により、金融商品が金利を変数として組成され、金利を媒介として金融商品同士が交互に結びつけられるようになりました。
一方、企業の経営戦略、特に投資の可否を判定するにあたり、その投資が産む将来収益の現在価値を図る方策として金利による算定、いわゆるディスカウント・キャッシュ・フロー方式:Discount Cash Flowが常識となりました。
ここに、企業の資本戦略に際し、証券人と企業人の間で、同じ言葉:Lingoで、精緻な議論ができる土壌が築かれたのです。
また、現代の株式市場でも‟金利”は重要なファクターであり、個人の投資行動においても常に気を配るべきものでしょう。
その意味では、金利に関する解説書は書店に氾濫しておりますが、本書は金利の複雑な世界を平易に解説しているものです。
実際の金利をめぐる金融市場の現場を解説した書には「東京マネー・マーケット/東短リサーチ 加藤 出(編集)」と云う好著もありますが、こちらは少々、専門的な解説書です。
東短リサーチ(編)
加藤 出(編集代表)
宿輪 純一
証券人の仕事の一つであるブローカー業務は、お客さまに頂いた売買注文を市場で執行し、売買が成立したらキチンと代金を受けとり、証券を記帳する、これだけの単純な流れですが、そこには多くの決済機関が関与しております。
利害関係者たる金融機関、市場、決済機構が構成する世界は交通、通信、エネルギーに匹敵する巨大なインフラストラクチャーであり、現代を生きる人類の共通財産なのです。
本書はそのような世界中の決済に関わる事象を網羅した入門書で、初心者にも優しく解説されており、目を通して頂くと証券人の仕事に対する理解が深まるのではないでしょうか?
かつて日本経済新聞の4月1日付朝刊には「新入社員諸君」と題した某酒造会社の広告が出稿されるのが恒例でした。
新入社員のみならず、むかし新入社員だった方にも向けられた、社会人としての規範を示すエッセイがその目玉でした。
書き手は“人生の達人”山口 瞳、同氏が逝去されてからは“博奕打ち”伊集院 静が引き継いでおられましたが、残念ながら此の方も鬼籍に入られてしまい、この春の風物詩は途絶えております。
サラリーマン物で世に出た山口瞳と無頼派で鳴らした伊集院静、対照的に見えるお二人ですが、実は山口は「血族」、伊集院は「海峡」と、自身の係累を描いた骨太な長編をものしたという共通項があります。
このお二人には及びもいたしませんが、私自身が若き証券人諸氏に贈りたい書籍、それは安直なハウツー本や薄っぺらい人生論ではなく、読み易く、手元で何度も読み返せるような書籍を、ビジネス上の五つの 秘訣:Tips 毎に選んでみたいと思います。
Tip1山口 瞳 (著)
藤沢 武夫 (著)
岩下 尚史 (著)
北方 謙三 (著)
クリス・ミラー (著), 千葉 敏生 (翻訳)
人間の生体機能を使う活動は、その機能を使わないことや加齢により衰えていくことは理の当然です。
読書習慣も、日常的に怠れば、それに関する機能が衰えるのも、無理はありません。
ニューズウィーク日本版2025年1月21日号に 「My Reading Resolution 日々の筋トレのように読書トレーニングしてみた/アブドラ・シヒバー(米ブラウ大学公衆衛生大学院研究員)」という短い記事が掲載され、その問題点を簡潔にまとめています。
筆者は、読書することに関する各種の研究から、そのメリットをいくつかまとめております。
また、ネット上で文章を読むのは斜め読みに過ぎず、読書に集中し関心を向ける「認知的忍耐力」が低下するとも指摘しております。
そこで筆者は、短時間の運動でも効果があるというフィジカルな能力向上の方法論を用いて、朝と晩に15分ずつ、1日合計30分の読書を自らに課しましたが、その結果、いくつかの事実に気づきます。
情報洪水の現代では、集中力や情報処理能力を維持するのは重要課題であり、毎日の決まった読書は、脳の鋭敏さを保つ最善策だと結論付けています。
日本では文化庁により5年ごとに実施される「国語に関する世論調査」が代表的な国民の読書傾向の調査ですが、直近では23年度の1月から3月にかけて全国の16歳以上の6,000人を対象に調査が実施されました。
その調査によると、1カ月に1冊も本を読まない人が6割を超え、読書離れが急速に進んでいる事実が明らかになっています。
この結果を踏まえると、証券人として多忙な日々を過ごす皆さまですが、読書習慣を維持するという比較優位性だけで、そのキャリアパスにおいて大きな武器を獲得するはずです。
健闘をお祈り申し上げます。
[ 2025.03.27 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
日本取引所グループCEO、山道 裕己氏は、2025年の「年頭ご挨拶」の一節で次のように述べられました。
干支は巳です。相場の格言では「辰巳天井」と言われていますが、ヘビは脱皮を繰り返しながら変化成長を遂げます。今年は、昨年からまた一皮剝けて成長したマーケットとなることを期待したいと思います。
私は御屠蘇気分のまま目にした山道CEOの挨拶に、相場格言の意味するところはひとまず置きながら、手堅い年頭所感にまとめた話術に、妙に感心してしまいました。
それはさておき、このように市場関係者は、様々な発言の機会に相場格言を引用します。
その多くが落語の“まくら”のように、あるいは俳句の季語のように、時世時節(ときよじせつ)に寄り添うことでもありますが、なによりも関係者にとって、骨身に染みている共通体験であるからかもしれません。
一方、報道や雑誌を通じて、市場関係者以外の方々も、相場格言やアノマリーに触れる機会が増えております。
NISAを活用する個人投資家の中にも、投資のタイミングや投資商品について、そんな事柄を気にする方もいらっしゃり、いささか驚くばかりです。
そんな時代に、いま一度、アノマリーについて考えてみましょう。
SMBC日興証券のサイト内に『初めてでもわかりやすい用語集』という証券用語の説明セクションがあります。
その一角に懇切丁寧に説明されておりますので、まず、これを出発点としてみましょう。
【アノマリー】まさしく非科学的な経験則ですが、投資の最前線では、それを前提とした戦略を構築して成果を上げようとする投資家も多数いらっしゃるので、完全に否定すべきものでもありません。
マーケットの大勢についていくならば「勝ち馬に乗れ」、逆張りに徹するならば「人の行く裏に桜あり花の山」と、これまた相場格言に行きつくのも御愛嬌ですが、近年では行動科学、あるいは行動経済学という学問の領域でアノマリーを説明しようという動きも活発です。
それでは、この経験則をより精緻な統計学を駆使して検証して、その経験則をより高い次元で止揚しようとする研究はあるのでしょうか?
日本では日経平均に代表される指数を対象とした研究はみられるものの、個別銘柄が絡む事象の研究はあまりありません。
それは第二次世界大戦により取引所取引が統合され、戦後は取引自体が中止となっていた期間がある事とも無縁ではありません。
即ち、戦時中は1943年(昭和18年)に日本証券取引所1カ所に統合・縮小され、敗戦後の1945年(昭和20年)には取引所自体の閉鎖から1949年(昭和24年)5月16日の取引再開まで、日本の株式市場には長いブラックアウトの時期が存在しました。
このような非連続性は株価検証の障害になっているのではないでしょうか?
もうひとつは 株価データそのもの です。
国立国会図書館のリサーチナビに「株価の調べ方」と入力すると、罫線雑誌を中心にいくつか挙げられておりますが、体系的な資料は見当たりません。
なにより紙に記載された記録では、長期の統計値を算出するには、データ入力だけでも気の遠くなるような労力が必要です。
誰でも気軽に、かつ安価にアクセスできるようなデータベースの不在が、日本における投資研究の大きな障害となっているのではないでしょうか?
ノーベル経済学賞におけるこの分野での受賞者を見ると圧倒的にアメリカの学者が多いのも、コンピュータ技術の発展に加えて、この手のデータベースの存在が大きな理由でしょう。
その代表格にシカゴ大学が整備する、証券価格研究センターCenter for Research in Security Prices(CRSP)があります。
CRSPが提供するデータは、35か国の大手金融機関、政府機関、一流大学の研究機関など、600 を超える加入者に信頼されており、そのデータは次のような方々をサポートしています。
CRSP のデータベースに保存されている主要なデータには次のようものが含まれます。
驚くことに、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場銘柄については100年近いデータが保持されており、歴史的な暴騰・暴落についても検証対象にすることが可能なのです。
このように米国では、統計学的検証に耐えるだけの長期データが提供されており、アノマリーの様な経験則の実証研究も盛んです。
ここで再度申し上げますが、アノマリーに理論的な根拠はありません。
しかしながら、多くの投資家がそれを共有するようになると、その経験則を使えば、市場を上回る成果を獲得できる可能もあります。
合理的な説明ができない
≠
投資行動の参考にならない
また、景気循環や市場サイクルから、一定の周期性が存在するとすれば、そこにアノマリーを信じて投資する投資家も存在するでしょう。
季節・時期のアノマリー
また、個別の投資資産でも、その属性から独自の動きが経験則として蓄積され、アノマリーが形成されます。
投資対象の属性に関するアノマリー
さらに、現在ではPCの発展から、幾つかの事象との相関関係を検証する回帰分析が手軽にできるようになりました。 私が学んだビジネススクールで学生間のジョークに“One Regression, Two Regression…”、「一に回帰分析、二に回帰分析。。。」というものがありました。 経営管理のあらゆる場面で統計分析!という教義を嘆く自虐的な冗談ですが、投資の世界では意外な事象と投資に相関関係が発見され、話題を呼ぶこともあります。
意外なアノマリー
このような範疇において、いくつかの代表的アノマリーを見ていきましょう。
季節・時期のアノマリー日本の相場の起源は江戸時代の米先物にさかのぼることができると云われます。
江戸時代、諸藩が年貢として集めた米の多くは、大坂をはじめとする大都市へと運ばれました。諸藩は、中之島周辺の蔵屋敷に納めた年貢米を入札制によって米仲買人に売却し、落札者には米切手という1枚当たり10石の米との交換を約束した証券を発行しました。この米切手には、未着米や将来の収穫米も含まれ、これらが盛んに売買されるようになったと云われます。
享保15年(1730年)、江戸幕府は堂島で行われる正米商い(しょうまいあきない・米切手を売買する現物市場)と帳合米商い(ちょうあいまいあきない・米の代表取引銘柄を帳面上で売買する先物市場)を公認し、堂島米市場と呼ばれる公的市場を成立させます。
近代取引所に通じる会員制度、清算機能などが整えられた堂島米市場は、わが国における取引所の起源とされるとともに、 世界における組織的な先物取引所の先駆け として広く知られています。
ここで培われた取引制度や慣行の多くは、明治以降の商品・証券・金融先物取引所に受け継がれました。
近代に入り、渋沢栄一らが「東京株式取引所」を、五代友厚らが「大阪株式取引所」を創設、第一次世界大戦や関東大震災、さらには第二次世界大戦前後の混乱といった影響を受けるものの、現在に至る市場の発展は歴史的遺産といっても過言ではありません。
日本において市場アノマリーとは、証券市場のみならず、江戸時代の米市場の取引にまで遡ることのできる貴重な体験なのです。
それは非科学的な体験譚ながら、時には投資家に味方してくれるもので、まさしく「儲ける」とは信ずる者なのです。
<参考>
[ 2025.02.28 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
私の年末年始の決まり事は、「紅白歌合戦」を鑑賞し、「ゆく年くる年」で新年を迎え、おもむろに初詣に繰り出すというものです。
“歌は世につれ”という先人の知恵どおり、四時間ほどの間に一年の世相を振り返り、日本各地の厳かな表情に身の引き締まるような感慨を覚えつつダウンジャケットを羽織り、御町内の氏神さまをお祀りする神社へと向かいます。
当地の御祭神は毘沙門さまで、五穀豊穣、商売繁盛、家内安全、長命長寿、立身出世といった、現世利益を授ける七福神の一柱として信仰されております。
それに加えて、毘沙門さまは江戸時代以降、特に勝負事に利益ありとして崇められたため、この神社も株式等の市場関係者の信仰を集める、密かなパワースポットなのです。
例年、お参り後に御神籤(おみくじ)を引き、新年の吉凶に対する御神託を伺うのも習慣ですが、こちらでは毘沙門さまらしく、御神籤にも、願望、待ち人、恋愛、家庭などの項目の最後に相場(賭)という一項があります。
昨年2024年元旦にはこんなお言葉を頂戴しました。
【運勢 吉】
相場(賭) 油断すると不利になる
では、実際に2024年はどのような年だったのか振り返ってみましょう。
日本経済新聞をはじめとする各種報道機関が発表した通年の回顧を月次ごとにまとめると、下記のようになります。
1月年間を通じた高値は7月11日につけた4万2,224円02銭、安値は8月5日の3万1,458円42銭で、高値/安値の値幅は1万765円60銭と過去3番目の大きさでした。
年前半は生成AI(人工知能)ブームに伴う半導体関連株の上昇や上場企業の資本効率改革を背景に大きく上げ、年後半は海外投資家が売りに転じた影響等で大きく下げる局面もあった一方、米景気の堅調さや日本の上場企業による自社株買いが相場の支えとなりました。
これまでが大方の投資家の御記憶に新しいところですが、私自身が気づきました点を以下、記してみたいと思います、。
まずは悪い記憶から・・・・・
・市場関係者の不正
昨年一年間で、証券取引等監視委員会が報道発表した、不正取引関係の事案は下記の15件でした。
日 時 | 事 案 |
---|---|
2月13日 | 株式会社ニチリョク株券に係る相場操縦事件の告発について |
2月16日 | 株式会社コンテック役員による公開買付けの実施に関する事実に係る伝達及び取引推奨行為並びに当該役員から伝達を受けた者3名による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
3月22日 | 大盛工業株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について |
3月26日 | Quadeye Trading LLCによる高速取引に係る偽計に対する課徴金納付命令の勧告について |
3月29日 | タツタ電線株式会社社員による内部者取引及び情報伝達行為並びに同社員から伝達を受けた者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
5月24日 | 株式会社小僧寿し役員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
5月24日 | 株式会社小僧寿しの子会社社員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
6月4日 | Abalance株式会社株券に係る内部者取引事件の告発について |
6月14日 | 株式会社ストリームメディアコーポレーションとの契約締結交渉者の社員から情報伝達を受けた者による内部者取引及び当該社員による重要事実に係る伝達行為に対する課徴金納付命令の勧告について |
7月26日 | ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式に係る風説の流布に対する課徴金納付命令の勧告について |
9月13日 | 株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド役員からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
9月25日 | 野村證券株式会社による長期国債先物に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について |
10月25日 | 株式会社アルファクス・フード・システムとの契約締結交渉者による取引推奨行為並びに同契約締結交渉者及び同社役員から情報伝達を受けた者4名による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について |
12月23日 | 東京証券取引所社員が関与した内部者取引事件の告発について |
12月23日 | 金融庁職員による内部者取引事件の告発について |
私の記憶では、証券取引等監視委員会の発足以降、東京証券取引所、および金融庁の職員がインサイダー取引により摘発された事例は初めてではないかと思います。
市場取引の公正性を担保し、監視する組織の職員が不正に手を染める事態は、その信頼性ばかりでなく、あらゆる市場関係者の利益を大きく毀損します。
組織における悪意の発見は意外と重いテーマですが、それはそれとして、不正根絶のための関係者による不断の努力が求められます。
・拡大するグローバル投資資金の流入
ボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)は、グローバルアセットマネジメント・レポートとして、資産運用市場と運用会社の動向についてまとめたレポートを毎年発行しております。
昨年5月21日、2024年版として「AI and the Next Wave of Transformation」を発表しました。
そこにはハッキリと、一昨年の2023年における世界規模での運用資産の回復、すなわちコロナ禍を経験した投資家のマーケット回帰がハッキリと示されております。
この傾向は2024年も継続していたものと推察でき、それが市場を押し上げていた要因の一つと考えられます。
株式市場だけを見ても、南北アメリカ、アジア・パシフィック、欧州・中東・アフリカの株式市場全体の時価総額は18.15%増と、大幅な上昇を示しております。
⦁以下図表は全て国際取引所連合:World Federation of Exchanges(WFE)の統計資料より筆者が作成
・アメリカ一人勝ち
同じ表からは、欧州・中東・アフリカ地域の低迷、南北アメリカ地域の一人勝ちという特徴が表れております。
さらに、そのような状況の中、東証とニューヨーク市場との対比を見てみましょう。
ニューヨーク市場とナスダックは。各々時価総額が3割以上も増加していますが、東証は8.4%の増加にとどまり、グローバルな増加率18%にも到達しておりません。
特にナスダックの増加率は年間36.6%増という凄まじい数字を上げており、アップル、マイクロソフト、エヌビディア等の、IT/AI革命を担ってきた企業の勢いを実感します。
・東証の位置は
それでは、ニューヨークと東京は、世界株式市場の時価総額に対し、どの程度の比率を占めるのでしょうか?
この数字からはニューヨークとナスダックを合計した時価増額が、年間を通じて増加し、年末には世界市場の半分を占めるまでに成長している姿がみられます。
一方、東証は年間を通じで比率が低下し、年末には5%ギリギリの水準にとどまります。
ダイナミックな企業、特に革新的な製造業が資金調達するナスダックと、小粒なビジネスモデルの品評会のような東証のグロース市場では競争にならないという事実が、私たちに突きつけられます。
岸田前首相の肝いりで2022年を「スタートアップ創出元年」と銘打ち各種政策を推進しておりますが、資本市場も並走しながら、その拡大を期待したいところです。
昨年は、投資資金の流入がありながら、腰が入った投資よりも、裁定や思惑により指数が大きく振れました。
また、植田ショック、石破ショックのように、要人発言に一喜一憂した相場でもありました。
その意味では年初の御託宣、「油断すると不利になる」は的を射ていたようです。
2025年1月元旦、その御託宣はこんなものでした。
【運勢 小吉】
相場(賭) 適度にせよ 身を破(やぶ)る
如何でしょうか?
<参考>
[2025.01.29 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
今話題の、JPKI(公的個人認証サービス)について知れるウェビナーを3社共催で開催します。 オンラインでの口座開設やローン申込時に、ご利用者本人の認証や契約書等の文書が改ざんされていないことの確認を公的に行い、より安全・確実な本人確認を行うための方法としてJPKIの注目度が増してきています。この機会にぜひご参加ください。
【第 1 部】公的個人認証(JPKI)と、犯収法の見直し案とその動向
犯罪収益移転防止法(犯収法)で定められている本人確認方法、公的個人認証(JPKI)で実現できることや、現在政府によって検討が進められて
いる犯収法の見直し案と今後の動向について解説。
【第 2 部】公的個人認証によるマイナンバーカードの利活用とユースケースのご紹介
公的個人認証サービスでは、本人確認に加えマイナンバーの収集や、現況確認と言われる後日事業者がユーザーの基本4情報(氏名・住所・生年月
日・性別)に変更はないかの確認ができるなどeKYC にはない、新たな機能があります。これら機能の詳細やどのように活用可能か解説。
【第 3 部】「Synergy!」で実現する JPKI 連携を含む口座開設申込フロー
JPKI との連携を含めた口座開設お申込みフローについて解説。また「口座開設を行っていただくお客さまの数を増やすためには?」という観点からデジタル
マーケティング関連サービスをご紹介。
名称 | 金融機関担当者が知っておくべきJPKI(公的個人認証サービス)解説 〜犯収法の見直し案やJPKI の様々な利活用と非対面チャネルの整備方法とは~ |
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開催日時 | 2025年2月20日(木) 14:00~15:00 |
会場 | オンライン(Zoom) ※開催前に視聴用のURLをメールでお送りします。 |
参加費用 | 無料 |
定員 | 50名 |
第1部 14:05~14:25 |
公的個人認証(JPKI)と、犯収法の見直し案とその動向 サイバートラスト株式会社 セールスマーケティング本部パフォーマンスマーケティング統括部 フィールドマーケティング部 担当部長 田上 利博 氏 |
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第2部 14:25~14:45 |
公的個人認証によるマイナンバーカードの利活用とユースケースのご紹介 株式会社ODKソリューションズ 証券・金融ソリューション部 証券・金融営業課 戸祭 陽菜 |
第3部 14:45~15:00 |
「Synergy!」で実現する JPKI 連携を含む口座開設申込フロー シナジーマーケティング株式会社 金融ソリューション事業部ビジネス開発グループ 高橋由香里氏 |
※講演内容は変更する場合がございます。あらかじめご了承ください。
※競合企業、同業他社、個人の方のご参加はお断りさせていただく場合もありますのでご了承ください。
謹んで新春のお慶びを申し上げます。
皆様におかれましては新春を清々しい気持ちでお迎えのこととお慶び申し上げます。
旧年中は格別のご厚情を賜り、誠にありがとうございました。
昨年より弊社では、新たなSAKIXシリーズの商品として、
公的個人認証サービス提供の準備を進めております。
また、昨年3月にはITトレンドEXPOにも出展しましたが、
今後も継続的にソリューションサイトやセミナー等で皆様に有益な情報を
お届けできるよう努めて参ります。
本年は昨年築いた礎のもと、より一層の飛躍を目指すとともに
お客様に寄り添うベストパートナーであれるよう
社員一同、努力してまいりますので、
昨年同様にご高配を賜りますようお願い申し上げます。
株式会社ODKソリューションズ
証券・金融ソリューション部
週間ダイヤモンド、2024年12月7日号に「就職人気企業最新ランキング」という特集が組まれておりますが、文系男子/文系女子別のトップ・テン企業は下記のように報じられております。
男子・女子とも、商社がトップ・ファイブを独占するという結果も刮目すべき点ですが、大手証券の一角、大和証券グループのランキング入りには、古参の証券マンの私にとり感慨深いモノがあります。
その理由は、一つはランキング入り自体に、もう一つは主要銀行も含む大手金融機関の中でも上位にランキングされていることです。
私が証券の世界に飛び込んだ1980年、世間が業界に向ける眼は、決して芳しいものではありませんでした。
曰く、朝が早い、ノルマがきつい、入社後2~3年で半数以上が辞める、残業が常態化している、土日も無い・・・・等々、散々な評判でした。
さらには、バブル景気の中、業容が急速に拡大したことにより、従業員に大きな負担が掛かり、業界の内外で長時間労働が当然のことのように認識されてしまいます。
営業現場では、顧客との距離を他社より少しでも縮めようとするあまり、過剰な顧客接待合戦が繰り広げられ、担当者は高いノルマを担ぎながら、大きなプレッシャーを感じることになります。
この世界で生きる限り、どこもかしこもプライベートな時間などほとんどなく、「会社が第一」「会社が家族」という歪んだ価値観が定着していました。
この頃、都市伝説のように伝えられていたのが、早朝、家を出る時に娘さんから「また来てね!」と言われたという武勇伝/笑い話でした。
その真偽はともかく、実際の現場は、より壮絶だった記憶がありますが、以下は某証券の法人部長が某銀行の副頭取を接待した折の逸話です。
宴会は夜の9時30分頃にお開きとなった。翌朝、副頭取が銀行に出社すると、その法人部長の礼状が待っていたという。法人部長の部下が、朝一番で礼状を銀行まで持参してきたのだ。話を聞くと、当の法人部長は宴会後、本店に帰って礼状をしたため、翌朝部下に銀行に持参させたのだという。
(実録バブル金融秘史/恩田饒)
このように、上も下も一丸となって、しのぎを削っていたわけですから、ストレスや健康問題が深刻化していたにもかかわらず、回し車のネズミのように走り続けていたのでしょう、私自身も何の疑念もなく長時間労働に右往左往しておりました。
バブル崩壊後も、多くの企業が合理化のため、早期退職やリストラを進めたため、個々の従業員の業務量は増加という皮肉な状況が生まれてしまいました。
この頃から、過労死問題が社会問題に、それどころか国際問題としても認識され、ようやく人々の意識も変わり始めました。
2000年代に入ると、社会的に働き方改革への関心が高まり、労働法制の改正やITの進展により、いよいよ「ワーク・ライフ・バランス」という語が人々の口に上るようになり、ここに働き方改革の黎明期に突入します。
2平成19年12月18日、関係閣僚、経済界・労働界・地方公共団体の代表等からなる「官民トップ会議」において、遂に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が宣言されます。設定されます。
その冒頭、社会全体としての「仕事と生活の調和の必要性」と「目指すべき社会の姿」を示し、その重要性を高らかに宣しております。
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章 (内閣府)
(抜粋、下線は筆者)
我が国の社会は、人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している。
誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。
仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪であり、若者が経済的に自立し、性や年齢などに関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することは、我が国の活力と成長力を高め、ひいては、少子化の流れを変え、持続可能な社会の実現にも資することとなる。
そのような社会の実現に向けて、国民一人ひとりが積極的に取り組めるよう、ここに、仕事と生活の調和の必要性、目指すべき社会の姿を示し、新たな決意の下、官民一体となって取り組んでいくため、政労使の合意により本憲章を策定する。
そして、〔仕事と生活の調和が実現した社会の姿〕として、次の三点を掲げております。
また後段では〔関係者が果たすべき役割〕して、労使を始めとする国民の取り組み、国や地方公共団体による支援を踏まえて、社会全体の運動として広げていく必要性が強調されています。
その後、ワーク・ライフ・バランスの実現を推進する原動力として、2008年厚生労働省主導による官民共同事業「仕事と生活の調和推進プロジェクト」が始動します。
証券界でも、フレックスタイム制やリモートワークの導入といった対処療法的な試みを導入する企業は存在しておりましたが、 過労死問題や少子高齢化に伴い、政府が本格的な働き方改革を推進するに伴い、労働環境改善に本気で取り組む企業が増え、対応が進み始めます。
さらに、コロナ禍の時代に、リモート・ワークに代表される柔軟な働き方や一層のデジタル化が必須とされます。
証券界は、経済・社会の変化とともに、徐々に働き方改革を進めてきましたが、今後は業界特有の慣習を見直しつつ、柔軟な働き方を推進することになるでしょう。
その推進の背景をまとめると、業界全体での長時間労働や成果主義を重視する文化からの脱却を求められたものと云え、次の諸点が挙げられます。
その期待される効果は以下のようなものでしょう。
一方、企業から見て、このような働き方改革を実現するための具体策とはどのようなものなのでしょうか?
ここは多くの証券会社が就職希望者に向けて、大々的にアピールしたい点ですので、個々の会社のホームページをチェックすることにより、容易に浮かび上がってきます。
その中心は「人材教育とスキル・アップ」、「福利厚生」、「資産形成」といった三つのフィールドに分類出来ます。
第一フィールド:人材育成とスキル・アップ
かつては、電話帳とカバンを渡して街に放り出すという、乱暴なオン・ザ・ジョブ・トレーニングとも云えない丁稚奉公が横行しておりましたが、しっかりした教育システムが無い会社に世間の眼は厳しくなるばかりです。
第二フィールド:福利厚生の充実
安心して働ける環境整備と、万一の場合の医療体制、等々。
第三フィールド:資産形成
働きながら資産形成が可能となる体制作り、特に業界一丸となって作り上げた制度的資産形成への参加
「外圧によってしか変化しない社会」、「同調圧力が強く、多様な価値観は認められにくい」、とは、ステレオタイプな日本人論ですが、一方で戦後復興などを見ると、「恐ろしいほどに変わり身が早い」のも日本人の特性の一つでしょう。
ここで議論した、様々な「働き方改革」も、失われた30年を取り戻すための向上策と捉えれば、加速こそすれ失速することはなさそうです。
例えば、大和証券グループ本社のHPを見ると、「女性活躍推進等に関する目標」として、グループ内の大和証券における目標数字を設定し、経営のコミットメントとしております。
2026年度末までの目標(大和証券)
社会的誓約として具体策を掲げ、大きな変化を怯まずにその責任を果たそうとする姿勢は、先進的企業のイメージを高めることに成功しているのではないでしょうか。
証券大手の一角がランキング入りしたのも、そのあたりに理由がありそうです。
<参考>
[2024.12.27 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
ジャパン・ソサエティでの田淵会長を囲むディナーには、三十人のアメリカのトップエクゼクティブたちが集まってきた。すぐそばに新しくできた日本料理屋から幕の内弁当が届けられ、各人の前に置いてある。キリンビールの中びん一本とコップが一つ添えてある。ぼくも去年の暮れまで、ここの理事だったが、これがジャパン・ソサエティのディナーのやり方だ。
いつものたくましい日焼けした顔を、がっしりした体に乗せて、シュライヤー氏は会長の横で幕の内弁当を食べている。やはり、彼は来た。
誰かが田淵会長へともシュライヤー氏へともとれる質問をした。
「この暴落をどう思いますか」
田淵会長が言った。
「隣にいるシュライヤーさんと私は、証券界に入ってもう四十年にもなります。あるんですよ、こういうアップ・アンド・ダウンは」
「そうなんです、ただ、この五年間上げ相場だったから、下げ相場を体験したことのないウォール街の若い人たちは、びっくりしたでしょう。」
といってシュライヤー氏がうなずく。
寺澤芳男 著
「ウォール・ストリートの風」より
1987年10月19日(月曜日)、ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価が大暴落した「ブラック・マンデー:Black Monday」、現地では「血まみれの月曜日:Bloody Monday」とも称されたようですが、まさにその当日、ニューヨークにおける一場面です。
登場人物は、業界で大田淵と呼ばれた田淵 節也、野村證券会長(現・野村ホールディングス)、ウィリアム・シュライヤー:William Allen Schreyer、メリルリンチ会長(現・メリル)、語り手は野村證券の国際部門を率いておりました寺澤芳男、同社副社長。
*肩書は全て当時のもの
翌日、大暴落した東京証券取引所、“下げ相場を体験したことのない”若き証券マンだった私は、本社の営業場に設置された株価ボードに点滅する売り気配ばかりの表示を恐怖と不安で呆然と見上げるばかりでした。
あの日から、様々な暴落や金融危機を体験しましたが、業界の先達のようには肝が据わらないまま、常に右往左往していた私です。
そんな反省もあり、1980年代以降の世界的な金融危機、銀行システムの崩壊、バブルの崩壊、通貨危機など、様々な形で発生した事象を振り返り、その教訓を探ってみましょう。
【背景】
1970年代の石油危機によりオイル・マネーが急膨張し、ラテン・アメリカ諸国への貸付が拡大して、この地域の多くの国が積極的に資金を借り入れ、経済開発を進めました。
しかしながら、石油価格の低下やドル金利の急上昇により財政が悪化、通貨の下落と輸出収入の低迷が追い打ちをかけ、債務の返済が不可能となりました。
【結果】
多くのラテン・アメリカ諸国が債務不履行に陥り、地域全体が長期にわたる経済不況に苦しみました。
国際通貨基金:IMFと世界銀行が救済措置として、債務再編や構造改革プログラムを支援しました。
【教訓】
身の丈に合わない過剰な外部借入と、通貨が不安定な状況での外貨建て債務の拡大は、経済危機を引き起こしやすいものでした。
IMFが債務不履行諸国に課した「構造調整プログラム」による財政緊縮が国民生活を苦しめ、外資導入への慎重なアプローチの必要性が新興国に広がりました。
個人的には、このラテン・アメリカの債務危機は同時代的な出来事というより、その後の処理として発行されたブレディー債に苦労したことばかりが思い出されます。
それは1989年、当時の米国ブレディー財務長官:Nicholas Frederick Bradyによる提案に基づきラテン・アメリカ諸国の債務返済を目的として米国市場やユーロ市場等の国際市場で発行された債券の総称で、その条件の複雑さに四苦八苦した体験です。
【背景】
1987年10月19日(月曜日)、ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価が一日で約22.6%下落しました。この米国発の「ブラック・マンデー」は、世界の株式市場にパニックを引き起こし、各国で株価が大幅に下落しました。
【結果】
コンピュータによる自動売買、いわゆるプログラム売買により、相場が下落すると、さらに売り注文が増えるという悪循環が発生し、 投資家の疑心暗鬼と悲観からパニック売りが加速しました。
【教訓】
金融市場における自動取引のリスクが露呈し、その後の市場規制強化や取引停止措置:サーキット・ブレーカーの導入に繋がりました。
金融市場のボラティリティが一気に高まると、システム的なリスクが広がることが明確になり、金融機関のリスク管理が重要視されるようになりました。
私自身、市場の一時的なシステム危機で、それほど大きな経済危機には発展しなかったという印象残るのも、日本がバブル経済へと突入していった前夜だったからかもしれません。
それでも、金利を関数として多くの派生商品が出現したこの頃、金融危機の全貌が予測し難いものとなる時代の始まりでした。【背景】
アジア経済圏の成長期待が投資資金を世界中から呼び込み、多くの現地企業や金融機関がドル建て資金を借り入れ、経済がバブル化していましたが、その崩壊過程で通貨の信頼が揺らぎ、外国資本が一斉に逃げ出しました。
【結果】
タイのバーツが急落し、それが他の東南アジア諸国、インドネシア、マレーシア、韓国などに波及、これにより各国の為替市場や株式市場が急落して、多くの企業や銀行が破綻しました。
【教訓】
国際通貨基金:IMFが救済策を提供するも、厳しい財政緊縮が求められ、韓国のように反IMFの気運が盛り上がり、混乱に拍車が掛かった国もありました。
外資導入は新興国の資本不足を補うための切り札ですが、適切な外貨準備の重要性と、資本流入の管理が認識され、各国で財政・為替政策の見直しが進みました。
また、国際的には投機資金の管理監督の機運や、IMFの介入とその条件に対する批判が高まったことも指摘できます。日本も、欧米では駄目でもアジアでは何とかる、という根拠の無い思い込みもあり、この時期、アジアへの拠点拡張にしのぎを削りました。
私は、このアジア危機の中で、戦線を拡大したアジア拠点の閉鎖、縮小、売却に関わることになります。
ジャカルタでは暴動に巻き込まれ、マニラでは解雇社員から脅迫され、某国では拠点閉鎖を当局に拒否され、各国の官僚機構の中で申請をたらい回しにされ、酷暑や雑踏の中で七転八倒することになります。
それでも、M&A、すなわち企業売買や企業整理の実務を身に着けることが出来たというのは負け惜しみでしょうか?【背景】
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネット関連企業への期待が膨らみ、多くの企業が曖昧な事業モデルで利益も生まないような段階で株価が急騰したものの、過大評価が明らかになるにつれ、バブルが崩壊して行きます。
【結果】
2000年から2002年にかけて、NASDAQ指数は約80%も下落し、多くの企業が倒産しました。
さらに、IT企業の崩壊が実体経済に波及し、アメリカ経済の成長は鈍化しました。【教訓】
投資に際して、企業価値の冷静な評価の必要性、言葉を換えれば、将来に対する安易な成長期待ではなく、実際の収益性に基づいた評価が求められました。
また、一つのセクターに過度に依存する投資行動のリスク、分散投資の必要性が再認識されたことも重要です。
『今回は違う:This time is different!』、景気循環や金融政策を外れて極端な上昇相場が続く場合には、投資家の視点にバイアスがかかりやすい点を戒めた相場格言ですが、特に新規の投資テーマが取り上げられる場合には要注意ということでしょう。
『歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。』人類は愚かなものです。【背景】
リスクの高い住宅ローン(サブプライム・ローンSubprime Lending)が大量に証券化され、世界中の投資家が購入しましたが、住宅価格の下落によりこれが焦げ付きました。
さらには、サブプライム・ローンに関わる証券が組み込まれた金融商品までも信用を失い、市場では投げ売りが相次ぎました。
【結果】
米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻が引き金となり、高い信用力を持っていたAIG:American International Group, Inc.、ファニーメイ:Fannie Ma、フレディマック:Freddie Macなどが国有化される事態にまで至り、市場は大混乱に陥りました。
それは、世界的な金融危機に繋がり、株式市場の暴落、銀行の倒産、経済の大幅な縮小が生じました。
【教訓】
各国政府や中央銀行は、大規模な財政・金融政策を導入し、金融システムを支援すると同時に、金融機関が高いレバレッジをかけた投資を進めてリスクが増大していた事実を鑑み、金融規制の強化や、ストレス・テストの導入が進みました。
私は当初、海の向こうのお話だとばかり思っておりましたが、その影響が世界に広がるにつれ、日本のバブル時代の過剰融資による破綻劇が思いだされました。
【背景】
リーマン・ショックに際し、多くの欧州諸国が景気対策として財政支出を拡大しましたが、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどで財政赤字と公的債務が急増し、その返済が困難に陥りました。
ギリシャの債務問題の表面化をきっかけとし、欧州全体への信用不安が波及しました。
【結果】
欧州連合(EU)と欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)が債務国を救済するための支援策を実施しましたが、ギリシャを中心とした南欧諸国で、失業率が急上昇し、経済が低迷することになりました。
【教訓】
欧州単一通貨(ユーロ)の維持には、財政規律の統一と厳格な監視体制が必要であることが明らかになり、危機後、欧州では財政協定を導入し、加盟国に財政赤字の上限を設けるなどの再発防止策が取られました。
ドイツという基幹国の存在と、そのリーダー、メルケル首相の努力によりギリシャなどへの支援が実現して危機を乗り切ったことは金融市場の安定にも喜ばしい事でした。
しかしながら、異なる経済状況の国々を通貨で統一するユーロが内包する根本的な課題と、結果的に欧州ではドイツの一人勝ちのような状況を生み出してしまったことは、いまも引きずることになります。
【背景】
新型コロナ・ウイルスのパンデミックにより、世界の経済活動が一時停止し、株式市場が急落しました。
【結果】
世界中でロックダウンが実施され、多くの産業が停止、特に製造業において 工場の停止や輸送中断によりグローバルな供給チェーンが混乱しました。
【教訓】
各国政府は大規模な財政支援や金融緩和を導入し、経済の急激な収縮を防ぎました。
特に製造業においては、世界分業体制の見直しから、グローバル・サプライ・チェーンの再構築や国内回帰などの動きが出ました。
おそらく、多くの人々にとり初めての世界的パンデミックは本当に衝撃的でした。
ただ、私は香港駐在時に重症急性呼吸器症候群:SARSの集団発生に遭遇していたため、少しは冷静にふるまえたと自負しております。
当時の香港で、洪水等の天変地異や火事、さらにはテロに備えて準備してきた事業継続計画:Business Continuity Plan、BCPを、全く予想もしていなかった理由で発動したことは、いまでも強く記憶に残ります。
これまで概観して来た、1980年代以降の金融危機の教訓を総括すると、今後の課題として以下の諸点が挙げられます。
ブラック・マンデーの項でも述べましたが、金利を関数として多くの派生商品が出現したことにより、レバレッジ: Leverage)効果が高まり、巨大化した金融市場の全体図が不透明で予測し難いものとなり、その不安はますます高まっております。
投資家が抱く過剰な楽観やパニックが金融危機を悪化させることが多く、投資家の心理を考慮した市場安定策が関係者の課題となりました。
市場の信頼と安定性を担保するために、自動取引やレバレッジのリスクを管理する規制導入は、市場参加者の心理をも安定させます。
アジア通貨危機やリーマン・ショックのように、経済危機が瞬時に、グローバルに広がる現代では、国際的な協調が不可欠なものです。
政府や中央銀行はもとより、取引所、自主規制機関、民間企業同士でも国際協調が求められるでしょう。
ルールの緩和や不十分な監督が危機を引き起こすことが多く、危機後には規制強化の動きが見られました。
これらの危機の経験を通じ、金融システムは強化されてきましたが、常に新たなリスクが発生するため、金融機関の健全性の維持、自己資本比率や流動性規制など、金融システム全体の安定性を確保する取り組みが行われるように、継続的な監視と規制の見直しが求めらます。
救済策が繰り返し取られることで、金融機関がリスクを取り過ぎる可能性があるため、危機回避とモラル・ハザードのバランスが社会全体で共有されなければなりません。
金融危機の再発を阻む基盤整備は進んでおりますが、どんなきっかけで発生するか不透明な時代でもあります。
過去の事象から経験と教訓を振り返るのも有意義ではないでしょうか。
<参考>
[2024.11.28]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。
戦後、取引所再開後の外国投資家による日本株買いの歴史は、日本の経済成長、金融自由化、世界経済の動向などの影響を受け、いくつかの大きな転機を経て進展してきました。
さて、1980年4月、この世界に身を投じた私は地方支店勤務、海外留学を経て、1987年、ようやくシンガポールの地に赴任いたしますが、個人的に80年代の海外投資家をめぐる動きで記憶に残っているのは下記の三点です。
オイルマネー、ソブリン・ウェルス・ファンド等々、想像がつかないほどの、新しい巨額のお金が世界を駆け巡っている事実に、日本市場は湧きました。
例えば、当時のOPEC傘下の運用資金は2,360億米ドル、同時期の為替レート240円/米ドルからみると57兆円、それは1980年末における東証一部の時価総額732億円と比較すると、いつでも全ての日本企業を支配できるだけの気の遠くなるような巨額の資金でした。このような外部環境から、1980年代には証券大手を先頭として、その国際業務を急拡大させて行きます。
その熱気は証券大手各社の社史にも記録が残されており、現在でも、追体験できるようです。
アジア地域、主力の拠点は香港・シンガポールという二大国際金融都市ですが、当時の日系証券会社が携わった業務は、簡単にまとめてみると、次のように区分できます。
現地で発行された各種証券を日本国内の投資家に販売する輸入業務
シンガポールでは1984年に開設されたSIMEX:Singapore International Monetary Exchange、シンガポール国際金融取引所で取引される日経平均先物や金利先物が日本の機関投資家の需要に応えました。日系の大手証券は香港、シンガポールで銀行業務の免許を保有しておりました。香港では預金、為替、融資のフルライセンスを、シンガポールでは現地通貨シンガポール・ドル以外のオフショア取引、ACU(Asia Currency Unit)と呼ばれる非居住者外貨資金勘定を認可されていました。
銀行業務により、現地投資家が保有する投資口座の滞留資金に金利付与、信用取引の融資が可能となりました。実際には80年代の日系証券の収益構造は圧倒的に輸出業に傾斜しておりましたが、1980年代後半から1990年代にかけて、日本の投資家によるアジア新興市場への注目が集まりました。
日本経済が成熟する中で、東南アジア諸国の急成長、低賃金労働力の活用、経済のグローバル化の恩恵を受け成長の余地が大きいアジアの新興市場へ関心が高まったのです。
しかしながら、1997年のアジア通貨危機により、多くの投資が影響を受け、ブームは一時的に後退しましたが、アジア市場の成長ポテンシャルは高く、現在も多くの投資が続いています。
どちらも赴任時の印象で、典型的な東南アジアの都市の様子ですが、現在とは隔世の感があります。
赴任時はアジア経済危機以前でしたので、どちらの都市でも日本の金融機関は、長信銀、都市銀行、信託銀行、地方銀行、大手証券会社、中堅証券会社等々、ひしめき合うような状況でした。
その駐在員各位と顧客先、監督官庁、弁護士事務所、会計事務所、さらには接待先の夜の街でと顔をあわせるわけですので、情報収集には細心の注意を払いました。
また、当時は外資への門戸が開かれていなかった近隣諸国、インドネシア、マレーシア、フィリピン等々の顧客開拓にあたっても、競合他社とぶつかり合ったものです。
そんな中で面談する中華系投資家の行動で記憶に残るものが彼らの米ドル信仰でした。日本株の売買決済は当然、日本円で執行されますが、彼らは多くの場合、欧米の銀行から米ドルで資金を振り込んで来ました。
業者としては為替スプレッドも抜けるので有難い事ですが、彼らにその意図を聞いてみると、いざというときに信頼できる通貨で資産を保全したいので米ドルを選ぶ、どのような国で投資機会が発生しても米ドルなら迅速に投資が出来る、米ドルならば決済の事故の可能性が少ない、と即座に披露してくれたものです。
東南アジアの華僑系投資家は第二次世界大戦前後に故郷を後にし、親戚や同郷者の暮らす国に落ち着き、日系企業のエージェントや日系商社との取引で財産を築いた方々も多く、その情報収集力もさることながら、投資決断も素早いものでした。国を出た後の苦労話、さまざまな冒険譚、移住先での政治的迫害等のお話を伺えば伺うほど、その米ドル信仰の強さが浮かび上がってきたものです。
1990年代には、そろそろ世代交代の時期にあたり、華僑二世の方々ともお話しする機会も増え、欧米で教育を受けたこの世代の、日本人とは異なるグローバルな視点に驚かされたのも強く記憶に残るものです。
<参考>
[2024.10.31 ]
[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。