これも古参の金融関係者ならば御記憶でしょうが、昭和30年代の株式ブームに沸く証券会社の店頭に「ダウを買いたい!」という客が現れたという笑い話がありました。

ダウ平均の一本調子な上昇に浮かれた俄か投資家が、在りもしない商品を買いに来たという、素人を嘲笑するような、いささか悪意のあるものでした。

指数関連の金融商品が市場で多数取引される現代において、若手の金融人諸氏には、この話のどこが面白いのか、全く理解できないかもしれません。


(日本証券取引所グループHPより)

このような金融商品が数えきれないほど出現して、市場の多様性と規模が拡大したこの半世紀ほどの間に、どのような動きがあったのでしょうか?

この間、世界の金融市場を牽引してきた米国、その動きを振り返ってみましょう。

1929年10月24日(木曜日)、ニューヨーク証券取引所の大暴落に端を発した大恐慌以来、米国では金融機関に対する規制を強化/維持して、その安定性を確保してきました。

政府がお墨付きを与えることにより、米国の金融機関は厳しく制限されながらも保護され、「3%で借りて、6%で貸し、午後3時にはゴルフに行く。」、3-6-3の法則と揶揄されたほど、安定的で競争もない業界が築かれたのです。

しかしながら1970年代後半から、インフレや経済の低迷という外部環境の変化から、リスクヘッジ手段として金融派生商品が注目を浴び始めます。

その背景となったのが、今日も良く知られている二つの輝かしい金融理論でした。

  1. 現代ポートフォリオ理論
    保有証券の組み合わせでリスクを極小化する。
  2. オプション理論
    保有証券とブラック・ショールズ・モデルにより算出されたオプションとの組み合わせでリスクを制御する。
さらに、1981年10月に就任した第40代大統領ロナルド・レーガンによる、レーガノミックスとよばれた新自由主義政策、規制緩和・自由化の時代に突入し、ぬるま湯的な金融業界の環境は一掃され、競争が激化し、多方面への業務拡大にしのぎを削る時代に突入します。

この流れの中で登場してきた新しい金融商品を、いくつか振り返ってみましょう。

金融派生商品(Derivatives)

先物取引、オプション取引、スワップ取引、フォワード取引等、デリバティブ(Derivative)とは“派生的、副次的”という意味の英語で、株式、債券、金利、通貨、金、原油などの原資産の価格を基準に価値が決まる金融商品の総称です。

古くは米や綿花等の農作物を対象とした先物取引から発達し、1990年前後からは、株式、債券などの金融商品を対象とした先物取引、オプション取引、スワップ取引などが活発に取引されるようになりました。

さらには、ヘッジ目的よりも、積極的なポジション構築や他の金融商品との組み合わせにより利益を追及する手段として活用され始めました。

近年では、天候(降雨量や降雪量、気温など)を対象とする「天候デリバティブ」や、信用力などを対象とする「クレジット・デリバティブ」なども登場しています。

資産担保証券(Asset Backed Securities)

各種資産の信用力や、資産の生むキャッシュフローを担保として発行される証券の総称で資産を証券化したものです。

企業などが有する資産を特別目的会社(SPC:Special Purpose Company)等に移管、SPCはその資産を担保に証券を発行し、投資家に販売します。

資産が債権(売掛債権、ローン債権等)であれば、企業は債権の返済期限前の資金回収が可能となり、投資家は定期的な収入が得られることになります。

原資産は基本的に定期的に継続的な収入が得られるものと判断できれば、商業用不動産担保ローン、住宅ローン、自動車ローン、リース、クレジットカード、病院収入、著作権収入等、幅広く求めることができます。

ちょっと特殊な例ですが、1997年、ロック・ミュージシャンのデヴィッド・ボウイは、自身の著作権収入を担保に利回り7.9%の10年債を発行し、そのすべてを保険・金融大手のプルデンシャル・ファイナンシャルに売却して、5,500万ドルを入手しました。市場ではBowie BondとかZiggy Bondと呼ばれ、大きな話題となりました。

ETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)

金融商品取引所に上場される投資信託で、大きく二つに分類できます

  1. インデックス型
    特定の指数、例えばNYダウ、S&P500、債券、REIT(リート)、通貨、商品等々の指数の動きに連動する運用成果をめざすものです。
  2. アクティブ型
    インデックス型のような連動対象指数を定めないものです。

投資信託が1日1回算出される基準価額で、1日1回しか取引できない商品であるのに対し、ETFは、取引所の取引時間内であれば、相場動向を見ながら、いつでも売買できる点が異なります。

投資先もグローバルに選べ、米国、日本といった先進国以外にも新興国や地域、あるいは金や石油などの資産に手軽に投資ができるようになりました。

*********************************

さて、このような金融商品も俯瞰しながら、この半世紀の変革における重要事項を、私なりにまとめてみました。

1.現在価値(Present Value)という考え方が定着した事

ある資産が生む将来の価値から、金利などを割り引くことにより、その資産を、現在の時点で入手した場合の価値を導き出すという考え方です。 金融商品の現在価値を計量的に算定し、現在の市場価値と比較することで、合理的な投資判断が可能となるという考え方です。 オプションの複雑な計算も、基本的にはこの考え方に則ったものといえるでしょう。 この考え方こそが、企業の設備投資、債券投資、株式投資、M&A、証券化、といった現代の金融の通底に流れる概念でしょう。

2.すべての金融商品が「金利」を変数として結びつけられた事

これにより、金融取引の地平が革命的に拡大したという事実は歴史が証明するところです。 一方で金融商品同士の結びつきが複雑/高度になり、 金融市場でのショックが、より大きく、かつ広範に伝搬することも、リーマン・ショックやサブプライム・ローン問題等で経験しました。

3.情報の非対称性が緩和された事

かつて複雑な金融商品や高度な金融取引は、豊富な資本と情報を持つ機関投資家の独壇場でした。 しかしながら、近年の金融商品やIT技術の発展は、その優位性を減じ、多くの投資家が市場で公平に振る舞えるように近づいており、いわば金融市場の民主化が進んでいるのです。

4.IT革命が金融に大きな影響を与えた事

1980年代半ば、金融の現場やビジネス・スクールではヒューレット・パッカード社の、こんな小型の関数電卓が標準装備でした。

Microsoft、Windows革命の前夜、手元のこの小さな計算機が縦横無尽に活躍したのは、石器時代の出来事のようです。

パーソナル・コンピュータの発展により、複雑な計算が机上で簡単に実行でき、過去のデータもネット経由で簡単にダウンロードして処理できる時代となり、金融の現場は大きな変革を遂げました。

金融工学という学究の世界でも、大きな成果が生み出され、2013年のノーベル経済学賞が、「資産価格の実証分析に関する功績」として、ユージン・ファーマ(Eugene F. Fama)、ラース・ハンセン(Lars Peter Hansen)、ロバート・シラー(Robert James Shiller)という三人の米国の研究者に授与されたことは、その証左でしょう。

さらには、ブロック・チェーンの可能性として議論される効率的決済や、ビット・コインに代表される暗号通貨(Crypto Currency)も、IT革命が背景にあってこその課題でしょう。

<参考>

[2024.3.19 ]

[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。


ODKソリューションズ(本社:大阪府大阪市、代表:勝根 秀和、証券コード:3839、以下 当社)は、2024年3月5日(火)~8(金)の4日間、Innovation&Co.主催のオンライン大規模イベント「ITトレンドEXPO2024」の業務効率化ブースに出展することをお知らせいたします。


「ITトレンドEXPO」公式サイト:https://it.expo.it-trend.jp

当社のブースでは、金融ソリューション『SAKIX(サキガケ)』シリーズを中心に、金融機関のバックオフィス業務の効率化を実現するシステムをご紹介いたします。ご来場いただいた皆様は、各種資料のダウンロードが可能となります。

セールスピッチにも登壇

3月5日(火)17時30分~18時に開催されるセールスピッチにも登壇予定です。金融機関向けバックオフィスのシステムにご興味がある方は是非ご視聴ください。  事前登録につきましては、下記URLよりご確認ください。

https://it.expo.it-trend.jp/session/time?utm_source=client&utm_medium=press&utm_campaign=press#session-258

金融ソリューション『SAKIX』シリーズとは

2023年3月にリブランディングした『SAKIX』は、金融機関のバックオフィス業務の機能強化や業務効率化を目的とした5つのシステムで構成されております。
・証券総合システム    :『WITH-X(ウィズクロス)』
・ほふり接続システム   :『COMBI-X(コンビクロス)』
・IFA向けWeb取引システム   :『KIZUNA-X(キズナクロス)』
・不公正売買監視システム :『FOR-X(フォークロス)』
本システム群は、100社以上の導入実績があります。


『SAKIX(サキガケ)』ソリューションサイト:https://sakix.jp/

※『SAKIX(サキガケ)』『WITH-X(ウィズクロス)』『COMBI-X(コンビクロス)』『KIZUNA-X(キズナクロス)』『FOR-X(フォークロス)』は、当社の登録商標です。

「ITトレンドEXPO」開催概要

「ITトレンドEXPO」は、年間約2,000万人に活用されているIT製品の比較・検討サイト『ITトレンド』を運営している株式会社Innovation & Co.が主催する国内最大級のオンライン展示会です。 今回は「ビジネスシーンに、新しい出会いを。」をコンセプトにDX化をテーマとしたセッションや展示エリアが強化されております。


【株式会社ODKソリューションズ】
 〒541-0045 大阪府大阪市中央区道修町一丁目6番7号
 代表者:勝根 秀和
 設立:1963年(昭和38年)4月2日
 資本金:6億3,720万円(2023年9月30日現在)
 Tel:06-6202-3700(代表)
 Fax:06-6202-0445
 URL:https://www.odk.co.jp/
 事業内容:教育・金融・医療分野へITサービスを提供
『ビジネスを、スマートにつなぐ。人生の、ストーリーをつむぐ。』 ITの力で、すべての人の人生に喜びをもたらしたい。私たちのビジネスは、夢に向かって挑戦する人の人生を、より素晴らしい方向へとリードするソリューションでありたいと願っています。 1963年の創業以来、積み重ねてきたデータと経験で、お客様のビジネスをスマートにつなぎ、そして、より豊かな人生のストーリーをつむいでいきます。
1987年公開のアメリカ映画『ウォール街:Wall Street』は、チャーリー”Wild Thing”シーン演ずる主人公の若手証券マンが、大きな取引を求めるあまり、違法なインサイダー取引に手を染め、転落していくさまを描いて世界中で大ヒットした作品です。 なかでも、本作でアカデミー主演男優賞を獲得したマイケル・ダグラス扮する、冷酷かつ貪欲な投資家が放つ「Greed is good!強欲は善だ!」という名台詞は、今でも頻繁に引用されるほど強烈なものでした。

日本でも「金儲けは悪いことですか?」と言い放った投資家がいらっしゃいましたが、もちろん、強欲も金儲けも悪いわけではなく、ルール違反が悪いのです。

さて、この映画の冒頭、主人公が朝一番でセールス・フロアーの自席に着くと、ニューヨーク証券取引所のオープニング直前に、フロアーのスピーカーから「よく聴け、特に新入りども!日経指数が大幅上昇で終わっている、寄り付きから日本人は強気で来るぞ!」と大音響でセールス・マネージャの激が飛ばされます。

私は米国で本作をリアルタイムで鑑賞しましたが、劇場の暗闇の中で、アメリカの証券マンが日本の市場動向を意識する描写には、びっくりさせられたことを昨日のように思い出します。

クリスマス休暇のシャンパンが抜けきらない米国の証券関係者の眼に、2024年初頭の日本株急騰は、どのように映ったのでしょうか?


(Bloomberg)

大発会こそマイナスのスタートで冷や汗をかいたものの、月中は一本調子の上昇が続き、結局、月間の上昇率は8.43%となりました。

この間、米国では、各種経済指標の発表に一喜一憂したり、連邦公開市場委員会(FOMC)の動きに疑心暗鬼となったりしましたが、メタやアマゾンなどの好決算銘柄が市場を牽引し、S&P500指数とNYダウは史上最高値を更新、結局、月間で主要3指数はS&Pの1.59%を筆頭に、いずれも1%台の上昇でした。


【出典:マンスリー・マーケット 2024年2月2日 日興アセットマネジメント 】

投資主体別にその動向を見てみますと、東京証券取引所が発表する『投資部門別売買状況』に、月間を通じて、2兆3,500億円の国内法人と個人の売り、2兆円の海外投資家の買いという状況が記録されており、海外投資家の強い買い意向が目立ちます。

たった5週間の大幅上昇ではしゃぐのも如何なものかとも思えますが、「バブル超えも射程に入った」との勇ましい掛け声をともない、日経ヴェリタス誌は2024年1月28日号で≪だから私は日本株推し≫と云う特集を組んでおります

海外の機関投資家で、運用の現場にいる方々から、日本株に向かう様々なコメントが集められており、それは下記のようなものでした。

しかしながら、いずれも中途半端な理由に聞こえ、また各々の要因が相互作用を起こし、相場を短期に大きく押し上げたとは考え難いものばかりです。

結論としては、やはりコロナ禍やウクライナ情勢等々の不透明要因に先が見え、世界規模で投資資金が怖々とマーケットに戻り、ニューヨーク市場やナスダックを押し上げた昨年に引き続いて、その本格的な回復となるであろう2024年・・・日本株の上昇はそれを先取りしているようです。

ただ、現状では戻って来た投資資金のグローバルな配分から、海外投資家に「持たざるを得ない」という理由で日本株が買われているとしたら、指数構成銘柄のような流動性が高い銘柄を、目をつぶって買っている面が大きいのではないでしょうか?

そんな上がるから買う、買うから上がるでは、海外勢も値幅が獲れたり、天井圏にあると判断したりすれば売ってくるのは必定です。

現状の金融相場のような状況から、日本株に関わる海外投資家が、先に挙げるような幅広い要因を消化して堅実な日本株のポートフォリオを構築するには、いま少し時間が掛かるかもしれませんし、その間は高値近辺での荒っぽい値動きが続きそうです。

[2024.2.9 ]

[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。



株式会社証券保管振替機構の株式等振替制度において、2025年度4Q(2026年1月~3月)を目途に「加入者情報システムと株主通知システムを統合した株主情報システムの新規構築」、および「株式等口座振替システムのリプレース」を行うプロジェクトが進められています。
本資料では、機構から公表された『仕様変更概要一覧』を基もとに、当社ほふり接続システムCOMBI-X(コンビクロス)の担当者が各案件の概要とお客様への影響について解説します。 2024年1~3月に予定されております、機構での制度参加者向けの機構説明会を前に、情報収集としてご活用いただけますと幸いです。


株式会社ODKソリューションズ
ほふり接続システム担当

資料ダウンロードはこちら

2023年回顧

2023年、日経平均株価225種は、1月4日大発会25,661.89円から、12月29日大納会33,464.17円まで、三割超の上昇を遂げましたが、一本調子に上げたわけではなく、なかなかに波乱含みの相場展開でした。

(Bloomberg)

日本経済新聞の昨年元旦に掲載された「主要企業の経営者による2023年の景気予測」は、下記のように警戒感のあるものでした。

この記事を出発点に、各種報道を拾いながら、2023年の株式市場を振り返ってみましょう。

    主要企業の経営者20人に2023年の国内景気の見通しを聞いたところ、実質国内総生産(GDP)の前年度比伸び率は平均1.3%だった。新型コロナウイルス禍で低迷していた個人消費と設備投資の伸びが続くと見込む。原材料価格の高騰や米欧景気の減速といった海外からの逆風への警戒も強く、回復のペースは22年度より緩やかになる見通しとなった。(日本経済新聞2023年1月1日)

このように、若干の景気スローダウンが懸念されていた市場ですが、3月に米シリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻したことから一時大きく下落しました。

しかしながら、5月には東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に対する是正要請や、岸田政権による『新しい資本主義』の最重要課題とされた賃上げによるデフレ脱却期待などを背景として、日経平均株価は3万円台を回復しました。

6月には米投資会社バークシャー・ハサウェイによる商社株の買い増しが判明、日本株に対する注目が一段と高まったとされ、日経平均株価は約33年ぶりにバブル崩壊後の高値を立会時間中に更新するとともに、7月3日には33,753.33円の年初来最高値を記録しました。

その一方、7月以降は米連邦準備理事会:FRBの金融引き締め姿勢が懸念され、米10年物国債利回りが上昇(債券価格は下落)、8月には格付会社のフィッチ・レーティングスが米国の外貨建て長期債務格付けを引き下げ、10月には米10年物国債利回りが16年ぶりに5%を突破、この間、日米の株式市場は大幅な調整を強いられました。

11月に入るとインフレ鈍化の兆しを背景に、FRBの利上げ停止期待が高まり、米長期金利の上昇が一服、株式市場は回復基調を辿り、NYダウは12月13日に1年11カ月ぶりに過去最高値を更新しました。

日経平均株価も11月以降に取引時間中、いわゆるザラバではバブル相場以降約33年ぶりに3万3,800円台を回復する場面が何度かありました。

ただ、植田新総裁率いる日銀の金融緩和政策修正観測が噂されるも、欧米の中央銀行が利下げの議論に移行したことにより、為替の円安基調が反転、円高が進んだ影響を懸念する声が強まる中、年末にかけて日経平均株価は何度も新値をチャレンジするものの、押し返される展開で年末を迎えました。

【株高の要因は?】

では、どのような投資家が市場を牽引したかというと、東京証券取引所が発表している、「投資部門別売買状況」に、通年を通じて外国人の買い、国内法人と個人の売りという状況が記録されております。


冒頭に記しました、景気予想と同日・同紙に掲載された「経済人による2023年の株式市場予測」は、下記のようなものでした。

    主要企業の経営者20人に2023年の株式市場の見通しを聞いたところ、19人が日経平均株価の高値を「3万円以上」(注:予想された高値の平均値は31,200円)と回答した。米国の利上げが一服する年後半に上昇に転じると見込む声が目立った。半導体や脱炭素関連のほか、消費回復が続くとみてレジャーや小売企業への注目も高い。(日本経済新聞2023年1月1日)

お屠蘇気分の与太話という揶揄もありますが、やはり現場で日本経済の舵をとる方々の予想値ですので、経営者の肌感覚が反映された相場観として敬意を表しても、その予想値、日経平均31,200円を大きく超えて1年を終えた原因は海外投資家の買いにあったと言えそうです。

海外投資家を呼び込んだ理由は巷間、いくつか挙げられております。

しかしながら、いずれも中途半端な理由に聞こえ、また各々の要因が相互作用を起こし、相場を大きく押し上げたとは考え難いものばかりです。

実際は世界の投資資金自体が増加し、日本株もグローバル・ポートフォリオの中でリバランス/調整されたと見る方が適当ではないでしょうか?

世界規模での投資資金の動向は、なかなか見え難いモノですが、ボストン・コンサルティング・グループが2023年5月15日に米国で「Global Asset Management 2023: The Tide Has Turned」と題したレポート発表しており、資産運用市場と運用会社の動向について下記のように報告しております。

2023年の動向については未発表ですが、2022年に落ち込んだ部分を、株高等により回復していたとすれば、2023年の日本株高も理解できます。

【バブル天井超えは?】

2023年は、バブル天井、即ち1989年12月29日大納会、日経平均38,915.87円超えを何回かチャレンジして達成できず、市場関係者の失望を買いました。

しかしながら、当時と現在の日経平均の構成銘柄や算出方法の違いから、もはや単純に比較するのも難しい数値になっているのは、市場関係者の共通認識でしょう。

それでも、2023年の株式市場ではこの数字が固い抵抗線として機能していたように、市場関係者の強い、強い記憶の残像が感じられます。

連続性も指数としても、いささかいびつであったり、先物・オプションとの関連を無理やり設定されたり、日銀によるETFの過剰購入といった状況を考えると、日経平均に代わる指数を真剣に考えるのは新時代における金融関係者の課題でしょう。


2024年の見通し

恒例の日本経済新聞の元旦記事「経済人による景気・株価予測」から見てみましょう。

    (景気)
    主要企業の経営者20人に2024年度の景気を聞いたところ、実質経済成長率は平均1.0%だった。消費回復などで上向きの動きが続くとの見方が大勢で、予想するインフレ率は平均2.3%となった。(日本経済新聞2024年1月1日)

    (株価)
    主要企業の経営者20人に2024年の株式市場の見通しを聞いたところ、半数が日経平均株価の終値ベースの史上最高値である3万8,915円を超えると回答した。(注:予想された高値の平均値は37,900円)需要サイクルの改善で半導体や電機などの業績が拡大するほか、賃上げに伴う個人消費の回復で、年末の更新を見込む声が多い。(同上)

それでは市場を取り巻く環境は如何でしょうか?

企業業績の行方や、地政学的リスク等々は、各種、新聞雑誌に取り上げられておりますので、簡単に指摘する程度にとどめますが、以下に株式市場を取り巻く具体的な課題を上げてみたいと思います。

【FRBの動向】

先手、先手で金融政策を打って来たFRBは、日銀とは異なり金利調整というオプションを既に得ております。今後も雇用情勢をみながら、慎重な金融政策の策定が予想されます。

【植田日銀の行方】

FRBとは対照的に選択肢に乏しい日銀は、政策の早期修正観測が残る中、投資家に神経質な対応を迫りそうです。積み上がったETFの扱いも、株高である今だからこそ課題となりそうです。

【史上最大の選挙の年】

英エコノミスト誌は2024年をこう表現しました。1月の台湾総統選挙を皮切りに、インドネシア、ロシア、韓国など主要国で大統領や議会の選挙が相次ぎます。日本も9月末に岸田文雄首相の自民党総裁任期が満了を迎えるのに伴い総裁選が実施され、その後は11月の米国の大統領選挙が待ち構えております。

【企業業績】

製造業の業績回復や値上げの浸透等が反映される一方で、中国経済の減速、人手不足やロジスティックスの根詰まり等の懸念材料はあります。

【賃上げ】

世界的な物価上昇や円安による輸入物価の高騰はインフレターゲットを満たすものですが、継続的な賃上げが無ければ本格的なデフレ脱却は望めないでしょう。

【アメリカ1強時代】

武者リサーチ代表、武者陵司氏は、その最新レポートで「これからの世界の最大の成長領域はインドでもアフリカ等グローバルサウスでもなく、「第七大陸」、国境のないサイバー空間である。」と喝破されております。その「第七大陸」を米国企業が圧倒的に支配しており、中核企業の本当の強さが現れるのはこれからではとも指摘されております。

【社会状況】

コロナ禍からの本格回復の年として、経済活動の拡大に期待が掛かる一方で、コロナ禍を経験して、従来必要とされていたものが、実は不要であったという知恵もビジネスの世界は得られたようです。

【新NISA発足】

旧NISAから、より使い勝手を向上させた新NISAが発足します。若い世代の制度活用が期待されており、実際にその世代の口座開設がネット証券中心に進んでいる様子で、例の老後2,000万円問題から、国をあてにせず自助努力を深めようとする層がこのあたりということであれば皮肉なものです。

ただ事前の報道では積み立ての人気商品はS&Pや全世界型のETFであり、日本の株式市場にはどの程度の資金が流入するのかは未知数です。

【2024年の投資戦略は?】

米国の好調がある限り世界的な投資資金の拡大が続くとすれば、株式市場に流れ込む資金は増加することとなり、東証もまたその恩恵を被り、高値を獲りに行く動きになるのではないでしょうか?

ただ、市場は高値圏での取引にありがちな、ちょっとした悪材料に大きく反応する状況にあります。悪材料が出た場合には下値を丁寧に拾うことも戦略ですが、それはどんな投資家にとっても「言うは易し、行うは難し」ですので、3月/9月の決算時期の売り買い交錯のなかで安くなった局面を狙うという戦略もあるでしょう。

レンジとしては年前半で32,000円から36,000円まで、年後半に35,000円から39,000円までと思われます。

[2024.1.9 ]

[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。



元旦夕方に発生いたしました、
石川県能登地方を震源とする「令和6年能登半島地震」、
また2日には羽田空港において発生した
航空機事故の被害に遭われた方々に
謹んでお見舞い申し上げます。
地震、事故によってお亡くなりになられた方々の
ご冥福をお祈りするとともに、
被災地域の一日も早い復興をお祈りいたします。

昨年弊社では、3月に証券ソリューションを
「SAKIX(サキガケ)シリーズ」
としてリブランディングを行い、
新たなブランドとしてスタートを切りました。
また、直近12月には、
ソリューションサイトを立ち上げ、
これまで以上に皆様に有益な情報を
お届けできるよう体制を整えております。

本年は昨年築いた礎のもと、
より一層の飛躍を目指すとともに
お客様に寄り添うベストパートナーであれるよう
社員一同、努力してまいりますので、
昨年同様にご高配を賜りますようお願い申し上げます。


株式会社ODKソリューションズ
証券・金融ソリューション部

NFTを技術的側面から一歩踏み込んで解説

唯一無二の価値を裏付けるNFTは、Web3.0の技術の中でもっとも事例が多く、さまざまな分野において活用が進んでいる領域だといえる。では現在、NFTの技術は人々にどこまで理解され、そして浸透しているのだろうか。
ここでは、今後より広く利用できるように、NFTを技術的側面から一歩踏み込んで解説する。NFTのビジネス活用を検討する企業は、ぜひご参考ください。

1:そもそもNFTとは?基礎情報をおさらい

近年、注目を集めるNFTは、多くの領域でビジネスへの活用が実施・検討されている状況だ。ここでは、そもそもNFTがどのようなものなのかについて、おさらいしておこう。


1-1:NFTの概要
    NFT(Non-Fungible Token)とは非代替性トークンの略称で、デジタルアセットやコンテンツを一意で不可分な形で表現するために、後述するブロックチェーン技術を利用したデジタルトークンのことだ。トークンとは、ブロックチェーン上で作成される一意で代替不可能なデータ単位をさす。
1-2:NFTの特徴と活用メリット
NFTには、大きく以下3つの特徴がある。 NFTは代替不可能性である点が特徴で、各NFTは一意であり、ほかのNFTと交換できないため、デジタルアセットやコンテンツの真正性や所有権を確立することが可能だ。また、NFTはブロックチェーン(詳細は後述)上に格納され、分散台帳によって所有権の透明性や不正の防止を実現する。したがって、所有者情報などの改ざんは困難だ。

さらにNFTはプログラマビリティを有しており、さまざまな情報や機能を追加できる点も特徴といえます。 なお、NFTを活用するおもなメリットは、以下の通りです。

1-3:NFTが注目されている背景
NFTが注目されている背景には、以下のような理由が挙げられる。 近年、暗号資産の普及により、NFTも注目を集めるようになった。NFTは、ブロックチェーン技術を利用して発行されるトークンにより、デジタルアセットを所有することが可能だ。また一部の自治体では、NFT保有者が参加できるDAO(分散型自律組織)を運営しており、特定の管理者が不在でも、事業やプロジェクトが推進できる組織体制が構築されている。この組織形態は、ブロックチェーン技術を用いて運営されるため、基本的に国籍、年齢、学歴などは関係なく、誰でも平等に参加できる点が特徴だ。

2:NFTを実現する仕組み・技術

NFTの代替不可能性という特徴は、各NFTはユニークであり、まったく同じものが存在しないことを意味する。NFTを実現するための技術でメインとなるものがブロックチェーンだ。ここでは、ブロックチェーンの概要と種類、歴史、最新情報を紹介する。

2-1:ブロックチェーンの概要と種類
ブロックチェーンは、デジタルトランザクションを記録し、管理するための分散型台帳技術だ。複数の場所や国に存在するノード(コンピューター)によってデータの複製と共有が行われ、データは合意に基づいて同期される共有台帳として機能する。これにより、従来の中央集権的なデータベースに比べて、セキュアかつ透明なトランザクションを実現することが可能だ。 また、ブロックチェーンはハッシュ関数を活用して、取引情報や直前のブロックのデータをハッシュ値に変換し、それによってブロック内の取引情報を固定サイズのハッシュ値に変換したり、以前のブロックの改ざんを防いだりすることが可能である。 なお、ブロックチェーンは以下の3つの主要な種類に分けられる。 2-2:ブロックチェーンの歴史

ブロックチェーンのアイデアは、実は1991年から既に存在していた。ブロックチェーンが広く注目されるようになったのは、2008年にサトシ・ナカモト(正体不明の人物またはグループ)が、暗号通貨ビットコインを実現する手段として、ブロックチェーンの論文を発表したことがきっかけだ。 ブロックチェーンにより、ビットコインは非中央集権的で信頼性のある取引ネットワークを実現した。

その後、イーサリアムはブロックチェーンを拡張し、任意のプログラムを帳簿に載せる機能(スマートコントラクト)を実装。スマートコントラクトのプログラムをブロックチェーン上の帳簿に組み込むことで、銀行業務や役所業務、IoTまで幅広い分野でブロックチェーン技術が活用されるようになった。

2-3:ブロックチェーンの最新情報

近年、ブロックチェーンは世界中で活用され、依然注目を集めている。米国の議員らが、SECゲンスラー委員長に対して、現物ビットコインETFの承認を要請している。大手運用会社(例: ブラックロック)は、ビットコイン・マイニングへの投資を増加させているそうだ。

日本においても、東京ゲームショウ2023でCROOZ Blockchain Lab株式会社と株式会社gumiが、ブロックチェーンゲームについての合同記者発表会が開催した。またコンバースジャパンが、3Dアバターコレクション「MetaSamurai」とコラボした「ワンスター」50周年記念3DアバターNFTを販売予定だ。

さらに近年は、新興のブロックチェーンであるSolanaやAvalancheや、レイヤー2と呼ばれる技術も登場しはじめている状況である。次章で各技術について解説する。
※この記事が書かれたのは2023年10月。

3:ブロックチェーンを技術面で深掘り

ここでは、最新のブロックチェーンであるSalanaとAvalanche、レイヤー2について、技術面から深堀する。

3-1:Solana

Solana(ソラナ)は、2020年にローンチされたレイヤー1のブロックチェーンだ。高いスケーリング性能と、ユーザーフレンドリーなアプリケーションを提供する。

Solanaは1秒あたり50,000を超えるトランザクションを処理できる点が特徴だ。また独自のコンセンサスアルゴリズムである「プルーフオブヒストリー(PoH)」を採用しており、高いスケーリング性能も実現している。

さらにSolanaのトランザクション手数料は、ビットコインやイーサリアムに比べて非常に安価である。

3-2:Avalanche

Avalanche(アバランチ)は、高いスループットと低い遅延を提供するブロックチェーンプラットフォームだ。このオープンソース・プラットフォームは、高速でコスト効率の良いトランザクションを実現し、分散型アプリケーション(dApp)の構築に適している。

Avalancheは独自のコンセンサスアルゴリズムを採用しており、1秒間に最大で4,500のトランザクションを処理できる卓越したスケーリング能力が特徴だ。また、高い互換性を持ち、イーサリアムのdAppをAvalanche上で利用でき、さらにネットワーク内のサブネットを利用して独自のブロックチェーンを構築することが可能である。

Avalancheは一部で「イーサリアム・キラー」として注目を浴び、数多くのプロジェクトが開発を進めている。

3-3:レイヤー2

レイヤー2は、ブロックチェーンのスケーリング課題を解決するために開発された追加の層だ。レイヤー1ブロックチェーンからトランザクション処理を引き受け、アプリケーションの拡張性を向上させる役割を果たす。おもな特徴は以下の通りだ。

レイヤー2の技術は、ブロックチェーンのスケーリング課題に対する実用的なアプローチであり、エンドユーザーに高速なトランザクション処理と低い取引手数料を提供する期待が寄せられている。

4:NFT、ブロックチェーンの活用が進み生まれた新たな課題

NFTとブロックチェーンの活用に伴い、いくつかの新たな課題も浮上している状況だ。ここでは、おもな課題について解説する。

セキュリティ

NFTやブロックチェーンの活用が進む中、ハッキングによる被害も増加している。例えば2022年には、NFTゲーム運営者にハッキングが行われ、約750億円相当の仮想通貨が流出するという事件が発生した。また、ブロックチェーンの匿名性が失われることで、セキュリティ面での課題も浮き彫りになっている。 このような問題を防ぐためには、ブロックチェーン技術の専門家によるセキュリティ対策や、適切な暗号化技術の導入が必要だ。またユーザー側でも、強力なパスワードの設定や二段階認証の有効化などを行うことで、セキュリティを強化する必要がある。

環境への負荷

NFT取引はブロックチェーン上で行われるため、膨大な電力を消費する。特にイーサリアムネットワークでは、マイニング作業による電力消費が大きい点は課題だ。 環境への影響を軽減するために、エコフレンドリーなブロックチェーン技術やカーボンオフセットサービスが模索されている。

発行コスト(手数料・ガス代)

NFTの発行や取引には手数料(ガス代)が必要である。これはブロックチェーン上で処理を行うためにマイナーに支払われる報酬だ。 ガス代は取引量や処理速度に応じて変動し、NFTの購入や送信時に発生する。ガス代を安価にするためには、価格の安い時間帯を狙ったり、効率的なブロックチェーンを利用したりすることがポイントだ。

NFTの将来性

NFTの将来性は、以下のような理由から非常に有望といわれている。

NFTは著作権や会員権、不動産の所得権証明など、多くの分野で活用が見込まれている。また、アートや音楽などのアーティスティックな分野でも広がりを見せている状況だ。

NFTが将来、異なるプラットフォーム間での移動が可能になることで、新たな市場が生まれ、ネット業界がさらに活性化すると考えられている。今後、NFTには実用的な機能が実装されていく見込みで、社会・経済のさまざまなシーンにおける利用が拡大し、それに伴い市場も回復・安定化する公算が高いだろう。さらに、近年のNFT市場拡大を受けて、投機性の高さにおいても注目が集まっている。

5:まとめ

NFTは、ブロックチェーン技術を利用して、デジタルアセットの所有権を証明するためのトークンだ。NFTはユニークであるため、1つとして同じものが存在しないことを意味する。NFTは、おもにイーサリアムと呼ばれるブロックチェーン上で作られている。イーサリアムはスマートコントラクトというプログラムを使って、NFTの作成ややりとりを簡単にする点が特徴だ。

NFTやブロックチェーンには依然として課題やリスクが存在するのは事実である。しかし本記事で述べた通り、それらの課題を解決するために世界中で新たな技術が生まれ、その進化のスピードは加速度的に進んでいる。

そのため、NFTを効率よく活用するためには、一定のリテラシーと最新情報のキャッチアップが重要といえるだろう。(無論最新技術における法的リスクの確認も必要である。)

本記事をきっかけにNFT、およびブロックチェーン技術への理解が深まれば幸いだ。

手数料無料化への道のり

1987年(昭和62年)9月、野村証券は連結ベースで5,409億円の経常利益を上げ、トヨタ自動車をおさえて日本一の高収益企業となりました。(注:当時の証券会社の多くが9月決算を採用しておりました。)

野村證券百年史には1987年9月期の収益動向、特に株式関連業務については次のように記されております。

株式流通市場は、公定歩合の引下げや景気の回復等を背景に、国内機関投資家の投資が活発となった。1987年2月には日本電信電話(NTT)株式が東証に上場され、4月には東証第一部の時価総額がニューヨーク証券取引所(NYSE)の時価総額を抜く場面も見られた。日経平均株価も1987年9月には過去最高値となる2万6,118円を記録した。こうした株式運用のニーズが一段と高まる中で、当社は株式投資情報提供体制の充実やトレーディング体制の一層の整備に努めて、対応を図った。その結果、株式委託手数料収入は前期を大きく上回った。

当時は私も東京勤務であったため、テレビ番組で野村証券の営業現場にカメラが入ったり、研修中の新入社員に密着したりする番組を目撃してその注目度を肌で感じておりました。 NTTブームやバブル経済の狂騒といった背景もあり、証券各社は軒並み高収益を記録、並み居る製造業を凌駕して我が世の春を謳歌しておりましたが、出る杭は打たれるとばかりに、儲け過ぎ批判も広く展開されることとなりました。

では、なぜこの時期の証券会社は歴史的な高収益を上げることが出来たのでしょうか? その理由の一端に、当時の証券会社は大蔵大臣による免許制で、株式委託手数料も細かく規定された、1%程度の固定制であったことがあげられます。 証券業界内部でさえ、生活物資を扱う商社が証券会社並みの手数料を徴収したら社会問題になるのでは?との声までありました。 一方、海外の市場をみると、米国では1975年にニューヨーク証券取引所の株式手数料が(実施が5月1日だったためメーデーと呼ばれます。)、英国でも1986年には手数料自由化(ビッグバン)が断行されておりました。 そのため、日本でも株式委託手数料の自由化があるべき将来像として意識されており、実務的な議論も業界と監督官庁である大蔵省の間で始まっておりました。 しかしながら、日経平均株価が1989年(平成元年)12月29日の大納会に最高値38,915円87銭をつけたのをピークとして、市場は暴落に転じ、湾岸危機、原油価格高騰、公定歩合の急激な引き上げなどにより、1990年(平成2年)10月1日には一時20,000円割れと、9か月あまりの間に半値近い水準にまで暴落し、証券界は長い、長い冬の時代に入ります。 そんな不安の中で、主たる収益源のブローカー収入に大きな影響が出る手数料自由化は、証券界にとり死活問題でしたが、公正取引委員会を中心にカルテルではないかとの批判もあり、次第に株式委託手数料の自由化致し方なしとされて行きます。 ただ、自由化は避けられないものの、悪化する一方の経営環境もあり、「可能な限りゆっくりと」というのが証券界の本音であり、結果として「段階的な株式委託手数料の自由化」という道を進むことになります。 その結果、1994年(平成6年)4月には1銘柄の売買代金が10億円を超える部分につき、ついで98年4月には売買代金5,000万円超の取引につき株式委託手数料の自由化が断行されます。 1996年(平成8年)6月14日付で東証正会員協会から発表された「株式委託手数料自由化問題について」 という報告には業界の苦悩が滲み出ております。

  1. 証券会社経営に与える影響
    (1)証券会社の収益に与える影響
    証券会社は大幅な収益減となり、特に小規模会社に大きな影響が生じるものと予想され、多くの証券会社が経営困難に陥る恐れがある
    (2)業務展開に与える影響
    多様な業務への展開を早急に探らなければならないが、多くの証券会社が不利な競争を強いられ、証券市場の寡占化が進む恐れがある
  2. 投資家に与える影響
    (1)機関投資家に与える影響
    機関投資家は日本株の海外取引を増加させる可能性もある。
    (2) 個人投資家に与える影響
    個人投資家にフルサービスを行う場合は、相応の手数料引上げを行わざるを得ない。

この報告では、上記のような、おっかなびっくりの業界の懸念に加え、ディーリング等の多様な業務の規制緩和、有価証券取引税の即時撤廃等の要望を併記しておりました。

最終的に、橋本龍太郎内閣が提唱した金融制度改革(日本版ビッグバン)により、銀行・証券・保険間の相互参入の促進、投資信託の銀行窓口販売の解禁、株式売買手数料の自由化、取引所集中義務の撤廃、持ち株会社制度の導入、連結決算制度の本格導入などが98年12月1日施行の金融システム改革法によって実施され、ここに全面的な株式委託手数料の引下げ競争が開始されたのです。 ちょうどその時機に、対面や電話での取引が主流であった証券営業の世界に、インターネットという通信革命によって、人件費や間接費の大幅削減も可能な新しい株式販売経路として、オンライン証券が出現し、一気に普及することになります。 手数料を低く抑えることにより口座獲得を狙い、ある程度の口座獲得が出来たら、さらに手数料を引き下げる、この循環がビジネス・モデルとして成立するならば、その究極の形態は「手数料セロ」のビジネスでしょう。 米国では2013年設立のロビンフッド・マーケッツが手数料無料の株式売買サービスを開始して、ミレニアル世代(18~36歳)中心に顧客を集めておりました。 さらに、オンライン証券大手チャールズ・シュワブが2019年10月インターネットを通じた株式、上場投資信託(ETF)、オプションの売買委託手数料を撤廃、同業他社も追随したことにより、米国は一気にゼロ手数料時代に突入しました。 その競争に耐えきれなかったTDアメリトレードはチャールズ・シュワブに、Eトレードはモルガン・スタンレーに、各々買収され大きな業界再編成が進行しました。

日本でも米国のケースのように、ネット経由の注文に課す手数料をゼロと想定しても、信用取引の融資金利や証券の品貸料で収益を上げられるという議論もありましたが、そのためには、やはり厚い顧客基盤は必要であり、競争は熾烈を極めるであろうと予想出来ました。 2023年、SBI証券が満を持して、さらに楽天証券が追従して10月からの手数料完全無料化を宣言し、この分野での競争に火蓋が切られました。 そのきっかけとなりましたのは、岸田政権の掲げる資産所得倍増プランと、国民に提供されたNISA/新NISAという投資家優遇プランでしょう。 かつてのマル優とは異なり、最初に選んだ金融機関が固定化しがちなNISAでは、どんなことをしてでも顧客の囲い込みを図るという経営戦略は合理的なものです。 SBI証券は総合金融機関として多様な金融ビジネスの積み上げ、楽天証券は楽天経済圏の構築という目標はいささか異なるものの、目の前の顧客争奪戦はオンライン証券の業界再編の始まりでもあります。 マネックス証券はNTTドコモの子会社として、auカブドットコム証券は大株主のKDDIと連携して、大手でも大和証券が若年層をターゲットに大和コネクト証券を設立して、各々スマホ経由の注文を獲得しようとしており、この動きも日本型の業界再編といっても過言ではないでしょう。 また、SBI証券や楽天証券にしても、連携を深める地方銀行や独立系の金融アドヴァイザーを使い、対面営業にも商機を見出し、提供する金融サービスの多様化を図ろうとしております。

一方、投資家の立場に立ってみると、投資判断に資する情報提供や投資機会の助言が豊富で、投資収益に見合う手数料であるならば合理的であるとの考え方や、人間関係、取引の利便性も考慮して、現在でも一部の中堅証券ではそれなりの手数料を徴収しております。 しかしながら、岸田政権の掲げる資産所得倍増を目指す機運の中では、なかなかに困難な道ではないでしょうか?

特に「長期的な資産形成」への早道が手数料というコストの削減と、利益や配当に対する節税とするならば、一時的な市場情報よりも、そこに至るプロセスへの助言が求められるのではないでしょうか? また、大手証券が指向する富裕層ビジネスも、やはり一時的な市場情報ではなく、資産保全や、事業承継の助言が求められ、手数料ビジネスとは異なるものが求められるのではないでしょうか?

多様化する金融ビジネスの中で、ブローカー業務自体の収益比率が著しく低減する可能性もあります。 さらには、長く証券会社の収入基盤であったブローカー業務自体の存続も問われる時代となり、オーバーブローカー論どころか、ブローカー専業証券の不要論も出て来るかもしれません。

[参考文献]
野村證券百年史
実録 バブル金融史/恩田饒(著)河出書房新社

[2023.11 ]

[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。


マネーロンダリング規制の現状

手口が複雑化・高度化している、マネーロンダリング。規制の強化と並行して、金融機関に対してもより一層の対策や体制整備が求められるようになった。とくに暗号資産業界においては、2023年6月から「トラベルルール」と呼ばれる新しい制度が施行されており、それに伴い各事業者で対応が実施されている。

しかし、日本はFATF(ファトフ)によって「重点フォローアップ国」に認定されているため、今後もマネロンに対してはさらなる対策が必要だ。 そこで本記事では、日本におけるマネロン対策の現状や、2025年に予定されているFATF第5次審査に向けた展望などを解説していく。

1:マネロン日本の状況

他人名義の口座への入金や盗品の売却などを通して、犯罪や不当な取引で得た資金を出所がわからないようにする行為を「マネーロンダリング」と呼ぶ。マネーロンダリングの蔓延は犯罪行為やテロ行為の助長につながるため、国際的に対策の重要性が高まっている。

このマネーロンダリングにおいて中心的な役割を果たすのが「FATF(ファトフ)」だ。FATF は、1989年のアルシュ・サミット経済宣言を受けて設立されたマネーロンダリング対策の国際的な枠組みで、37か国・地域と2地域機関が加盟している。

FATFではマネーロンダリング対策の実効性を世界全体で確保するために、加盟国に対して定期的に法令整備とその有効性に関する審査を行なっている。

審査の評価によって、加盟国は通常フォローアップ国・重点フォローアップ国・監視対象国(グレイ・リスト)の3つに分類されることになるのだが、2021年8月に公表された第4次対日相互審査の結果において、日本は先進国としては不合格を意味する「重点フォローアップ国」として認定されてしまった。

FATF第4次対日相互審査では、従来の40項目の「技術的コンプライアンス審査」に加えて、新たに11項目の「有効性審査」が追加されている。日本は前回審査と比べれば未整備項目は着実に改善されているとの評価を受けており、他の主要国と比較してもさほど見劣りすることはない。

しかし、今回の審査結果において問題視されたのは、新たに追加された有効性審査の項目で非常に厳しい指摘を受けた点だ。「金融機関・DNFBPs(特定非金融業者および職業専門家)の予防措置」や「テロリストの資産凍結」など、11項目のうち8項目が合格水準に達していないと判断された。そこでは、メガバンクにおける取組に対しては一定の評価がされていたものの、地域金融機関や暗号資産業者における理解は限定的とされている。

今回の審査結果を受けて、日本は3年間にわたって指摘事項の改善状況を毎年報告することが義務付けられた。ここで注目したいのは、その指摘事項の中で「優先的に対応すべき事項」として挙げられた以下の項目だ。

これは、マネロン対策に関する金融機関等の実務全体の未整備を指摘されたことを意味している。FATF第4次対日相互審査の結果を受けて、金融機関は実効性のあるマネロン対策を求められるようになった。

2:FATF第4次審査前後に進められたこと

第4次FATF審査前後で、新たな法整備やガイドラインに基づく対応が進められている。

2-1:マネロン・テロ資金供与対策に関するガイドライン
2021年2月に「マネロン・テロ資金供与対策に関するガイドライン」が改正(策定は2018年2月)された。これは、金融庁が各金融機関におけるマネロン対策への取組をモニタリングする際の指針とすべく、策定されたものだ。今回の改正により各金融機関等において「対応が求められる事項」「対応が期待される事項」が明示されている。

より実効的な態勢整備を行うべく、2021年5月には、対応が求められる事項について「2024年3月まで」と完了期限が設けられた。

2-2:口座登録法/口座管理法

2021年5月に「口座登録法」と「口座管理法」が成立した。これにより、あくまでも任意ではあるものの、保有する複数の預貯金口座へマイナンバーを付番することもできるようになった。つまり、国や自治体によって預金口座の存在が容易に把握できるようになったのだ。制度が浸透していけば、隠し口座のような不透明な資金の流出先の存在は丸裸になる可能性がある。

2-3:トラベルルール

2022年12月の法改正、いわゆる「FATF勧告対応法案」の成立を受けて、2023年6月1日から暗号資産に関して「トラベルルール」と呼ばれる新しい規制が導入された。

トラベルルールとは「利用者の依頼を受けて暗号資産の送付を行う暗号資産交換業者は、送付依頼人と受取人に関する一定の事項を、送付先となる受取人側の暗号資産交換業者に通知しなければならない」というルールのこと。このルールによって、テロリストや犯罪者が、電子的な資金移転システムを自由に利用することを防ぎ、さらに不正利用があった場合には追跡することが可能となる。

3:第5次対日相互審査に関して

2025年からは、順次FATF第5次対日相互審査がスタートすることが、金融庁によって公表された。

第5次審査では、方向性や審査方針など枠組みが変更される可能性もある。たとえば、改善のためのより強力でより的を絞った推奨事項(KRA)を提示し、審査結果公表の3年後に改めて対応状況を評価した結果、改善が進んでいない場合には改善対応を政府に約束させるといった仕組みの導入が予定されているようだ。

また、第4次審査で厳しい評価を受けた有効性審査の項目では、金融セクターと非金融ビジネスおよび専門職を別々に評価する形態に変更される等、業態別にマネロン対策の効性が評価されるものと考えられている。

重点フォローアップ国・監視対象国の評価基準も厳しくなるようだ。第4次審査においては「法令等整備状況の未達成項目数8項目以上、または有効性評価の未達成項目数7項目以上」が重点フォローアップ国入りする基準となっていた。しかし、第5次審査では「法令等整備状況の未達成項目数が5項目以上、または有効性評価の未達成項目数が6項目以上」と、ハードルが高くなっている。とくに法令等整備状況については基準がかなり厳しくなるため、有効性審査を重視する傾向に拍車がかかっていくといえるだろう。

仮に審査基準が変更となることに加え、現状からさほど改善が見られない場合でも、日本がグレイリストに入る可能性は低いと予測されている。しかしその場合、通常フォローアップ国への道のりはより遠くなってしまうだろう。

4:今後の展望

金融機関は「マネーロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づいて、2024年3月までに対応が求められる事項を全てクリアしないといけない。

しかし、2023年6月に金融庁が発表した「マネーロンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」によると、3メガバンクではマネーロンダリングへの対応が概ね順調に進んでいるものの、地方銀行や暗号資産業者などにおいては一部で取り組みに遅れが生じている状況だ。

このような状況を踏まえて、金融庁によるターゲット検査も行われ始めており、2023年9月時点では約70件の地方銀行で検査が実施されている。多くの事業者にとって、マネーロンダリングへの対策が急務になっているといえるだろう。

しかし、金融機関によっては限られたコスト・人員で対応しなければならないケースもあるはずだ。加えて、高度化・巧妙化しているマネーロンダリングの手口に対応すべく、継続的に対策レベルを維持・向上させていく必要がある。そのためには、AIなどの最新技術の活用も含め、システム面での対応が不可欠だ。

証券系決裁について

証券決済

『客の金が入ったのを確認するまでが仕事だ!』

かの怪作劇画「ナニワ金融道」の中で聞かれそうなセリフですが、そうではありません。 1980年代末の東京で、四季報に国債と国際を二枚看板として紹介されていた某大手証券、その檜舞台である国際営業部に所属していた私が再三再四、上司から詰められていた言葉です。

ブローカーである私の立場からは、お客さまに頂いた日本株式の売買注文を本邦の株式市場に流し、売買が成立し、四日後(当時は三営業日後の決済でした)にキチンと代金を頂戴し、あるいは株式をお渡しする、傍からみると、これだけの単純な作業のはずです。 しかしながら、そこには多くの地雷が埋められていたのです。 外為業務自由化以前の時代でしたので、買い方のお客さまには決済用の円を調達していただく必要がありました。 手持ちの円を使う、手持ちの外貨を円に換える、円の借り入れを起こす、手持ちの円建て証券を売る等々、多くの選択肢がありました。 私たちの心配事は、お客様が入手した円が、お客様の東京・ロンドン・ニューヨーク・シンガポール・香港といった金融センターの何処の、どの金融機関にあり、きちんとした支払の指示が出されて、期日までに到着するか、という点にあり、関係者は細心の注意を怠りませんでした。 それでも送金遅延や送金ミスは多発したものです。 一方、商品である株式は決済システムの中で売り手の口座から買い手の口座へ移されることとなります。

このようなお金と証券の流れ、すなわち利害関係者、金融機関、市場、決済機構が構成する世界は、交通、通信、エネルギーに匹敵する巨大なインフラストラクチャーであり、大げさではなく、人類の共通財産なのです。 ただ、この決済機構に対する考え方には地域差があるようです。 アメリカには「参加するために支払う」(pay-to-play)と謂う言葉があります。 アメリカの殆どの銀行は無料で小切手帳を提供していますが、小切手を現金に換える際には手数料がかかることがあります。 「支払う」ための手数料を公然と課すのが普通になっているのも驚く事ではありません。 アメリカの規制当局、政治家、そして一般市民は、歴史的にこのことを快く受け入れてきました。 決済は多数あるビジネスチャンスのひとつとして扱われ、相応の値段がつけられてきたのです。

ヨーロッパでは対照的に「決済は公共事業が担う仕事で低価格あるいは無料で利用できる」と考える傾向があり、EUの規制当局は競争と低価格を促すために介入を繰り返してきました。

日本では従前、どちらかというと欧州型の姿勢でしたが、近年はアメリカ型に移行しつつあるという印象があります。 低金利政策が長引き、金融機関を取り巻く環境が大きく変化したことから、収益機会を多方面に求めざるを得なくなったという事情もがあるのでしょう。

日本の証券系決済

それでは日本における決済システムはどうなっているのでしょうか?

大きく資金決済系と証券決済系の二つに分けられますが、証券の多様さから後者がやや複雑です。 具体的には証券決済では、照合機関、清算機関、証券決済機関、等が介在することによる複雑さでしょう。 その中心で、主にカスタマー。サービスを提供する(株)証券保管振替機構は、そのグループ全体で照合、清算、決済を担う企業です。

証券保管振替機構、通称「ほふり」はそのホームページにおいて、その成り立ちと社会的使命を以下のように示しています。 証券保管振替機構は、「社債、株式等の振替に関する法律」(振替法)に基づく「振替機関」として内閣総理大臣・法務大臣から指定を受け、上場株式のほか、国債を除く公共債、社債、短期社債(いわゆる電子CP)、投資信託など、資本市場(証券市場)における多岐にわたる種類の電子化された有価証券(振替法の適用を受ける有価証券)の振替その他の総合的な証券決済インフラ業務(振替制度の運営等)を行っている我が国唯一の組織です。
当社の社会的な使命は、資本市場の重要な基盤である証券決済インフラとして、その公共的な役割の認識のもと、信頼性、利便性及び効率性の高いサービスを提供することによって、資本市場の機能向上に寄与し、社会の発展に貢献することにあります。その使命を果たすため、当社は、利用者(投資者(個人投資家、機関投資家等)、発行者(事業会社等)、市場仲介者等(証券会社、銀行、取引所、清算機関等)など)の視点に立った不断の改革に取り組んでいます。

同社は、証券会社等から預託された株券等の保管業務のほか、株主が株券等を売買した場合や担保に差し入れた場合に株券そのものの受け渡しをせず、機構や証券会社等に備えられた口座振替による権利処理を行っています。 ただ、その機能については一挙に成立したものではなく、1984年5月15日の振替法の公布、同年12月の財団法人証券保管振替機構発足から、91年10月9日の保管振替事業の一部開始(当初東証上場50銘柄を対象)、92年10月9日の保管振替事業の全面実施まで、関係者の合意形成を得ながらの大事業でした。

それでは、その機能について概略をみてみましょう。

証券取引所市場で株式の売買が成立した場合、購入者は売却者に代金を支払い、売却者は購入者に株式を手渡す必要があります。 これが有名観光地の朝市あたりで、観光客が農家の女性から大根を現金で購入するように、その場での決裁ができれば問題ありません。 しかしながら、膨大な取引が行われる株式市場でそんなことは不可能ですし、非効率極まりなく、さらには公正な価格形成に大きな影響が出ます。 従って、集中管理、集中決済は証券市場にとり、必須の条件なのです。 さて、売買が成立してから決済が行われるまでの流れは、売買、照合、清算、決済の各段階を経ることになります。 一般的に売買機能を担う主体は取引所、清算機能を担う主体を清算機関、決済機能を担う主体を決済機関と呼びます。 現在、清算機関は(株)日本証券クリアリング機構と(株)ほふりクリアリングの二社に加えて、金融商品市場の清算業務を担う(株)金融商品取引所があります。 基本的に顧客取引、カスタマー・サービスを担うのは(株)決済ほふりクリアリングです。同社は(株)証券保管振替機構の子会社です。

売買から決済までは同時には行われません。売買が行われてから決済は通常売買日を含めて3営業日目(T+2)に行われます。 先にも述べましたように、取引所で行われる大量の売買を1件ずつ当事者同士で決済を行うのは不可能です。 そこで、清算機関が株式等の売り方と買方との間で発生した債務を双方から引き受けるとともに、それに対応する債権を取得するという形で、当事者として間に入ります。 同一の決済日、同一証券会社、同一の銘柄の取引は、成立した値段に関係なく、売り買いの株数を相殺して差引き分の株数を計算し、清算機関との間で、株式等の受渡しを行います。 同様に、同一の決済日、同一証券会社の取引について、全ての売り代金と買い代金を相殺して差引きの金額を算出し、その代金の授受を清算機関との間で行います。 証券会社間の株式の受渡しは、証券会社の口座間の振替によって行われます。 具体的には、証券会社が(株)証券保管振替機構に口座を設け、決済を行う清算機関からの指図に基づいて、清算機関の口座と売方及び買方の証券会社の口座の間で、株式の振替が行われ、現金決済については日銀ネットを経由します。

株式電子化(ペーパーレス化)という変革

このような証券決済の世界で大きな変革の契機となったのが「株券電子化」でしょう。

株式の取引等が、より安全かつ迅速に行われることを目的として2004年6月に「株券電子化」(ペーパーレス化)に関する法律が公布されました。 この制度によって、2009年1月5日から、紙に印刷された、全国の各証券取引所に上場している株式会社の株券は無効とされました。

その後、下記の株主の権利は証券保管振替機構と証券会社などの金融機関の口座で電子的に管理されることとなりました。

よく話題にのぼる株主優待は法的には株主権ではなく企業の株主対策です。 この株券電子化には次のようなメリットがあると考えられます。

余談ですが、そのむかし、総会屋の企業恫喝の手口に「株券を焼くぞ!」というものがあったそうです。いったん焼かれてしまった株券の復権には、裁判所も含めた複雑な手続きが必要で、企業側としては結構なコスト負担になるから、十分な恐喝内容だったわけです。 また、故松方弘樹氏が主演された映画『暴力金脈』(1975年、東映)という作品、主人公は駆け出しの総会屋!彼が狭いアパートの万年床の下に数社の株券を後生大事に「保管」しており、毎朝その株券から数社を選んで発行会社に乗り込み協賛金をせびる姿が時代を感じさせます。

さて、実際に紙に刷られた株券が消滅して、電子化されることにより、決済の効率化が進み、決済期間などは先進国と足並みをそろえております。(国債は米国、英国等と同じT+1、株式も米国、欧州等と同じT+2)

今後の課題

日本の証券決済システムは、関係者の努力によりグローバルスタンダードに並ぶものとなっておりますが、デジタル化が進む情勢の中で、官民での解決が求められる課題もあります。 当然、リスクとコストの削減が実務面で進められるような取り組みである一方、資金洗浄:マネー・ロンダリングや、犯罪集団やテロ組織の排除も課題でしょう。 そのなかで新たな実務慣行の形成や、事務処理のスタンダード化が今後のキーワードと考えられます。

[参考文献]
決済インフラ入門/宿輪純一(著)東洋経済新報社
教養としての決済(The Pay Off)/ゴットフリート・レイブラント (著), ナターシャ・デ・テラン (著), 大久保 彩 (翻訳)

[ 2023.11 ]

[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。


メタバースの現在と未来

バーチャルな世界の中でさまざまな体験ができるメタバース。2022年頃からにわかに注目され、2023年現在においては、日本国内でも一部の企業が活用を始めている状況だ。

しかし「近年におけるメタバースの流行は一過性のもの」だという見解もある。そこで今回はメタバースの現在と未来というテーマで、近年のメタバースの状況と今後の予測、先駆者の言動や動向などを紹介する。

1:2022年急速に加熱したメタバース!2023年は限定的?

生成AIとは「ジェネレーティブAI(Generative AI)」とも呼ばれるAI(人工知能)の一種で、さまざまな新しいコンテンツを生み出す技術のことだ。

2022年に「メタバース」というワードが、一時バズワード化し様々なメディアで取り上げられた。しかし2023年段階では「メタバースは限定的」という意見があるのも事実だろう。そこで、今回はメタバースの概要と近況について解説する。

1-1:そもそもメタバースとは

メタバース(Metaverse)は、英語の「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」を合成した造語で、1992年に作家のニール・スティーブンソンによって発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ」で初めて生み出された言葉としても有名である。メタバースの定義は発展途上のため明確なものはまだないが、ここではデジタルな仮想世界で、ユーザーが仮想的なアバターを操作したり、他のユーザーと対話したりできるなど、現実とは異なる世界でさまざまな活動を行う空間とする。

メタバースは、エンターテインメントやビジネス、教育など、多くの領域で利用される可能性がある。そのため、ビックテックを中心にメタバースを実現するための仮想現実ヘッドセットや拡張現実デバイスを開発し、仮想空間内での体験を向上させる技術を進化させている状況だ。

メタバースは、現実世界の制約を超えて、ユーザーに新しい形でコミュニケーションやエンターテインメントを提供し、個人や企業にとって新たなビジネスチャンスを創出するといわれている。ただしプライバシーやセキュリティ、アクセシビリティ、倫理的な問題など、さまざまな課題や懸念事項も浮上しており、メタバースの発展に伴う課題にも注意しなくてはならない。

1-2:メタバースの近況

今後市場規模が2030年には78兆8,705億円まで拡大すると言われているメタバースですが、2021年頃におけるメタバースの普及度は、限定的な使い方で始まるとみずほ産業調査部のデータで報告されている。VRゴーグルを装着して、あたかも自分自身がその場にいる感覚になるような体験はまだできず、多くがインターネットの延長線上にある2Dのコンテンツにとどまっているのが現状だ。普及のイメージとしては「あくまでリアル世界のおまけであり、エンタメや一部ビジネスでも試行的に使われる世界」である。

しかしメタバースとの親和性が高いエンタメの領域では、ファンの満足度向上に向けて様々な取り組みが進められています。例えば、バンダイナムコエンターテインメントは「ガンダムメタバースプロジェクト」を開始している。世界中のガンダムファンが集まり、様々なコンテンツに触れる場所を提供するもので、バンダイナムコとファンが「共創」する未来を目指すプロジェクトだ。一方「ラブライブ!スクフェスシリーズ感謝祭2023 ~スクールアイドルフェスティバル ALL STARS メタバースライブ~」が開催され、観客がアバターで参加するメタバースライブも実施されている。

また、吉本興業は未来のエンターテインメントの発展のため、最先端のデジタルイノベーションとエンタメを融合させた、メタバース事業および、タレントアバター事業「FANY X(ファニーエックス)」をスタート。さらに吉本興業ホールディングスは、メタバース上にエンターテインメントの新劇場をオープンした。

しかし、その他の業界における活用状況はまだ限定的と言わざるを得ない。同調査によると、一般家庭に普及しはじめるのは、2030年頃だろうという予測である。

2:メタバース先駆者は何を見ているのか?

一部の有識者の中には、メタバース熱は下降傾向にあるとの意見も散見されるが、メタバースの先駆者と呼ばれる人々の反応はどうなのだろう。ここでは、メタバース先駆者と呼ばれる人々の動向や言動を紹介する。

2-1:マーク・ザッカーバーグ

マーク・ザッカーバーグ氏は、フェイスブックからメタ・プラットフォームズに社名変更するほど、メタバースに注力していることで知られている。同氏が掲げているのは、単体のサービスやアプリによる空間を開発して終わるものではなく、さらに壮大な未来予想図とのことだ。

同氏は、メタバースがコミュニケーションの形を変えると考えているそうだ。メタバース空間では「他の人がそこにいるという実感」がもたらされ、これまでのメッセージやメール、テレビ電話といったコミュニケーション手段を超えた新たな「インターネットの次の章」が開かれると述べている。

また同氏は、メタバースが新たな雇用を生み出すと予想。今後、メタバース上でクリエーターが増えると予想しており、何百万もの雇用を生み出すと予測している。

メタ社によるメタバースとは、近年のオンラインにおけるソーシャル体験をハイブリッド化したようなもので、ときにはVRヘッドセットなどを装着し、ときには3次元に拡張され、ときには現実世界に投影される。また、ユーザー同士が離れていても、一緒に没入感のある体験を共有できることや、物理的な世界では不可能だったことを体験できることを目指すそうだ。

「人と人がメタバースでつながる未来を信じています」という理念のもと、メタ社はメタバース関連のさまざまなサービスを開発している。

2-2:細田 守

細田守監督は、メタバースについて「抑圧から解放する場所」と考えているそうだ。 同氏はメタバースの登場により、現実の制約や一元的な価値観による抑制から解放され、公共性や公平性が担保された公正な社会が実現する可能性が広がることを期待している。これによって、個々の能力が十分に発揮され、多様な才能が活かされる新たなダイナミックな世界が築かれるであろうことを想像しているとのこと。

同氏はこれまで、インターネットやデジタルの世界と人間社会との関わりをテーマにしたアニメーション映画を製作してきた。

近年は『竜とそばかすの姫』を制作し「U(ユー)」と呼ばれる巨大な仮想世界を舞台に、そこで起こる出来事と現実世界とのリンクをポジティブなものとして描いたことが記憶に新しいところであろう。

2-3:加藤直人

クラスター株式会社の代表取締役CEOである加藤直人氏は、日本のメタバース界を牽引する著名な起業家だ。同氏は「コンピュータが描く3DCGで構成された世界の中で生活し、そこに住む人々とコミュニケーションし、デジタルな価値を売買する世界観がメタバース的だと捉えています」と語るように、メタバース上に新たなコミュニケーションが生まれ、生活スタイルが変わることを期待しているとのこと。

同氏はメタバースの本質をクリエイティビティと捉えている。メタバースにおける生活やコミュニケーション、デジタルな価値の売買などが行われる世界観をメタバース的だと考えているそうだ。

さらに、同氏は『cluster』と呼ばれる日本発のメタバースプラットフォームを創設している。同プラットフォームでは数万人が同時接続し、自分のアバターで友達と交流したり、「ワールド」と呼ばれるメタバース内の世界を投稿したりすることが可能だ。

2-4:バーチャル美少女ねむ

バーチャル美少女ねむは、自称・世界最古の個人系VTuberであり、メタバース文化エバンジェリストだ。彼女は2017年から美少女アイドルとして活動しており「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマにしている。

VTuberを始める方法を早くから公開し、その後のブームに貢献。また、2020年にはNHKのテレビ番組に出演し「バ美肉 (バーチャル美少女受肉)」の衝撃も記憶に新しいところだろう。

さらに、彼女は技術評論社から出版された書籍『メタバース進化論』が話題となり、メタバースについての解説を行っている。同著ではメタバースの新たな進化や、仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」について詳しく説明している。

バーチャル美少女ねむは、メタバースに非常に注目しており、その真の革命性を探求していることがわかる。彼女の活動は、人類とメタバースの未来に向けたオープンな議論を活性化させる一翼を担っているといえるだろう。

3:2050年メタバースの予測

では、今後メタバースはどのように発展していくのだろうか。まずはデバイスの普及に関して、過去に起きた類似の事象としてスマートフォンの普及過程を振り返りたい。

3-1:スマートフォンの広がりに見るメタバースの可能性

iPhoneが登場した2008年には「日本人はガラケーの文化があるので普及しない」という声もあった。しかしその後、わずか数年でiPhoneは一般層にも普及した。 2017年の総務省の調査によると2011年におけるスマートフォンの個人保有率は14.6%程度だったが、2016年の個人保有率は56.8%に上昇し、5年間で約4倍にまで普及している。また、2022年の世帯別の保有率の調査では、86.8%の世帯がスマートフォンを保有しているとの結果が出ており、いかにスマートフォンが生活に浸透しているかが分かる調査結果となっている。今まさにこれと同じ現象が、スマートグラスなどでも起こる可能性がある。これらの端末の普及により、メタバースの可能性が大きく広がることになるだろう。

3-2:2050年の予測

デバイスの普及とモバイル通信の進化により、メタバースの再現性は大幅に進化する。具体的には、デジタルとメタバースが同一化し、サイバー空間でリアルを再現できるようになる。

つまり、メタバースとリアルが共存する世界になり、人々は両方の世界を自由に使い分けるようになるだろう。モバイル通信は6G/7Gが普及し、超高速・超大容量・超低遅延のインフラが整備されるため、前途したメタバース先駆者が思い描く世界が現実のものとなっていることも想像できる。この世界においては一人の人間が二つの世界(リアルとバーチャル)を行き来し、双方で自分の理想とする姿を実現しているかもしれない。

4:なぜ人はメタバースに夢を見るのか?

2023年におけるメタバースは、限定的なものといえるかもしれない。しかし、メタバースで実現できる世界観や大きな市場性には、誰もが注目せざるを得ないポテンシャルを秘めている。

一方、近年はAIをはじめとするテクノロジーの進化も目覚ましい状況だ。2050年にメタバースで実現できる世界は、おそらく我々の予想をはるかに凌駕するものになるだろう。その世界では、テレワークという概念はなくなり、メタバース内で勤務するメタワークが普及していることも容易に想像できる。メタバースの普及はこれまでのリアルで築き上げられた価値観を大幅に塗り替えるかもしれません。

「私たちはなぜメタバースに夢を見るのか?」

その答えは先駆者たちの言葉に隠れているのではないでしょうか?メタバースは、インターネットの次の章であり、そこは公共性や公平性が担保された抑圧から解放する場所、そして新たな生活の場所など、これらの言葉からも分かるように無限の可能性があります。

もちろん、夢をみるだけでは終われません。しかし今、この夢を実現にするための技術が私たちの手の届くところまで来ているのではないでしょうか?

話題の生成AIとは?金融機関での活用事例や注意点を詳しく解説

質問に対する回答が手軽に得られる「ChatGPT」が注目されるようになって久しい。ChatGPT は、従来のAIと異なる特徴を持つ「生成AI」をベースにしたツールだ。しかし生成AIとはそもそもどのようなシステムなのか、正確に理解している人はさほど多くないだろう。

本記事では生成AIに関する基礎知識や、金融機関での活用方法などを詳しく解説する。

1:生成AIとは

生成AIとは「ジェネレーティブAI(Generative AI)」とも呼ばれるAI(人工知能)の一種で、さまざまな新しいコンテンツを生み出す技術のことだ。

今回の審査結果を受けて、日本は3年間にわたって指摘事項の改善状況を毎年報告することが義務付けられた。ここで注目したいのは、その指摘事項の中で「優先的に対応すべき事項」として挙げられた以下の項目だ。

●従来のAIとの違い

AIを実現するための技術として膨大な量のデータを学習し、予測・判断する「機械学習」がある。その学習法は「教師あり学習」、「教師なし学習」、「強化学習」、「深層学習」の大きく4つに分けられる。

「教師あり学習」とはその名の通り、大量のデータを教師に見立てて学習していく手法だ。この手法では人間が正解となる大量のデータを与え、特徴や傾向を学習させていくシステムになっている。

これに加え、AIの精度を向上させることに深く関与しているのがディープラーニング(深層学習)だ。ディープラーニングとは、人間の脳神経回路をモデル化した「ニューラルネットワーク」と呼ばれる仕組みを利用したもので、データの特徴をより深く多層的に自動で抽出する技術である。これによって従来の機械学習では難しかった複雑で扱いづらいデータでも、AI自身で解析し、処理できるようになった。

生成AIの特長はこれらの技術を駆使して、Web上に存在する大量の情報を学習している点にある。大量のデータを学習することによって、文章や画像、音楽など様々な領域で独自性の高いコンテンツを生み出せるようになった。これまで人間が手動で行なっていた作業を大幅に効率化したり、思いつかなかったアイデアを形にしたりすることも可能になっている。

さらにChatGPTでは、より人に近い回答を行えるように「ファインチューニング」の技術が用いられている。ファインチューニングとは、すでに学習したモデルに新たな層を追加し、モデル全体を再学習する技術だ。個人やそれぞれの企業が持つデータを使用して追加学習ができるようになったことで、ChatGPTを自分たちの特定の用途に合わせて調整できるようになった。

●注目されるようになった背景

生成AIが画期的であったのは、0から1を「生み出す」点である。従来のAIは人間が決めたルールや学習済みのデータの中から回答を「予測する」するものだ。しかしAI自身が自ら学習し人間が与えていないデータさえもインプットすることで、生成AIはまったく新しいアウトプットを生み出すことができるようになった。これにより、より創造的な作業も自動化できるようになったのである。

また、出力結果の精度や生成スピードが大幅に向上し、質問に対する回答や文章表現の自然さなどの精度が、ビジネスシーンで問題なく利用できる程度にまで向上したことも生成AIが注目されるようになった理由の一つといえるだろう。

さらに、無料生成AIサービスが登場し、以前よりも生成AIが身近な存在になったことで一般的な認知度も高まっている。文章生成AIの「ChatGPT」や画像生成AI「Stable Diffusion」、動画生成AI「Gen-2」などさまざまなサービスがリリースされており、凄まじい勢いでユーザー数を増やしている。

●生成AIの種類

生成AIは、さまざまな種類のクリエイティブな成果物を生み出せるのが特徴だ。各ツールに対応した形式でデータを入力することで、オリジナルの成果物を生み出せる仕組みとなっている。 たとえば文章生成AIでは、AIに行動を促す「プロンプト」と呼ばれる文章を入力することで、適切な回答や文章を得られる。画像生成AIや動画生成AIなら、文章で指示したイメージに近い画像や動画を作成できる。文字起こしAIであれば、音声ファイルを入力すると、テキストデータが出力されるといった具合だ。

2:金融機関における生成AIの活用方法・事例

生成AIはその汎用性の高さから、さまざまな企業で導入が検討されている。帝国データバンクの調査によると、生成AIの活用を検討している企業は6割以上存在するようだ。

金融機関も例外ではなく、すでに国内外のいくつかの金融機関では活用が期待されている。実用化が進めば、各業務において大幅に作業工数やコストを減らせるようになるだろう。

●顧客対応

カスタマーサポートの分野では、チャットボットによって回答案を提示する際に生成AIが大いに役立つだろう。パターン化された業務の効率化は、生成AIが得意とするジャンルでもある。24時間365日、クオリティの高いサービスを顧客に提供できるようになるはずだ。

●事務処理

与信審査やKYCなどにおいては、AIがすでに用いられているケースもある。しかし生成AIを活用することで、将来的に稟議書の作成や申し込みの支援など、これまで手動で行っていたプロセスを自動化できる可能性は少なくないはずだ。

文章の要約や翻訳、資料作成などの事務処理の分野において、生成AIはさまざまな場面での活用が期待できる。ノンコア業務はAIに任せ、人間ならではの業務に集中できれば、全体的な生産性向上が狙えるだろう。

実際に、日本の金融機関では銀行を中心に生成AIの導入が進んでいる。

三菱UFJフィナンシャル・グループでは、生成AIを行内の事務手続き照会や通達の添削など110を超える業務で導入することを決定した。本部の企画書や通達、稟議書やコールセンターのマニュアルなど、CD140万枚分に相当するデータを生成AIが参照する情報として取り込む予定となっている。

三井住友銀行では業務を支援するAI「SMBC-GPT」の整備に向けて、2023年4月から実証実験を開始している。京都銀行では地域金融機関として初めて「ChatGPT」の試行導入が決定された。

3:生成AIを活用する際の注意点

生成AIはビジネスシーンでの利用に大きな期待を寄せられている一方で、先ほどの帝国データバンクの調査結果にもあるように、既に業務で活用している企業は9.1%に留まる。活用にいたらない理由の一つに生成AI特有のリスクが挙げられる。

ここでは、生成AIを利用する場合、どのようなリスクがあるのか確認しておこう。

●ハルシネーションが起こる可能性がある

ハルシネーションとは、AIが幻覚を見ているかのように事実とは異なる情報を出力してしまう現象のことを指す。生成AIは「0から1を生み出す」機能があるといわれてはいるものの、大量のデータの学習を基盤として成り立っているシステムだ。つまり、学習するデータ内に偏りや誤った情報が含まれていると、誤った結果がアウトプットされることも珍しくない。 そもそも、正しい情報を出力することを目的として訓練されるわけではなく、ある単語に対し次に続く確率が高い単語を予測する言語モデルでは、文脈にあっていたとしても真実とは異なる情報を出力してしまう可能性もある。 ハルシネーションが発生した場合、生成AIから得られた情報を業務にそのまま活用してしまうと、誤った判断につながるリスクがあるだろう。また顧客向けのチャットボットにおいて誤った回答を出してしまった場合は、顧客からの信頼を損ねてしまうリスクがあるため注意したいところだ。

●情報漏洩のリスクがある

とくに金融機関が注意したいのが情報漏洩のリスクだ。生成AIに入力したデータの中に個人情報や機密情報が含まれている場合、その情報が生成AIの学習に利用されると第三者に機密情報が漏洩する恐れがある。 生成AIが保有する大量の顧客データや金融情報が、悪意のある第三者から意図的に抜き取られるリスクについても考えておかなければならないだろう。特殊なプロンプトを入力することで、個人情報や機密情報などを抜き取られる可能性も少なくない。

●説明責任を果たせないリスクもある

生成AIは膨大な情報を高速で処理するため「なぜその結果が出力されたのか」を説明することが難しいという問題がある。 ヒューマンエラーであれば、原因を分析し一定の対策を講じることが可能だ。しかし、生成AIの結果をもとに業務を進めた結果、顧客に損害を与えてしまった場合は、問題の解決はおろか、その原因を追求・説明すること自体が困難になるだろう。説明責任を果たせなければ、企業としての信頼低下を招く可能性がある。

4:金融機関で生成AIを上手く活用するためのポイントは?

金融機関で生成AIを適切な形で活用するためには、利用に関する「ガイドライン」を作成し、浸透させることが大切であろう。ガイドラインを策定することによって、生成AIの倫理的な利用と安全性が担保されるはずだ。

ガイドラインを作成する際は、生成AIを導入することによって生じるリスクの分析から始めることが重要だ。そのうえで、具体的な使用例や注意点などをプラクティスとしてまとめていきたい。ガイドライン策定後も、利用者のフィードバックに応じて随時見直すことも大切になってくるだろう。

なお、東京都ではすでに職員に向けて「文章生成AI利活用ガイドライン」を策定している。また、3メガバンクや生損保など金融大手が加入する「金融データ活用推進協会」では生成AIの活用に関する共通指針が年内にも示されるようだ。導入を検討している金融機関業は、これらの事例に注目しておくとよいかもしれない。

5:今後も金融機関では生成AIの活用シーンが増える可能性も

今後は金融機関、とくに資産運用の分野でAIが活用されることが期待されている。

ある国内証券会社では、投資リポートを生成AIに学習させ、投資対象として魅力的な銘柄を抽出する、といった試みも行われているようだ。正確性をどのように担保するのかといった問題もあり、現段階では実用化に至っていない。しかし、海外では一部金融機関で顧客のニーズに合わせて銘柄を選択するソフトウェア(いわゆるロボアドバイザーのようなサービス)の開発が進んでいるといった報道もあり、今後研究が進めば実用化される可能性は十分あるだろう。

6:まとめ

生成AIを活用することで人間がノンコア業務から解放され、自身のコア業務に集中できるようになる可能性がある。業務を進める上での強い味方になっていくことも十分想定されるだろう。

しかし、生成AIは最新技術であるため、一定のリスクが存在するのも事実だ。そのため、まずは影響の少ない部分から実験的に導入し、今後リスクがクリアになった際はより重要な業務でも利用できるよう、進めていくとよいだろう。