序 :磯野浪平氏の場合

長谷川町子による新聞連載漫画の金字塔 『サザエさん』・・・・戦後日本の中流家庭を象徴するような、磯野家という三世代が同居している七人家族の物語です。

登場人物の一人、磯野浪平は、物語の核となる磯野家の家長であり、典型的な昭和のサラリーマン。

経理部あたりの勤務を思わせる堅実さを備え、時間と規律を重んじる真面目一徹の姿勢は、あの時代の父親像そのものです。

浪平は54歳という設定、現代の感覚では、なお現役世代の中心に位置しますが、昭和21年:1946年の連載開始当時においては、“初老”に近い落ち着きを漂わせる、一家の大黒柱として受け止められていたのでしょう。

それでも威厳を保ちながら、婿のマスオさんとも対等に語り合う場面も多く、俳句・盆栽・囲碁を嗜む趣味人的な一面も持ち合わせ、酒席では陽気さも見せる、その人間味が物語に温かみを与えています。

厳しさと情味を併せ持つ浪平さんは、その後、どのような人生を歩んだのでしょうか?

■ 磯野家の家族構成
家長磯野浪平
フネ(専業主婦、穏やかに浪平を支える)
長女サザエ(結婚後も実家で同居)
婿マスオ(いわゆる“マスオさん”。会社員で温厚)
タラオ(マスオサザエ夫婦の一子、浪平、フネの孫)
長男カツオ(小学生、浪平に叱られる筆頭)
次女ワカメ(しっかり者の小学生)

Ⅰ :平均寿命と定年

内閣府が令和7年6月10日に公表した『令和7年版 高齢社会白書』に示された資料、「平均寿命の推移と将来設計」によりますと、日本人の平均寿命は、戦後一貫して伸長してきたことがわかります。


一方、就労に関しては高年齢者雇用安定法第8条により、従業員の定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上とすることが義務づけられています。

加えて、高年齢者雇用確保措置として、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する必要があります。(高年齢者雇用安定法第9条)

さらには、高年齢者雇用安定法の改正(平成25年4月1日施行)により、定年年齢を65歳以上70歳未満に定めている事業主又は継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主は以下のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります。

  1. 70歳まで定年年齢を引き上げ
  2. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入(他の事業主によるものを含む)
  3. 定年制を廃止
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    1. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
    2. 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

この結果、下記の厚生労働省の集計にあるように、60歳定年というラインは定着します。


戦後の日本企業においては、1960年代までは55歳定年が主流で、1990年代後半には60歳へ完全移行、2010年代以降では再雇用・継続雇用で65歳までの雇用確保が一般化し、一部では70歳まで就業機会を拡大しています。

1960年代において退職後の人生が10~15年だったものが、1990年年代には15~20年、直近では20年以上と、徐々に長くなっていることが分かります。

それでは、その後の人生にはどのような地平が開かれているのでしょうか。

Ⅱ :その後の人生

① キャリア「延長」型・・・・知識・人脈・肩書を最大限に活かす

明治の産業界の巨人、渋沢栄一は晩年、実務の第一線を離れながら、500社以上の企業設立や経営助言を行い、「日本資本主義の顧問役」として機能しました。

定年前に培った専門性や業界知識を、そのまま形を変えて活用することで、心理的なハードルも低い手堅い選択かもしれません。

【具体例】
  • 顧問・相談役
  • 社外取締役・監査役
  • 同業他社・関連会社への再就職
  • 業界団体・協会での役職
  • 大学・専門学校での非常勤講師

大手証券で管理職以上を経験した人に最も多いパターンであり、証券人の価値が最も高く売れるルートでもあります。

それは、上場基準・IR・ガバナンスといった業務に、精通していなくとも、なじみがあること、企業のCFO・IR責任者との人脈、説明責任や数字の言語化に慣れている点が挙げられます。

ただし、収入は現役時代の3~5割程度、仕事量は激減、責任は限定的、元○○証券という看板が消えると急速に需要が減るという世界でしょう。

② キャリア「縮小・再定義」型・・・・同じ分野だが、責任と負荷を軽減

江戸時代の隠居制度の変形のようなもので、家督を譲った後も、実務助言や調停役として影響力を保つ暮らしでしょうか。

同じ仕事内容ながら、フルタイムや管理職からは退いて、裁量のある働き方へ移行します。

【具体例】
  • 嘱託社員・契約社員
  • 週2〜3日の非常勤
  • フリーランス(技術顧問、翻訳、調査など)

収入は減りますが、精神的には安定してストレスフリー、定年後の“助走期間”としては望ましいものかもしれません。

ただし、給与は半分以下、元部下が上司になる、決裁権・裁量なし、というプライドを打ち砕かれるようなかもしれません。

それでも、安定収入を優先する、組織に属することが苦でない方には向いているでしょう。

ただし、身に着けた“マーケット感覚”は急速に陳腐化する、デジタル化・AI化についていけないと居場所がないということを肝に銘じておく必要があります。

また、この型での極点は、独立型:IFA・投資顧問ですが、一見、華やかに見えても成功者は少数でしょう。

定年前から自分の顧客を持ち、顧客から個人的な信頼を寄せられ、コンププラ意識が極めて高いという極めて高いハードルがあります。

また、SNS・集客ができないと不向きな傾向にあります。

③ 異分野挑戦型・・・・「好き」や「未練」を仕事にする

商人として隠居後、50代から測量を始め、日本地図を完成させた“四千万歩の男”こと伊能忠敬、このカテゴリーの先達です。

現役時代は時間的・社会的制約でできなかったことに挑戦しょうとする姿勢で、成功率は高くないものの、自身の満足度は高くなるように思えます。

【具体例】
  • 飲食店経営
  • 農業・地方移住
  • 作家・評論家・ユーチューバー
  • 観光ガイド・通訳

体力・資金・家族の理解が不可欠ですが、「趣味を仕事にして嫌いになる」例もあることから、実は満足度の判定は難しいものかもしれません。

それでも、数字感覚や損益分岐点への執着、キャッシュフロー管理など証券人として身に着けたスキルは強みでしょう。

それでも、自分はビジネスが分かっているという過信や、仕込み・接客・肉体労働といった現場仕事への耐性不足は否定できません。

④ 社会貢献・公共奉仕型・・・・「収入」より「意味」を重視

五千円札の肖像で知られる新渡戸稲造は、晩年、教育・国際協調活動に専念し、公のために生きる姿勢を体現した巨人でした。

収入よりも、社会との接点や役割意識を重視するパターン、どうも日本ではこの型が増加傾向のようです。

【具体例】
  • NPO・NGOスタッフ
  • 地方自治体の委員・参与
  • 学校の支援員、地域活動

生活費の心配がないような方々向けのようですが、競争や成果主義から距離を置きつつ、定年後の孤立防止や健康維持に効果アリかもしれません。

⑤ 仕事離脱型・・・・趣味・家庭・静かな生活

鎌倉時代に仕官先でキャリアを捨て、放浪と和歌に生き歌聖とも称された西行法師が理想形でしょうか。

修行僧のように、あえて「何者かであること」を捨てる、無為自然たる境地、実は精神的に最も難しいものではないでしょうか

【具体例】
  • 趣味(旅行、登山、音楽、囲碁)
  • 家庭・孫育て
  • 読書・執筆

定年後は年金+貯蓄で悠々自適(悠々自宅?)で趣味の会やサークル中心の生活ですが、社会的役割の喪失感、健康管理、人間関係と悩みは尽きません。

⑥ 遅咲き型・・・・第二の人生が本番

会社員生活を全うしたわけではりませんが、地方紙の記事が長かった藤沢周平や、銀行マン生活を経験し半沢直樹シリーズで成功を収めた池井戸潤、などがいらっしゃいます。

定年前は無名・平凡でも、定年後に本領を発揮し、大輪の花を咲かせる例も多々あります。

【具体例】
  • 作家、音楽家デビュー
  • 地域活動から政治家へ
  • 技術発明・研究成果

実は自身の経験を書く証券人は一定数存在されているような感がございます。

例えばバブル・ITバブル・リーマンショックを経験した回顧録等々、世間への警鐘や自分自身の人生整理を含め、書店にはこの手の書籍が散見され、何やら、むかしの商人・相場師が晩年に残す市井の知恵書のようにも見えます。

Ⅲ :ケーススタディ

ここでは、私自身と交錯したお二方をご紹介いたします。

● 黒木 亮氏のケース

黒木亮氏(くろき りょう、1957年 – )

北海道赤平市生まれ。

早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。

早稲田大学、競走部で箱根駅伝に2年連続出場、第55回大会(1979年)では、3区のランナーとして2区の瀬古利彦からトップで襷を受け取り、首位のまま4区へ繋いだ韋駄天です。

ランナーとしての半生は自伝的長編『冬の喝采』にほぼノンフィクションで綴られておりますケース

大学卒業後、都市銀行、証券会社、商社勤務に23年あまり勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス、貿易金融、航空機ファイナンスなどを手がけられました。

2000年10月に上梓した国際金融小説『トップ・レフト』で小説家としてデビュー、2003年に専業作家となり、1988年以来ロンドンに在住されております。

出張する際の長距離フライトの機内などで、国際金融の現場での出来事をノートに書き留め、作品の下敷きとされたそうで、作品中の細かなエピソードも現場仕込みで、ドキュメンタリータッチに仕上がっているとことが、元同業者として大いに感じ入るところです。

既に、経済小説の分野では大物として存在感を示されており、この分野での第一人者と言っても過言ではありません。

● 吾妻光良氏のケース

吾妻光良(あづま みつよし1956年 – )

東京都牛込柳町生まれ。

まず、吾妻氏自身が日本経済新聞 2019年6月28日附 朝刊 文化欄に寄稿した記事をご覧ください。

会社員バンド、勤続40年 これが人生の楽しみ方/吾妻光良

吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズを始めて40年になる。学生の頃に結成したリズム&ブルースのバンドだ。ソニーやビクターなどから8枚のアルバムを出しているが、いわゆるプロではない。12人の大半がサラリーマン。自分の仕事を抱えながら活動してきたアマチュアバンドだ。

私の担当はギターと歌だ。原点は1971年、ブルースの帝王B・B・キングの来日公演を見た夜に遡(さかのぼ)る。以来、本場のブルースのとりこになった。

早稲田大学に入学し、ロックサークルの部室でギターを弾いていたら、隣のジャズサークルの男が「うるせー」と怒鳴り込んできた。それが今のバンドのベーシストだ。

私はプロのバンドでギターを弾き、全国紙に大きく取り上げられた。4年の時「どこに就職するの」と母に聞かれ「この記事を見てよ。俺はプロになるんだ」と答えた。母は泣き崩れた。父は他界していた。「あと1年やらせてください」と頭を下げ、私は5年生になった。就職も決めた。

何人かプロになったが大半は途中でやめて定職を持った。脱サラして自営業に転じた者もいる。全員忙しかった。練習スタジオに集まったのは3人という日もあった。

転勤者には赴任期間中の代役を探してもらった。海外駐在になったメンバーもいたが、年に何度か帰国する日に合わせライブの日程を組んだ。

バンドは年々うまくなったかといえば、そうでもない。それぞれの仕事が最も忙しかった30~40代はむしろ下手だった。楽器に触れる暇もなかったからだ。近年はぐんと良くなった。還暦を過ぎ、個人の練習時間が増えたのかもしれない。

(あづま・みつよし=会社役員)

吾妻氏は、在京大手テレビ局の音響技術分野の幹部という本業を定年退職。そのサラリーマンとの決別が、同時にプロの音楽家宣言として、40年来の希望が叶うという、キャリア構築を為された方です。

他の中核メンバーも同じような状況であり、サラリーマンの゛第二の人生゛の在り方という点でも注目して良いのではないでしょうか。

結び :証券人の定年後・・・・三つの軸

証券人のリタイア後の人生は、三つの基準軸をめぐり展開されます。

  • 会社の看板なくとも通用するか
  • 相場と距離を置けるか
  • 競争なき生活を受け入れられるか

証券人は現役時代、常に評価され、順位づけされる人生を生きています。

定年後の幸福度は、評価されない時間を楽しめるかどうかで決まる、と言ってよいでしょう。

営業の重要ツールであった、ゴルフ、カラオケ、それも一流となればもちろん結構ですが、人生いろいろです。

市場から離脱しても、満員電車から降りても、宴席が無くとも、人生から退場するわけではありません。

第二の人生のピークは静かに始まります。

<参考>

[ 2026.02.28 ]

[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。




昨今の地域金融機関は、少子高齢化や人口減少、低金利環境の長期化に加え、急速なデジタル化への対応など、従来のビジネスモデルでは持続的な成長を描くことが困難な課題に直面しています。
こうした課題に対し、全社的なDX戦略の推進や地域と共創したデジタル施策を講じることは、地域の活性化と持続可能な成長を確立する鍵となります。
今回のBANKING FORUMでは、基調講演にて株式会社ひろぎんホールディングスよりDX戦略と社内DXにおける取組みについて、特別講演にて株式会社CCIグループよりコーポレート・トランスフォーメーションについて、具体的な事例とともにご紹介いただきます。
またODKソリューションズからは、マイナンバーカードを活用したDXについてご紹介いたします。本イベントがご参加の皆様にとって有益な場となれば幸いです。

開催概要

名 称持続可能な成長を支える銀行DX
開催日時2026年4月16日(木)14:00-18:15(受付開始 13:30)

※17:45以降は交流会となります

費 用無料
定 員100名(事前登録制)
参加対象 【メガバンク・地方銀行・地域金融機関等の金融機関にお勤めの以下の方々】
経営者・管理者クラスの方々
経営企画・営業企画・システム企画等の主要企画系セクションの方々
DX部門(システム企画、DX推進)、デジタル系部門(DX、デジタル推進)などの責任者および実務担当者の方々

※コンサルタント、シンクタンク、システム・ソリューション提供企業、事業会社の金融部門にお勤めの方は対象外となります

申込期限 2026年4月15日(水)13:00

※定員に達した場合上記よりも前にお申し込みフォームをクローズさせていただく場合がございます

会 場 東京都中央区日本橋兜町7-1 KABUTO ONE 4階
KABUTO ONE HALL & CONFERENCE
地図・アクセスはこちら
注意事項
  • 本セミナーは金融機関にお勤めの方(正社員)を対象としております。
    金融機関以外にお勤めの方よりお申し込みいただいた場合、ご参加いただけませんので予めご了承ください。
  • 本セミナーは対面型での開催です。オンラインでのご受講はできませんのでご注意ください。

弊社登壇内容 16:40-17:10

タイトル マイナンバーカードを起点とした事務フローのDX化
~2027年4月に迫る犯収法改正~

株式会社ODKソリューションズ
証券・金融ソリューション部
戸祭 陽菜
概 要 地方の人口減少が進む中、国をあげたDX施策として、マイナンバーカードの利活用を推進しております。一方で、犯収法に目を向けると、昨年12月の改正案にて、新たに対面でも本人確認書類のICチップの読み取りが必要となりました。そこで今回は、地方金融機関の活用事例を踏まえ、オンラインに限らない、対面での公的個人認証活用法もご紹介します。マイナンバーを起点とした業務フローのDX化の第一歩としてぜひご検討ください。
項 目
  1. 金融機関を取り巻く環境の変化
  2. 国のDX施策
  3. 犯収法改正の動向
  4. 公的個人認証(JPKI)とは
  5. マイナンバーカード活用による地方金融機関のDX化事例
詳細はこちらから  
お申込みはこちらから  

公的個人認証サービスご紹介ページ
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序 :我が国金融システムの改革 
平成8年(1996年)11月11日 
橋本総理(当時)指示

~2001年東京市場の再生に向けて~

1.目標~2001年にはNY、ロンドン並みの国際市場に

  1. 優れた金融システムは経済の基礎をなすものである。21世紀の高齢化社会において、我が国経済が活力を保っていくためには、国民の資産がより有利に運用される場が必要であるとともに、次代を担う成長産業への資金供給が重要。また、我が国として世界に相応の貢献を果たしていくためには、我が国から世界に、円滑な資金供給をしていくことが必要。このためには、1,200兆円もの我が国個人貯蓄を十二分に活用していくことが不可欠であり、経済の血液の流れを司る金融市場が、資源の最適配分というその本来果すべき役割をフルに果たしていくことが必要。
  2. 欧米の金融市場はこの10年間に大きく変貌し、これからもダイナミックに動こうとしている。我が国においても、21世紀を迎える5年後の2001年までに、不良債権処理を進めるとともに、我が国の金融市場がNY・ロンドン並みの国際金融市場となって再生することを目指す。これには、金融行政を市場原理を基軸とした透明なものに転換するだけでなく、市場自体の構造改革をなし遂げ、東京市場の活性化を図ることが必要。

2.構造改革への取り組み~2つの課題(「改革」と「不良債権処理」)

目標達成に向けて、市場の活力を甦らせるためには、市場の改革と金融機関の不良債権処理とを車の両輪として進めていく必要がある。

[具体的検討項目の例]
改革~3原則(Free、Fair、Global)
  1. Free
    (市場原理が働く自由な市場に)
    • 新しい活力の導入(銀行・証券・保険分野への参入促進)
    • 幅広いニーズに応える商品・サービス(長短分離などに基づく商品規制の撤廃、証券・銀行の取扱業務の拡大)
    • 多様なサービスと多様な対価(各種手数料の自由化)
    • 自由な内外取引(為銀主義の撤廃)
    • 1,200兆円の個人貯蓄の効率的運用(資産運用業務規制の見直しとディスクロージャーの充実・徹底)
  2. Fair
    (透明で信頼できる市場に)
    • 自己責任原則の確立のために十分な情報提供とルールの明確化(ディスクロージャーの充実・徹底)
    • ルール違反への処分の積極的発動
  3. Global
    (国際的で時代を先取りする市場に)
    • デリバティブなどの展開に対応した法制度の整備・会計制度の国際標準化
    • グローバルな監督協力体制の確立(G7サミット・蔵相会議等で確認)
【金融庁HPより抜粋、赤字ハイライトは筆者】

Ⅰ :危機感の共有 
・・・手数料自由化の中で

こうして始まった「金融ビッグバン」ですが、当時の証券界では、とりわけ「株式委託手数料の自由化」と「新規参入」が重大な課題として受け止められました。

それまでの日本の証券市場では、証券各社は日本証券業協会が定める固定的な株式売買手数料体系に基づき、横並びの価格設定で営業しておりました。

しかし、1999年10月1日、手数料が完全自由化されたことで、各社は価格やサービス内容を自由に設計できるようになり、ここに競争環境は一変します。

さらに、インターネット技術の急速な進展とも重なり、この自由化の波は、オンライン証券の台頭や個人投資家の市場参加拡大を後押しすることなります。

自由化以降、証券各社は熾烈な手数料競争に突入し、個人・機関投資家といった顧客別、あるいは対面・電話・ネット取引といったチャネル別のいずれにおいても、手数料水準は一貫して低下して行くことなります。

その結果、現在では株式売買手数料の「無料化」さえ、現実的な選択肢として議論されていることはご承知の通りです。

こうした環境変化の中で、証券各社は、固定手数料の時代には意識する必要のなかった「手数料の正当性」を改めて分析・検証することになります。

すなわち、自社が提供しているサービスを細分化し、その各々に、どの程度の価値があるのかを整理し、適正な手数料水準を模索する作業が始まりました。

当時、整理された主なサービス内容は、概ね以下の通りです。

  1. 売買執行サービス
    売買注文の市場への取り次ぎ、約定処理
  2. 市場インフラ利用・事務処理サービス
    取引所・清算・決済機構の利用料、受渡事務、名義書換、残高管理、売買システム・回線・セキュリティ維持コスト
  3. 情報提供サービス
    株価情報、板情報、企業分析レポート、市場コメント、投資戦略資料、アナリストレポート
  4. コンサルティング・人的サービス
    営業担当者による銘柄推奨、売買タイミングの助言、ポートフォリオ相談
  5. 信用・リスク管理関連サービス
    融資・貸株の手配、追証管理、建玉管理、リスクコントロール

手数料水準全体が低下する中で、証券各社は必然的に、チャネル別の手数料体系やラップ口座、さらには相続・事業承継・税務を視野に入れた助言など、新たな付加価値サービスを打ち出す方向へと舵を切ることになります。

一方で、最低限の売買機能のみを求め、情報提供や助言を不要とする投資家層が一定数存在したことは、オンライン証券が急速に拡大した大きな理由でもありました。

日本証券業協会が2025年12月に公表した「インターネット取引に関する調査結果(2025年9月末)」によれば、インターネット取引口座数は5,123万口座に達し、そのうち残高が1円以上ある有残高口座は3,246万口座、全体の63.4%を占めています。信用取引口座数も362万口座に上っています。

また、同協会が2025年7月に公表した「個人株主の動向について」では、2024年度末の個人株主数(名寄せ人数)は1,599万人とされており、多くの投資家が複数の証券口座を保有していることが推測されます。

さて、多くの産業構造転換期に共通するように、金融ビッグバンに直面した当時の証券界でも、「ネット証券が業界を席巻し、対面型証券会社は時代遅れとして、いずれ消滅する。」といった悲観的な見方が喧伝されたものです。

しかしながら、実際には対面型証券会社の店舗数や営業人員が急減するような事態は生じていません。

手数料は圧倒的に安く、情報はネットに溢れ、「人に勧められること」を嫌う若年世代も増える・・・・・・

これだけ不利な条件が揃っていたにもかかわらず、なぜ対面営業は生き残ったのでしょうか。

Ⅱ :どっこい生きている 
・・・対面営業の現在

現在においても、対面営業は一定の存在感を保っており、対面でのサポートを必要、あるいは希望する顧客層が存在することは疑いようがありません。

各種報道を総合すると、そのような顧客層は次のように整理できます。

  1. 初心者・投資経験の浅い顧客層
    専門的な助言や相談を求める層。特に新NISA制度導入以降に投資を始めた若年層
  2. 資産運用相談・長期投資設計を重視する顧客層
    単なる売買ではなく、ライフプランに沿った提案を求める層
  3. 富裕層・複雑な金融ニーズを持つ顧客層
    ウェルスマネジメント領域では対面ニーズが依然として強い
  4. 信頼・安心感を重視する顧客層
    手数料の多寡よりも、人間的な信頼関係を重視する投資家
  5. オンライン取引に内在するリスクを意識する顧客層
    セキュリティや誤発注リスクへの不安から、対面取引を選好する層

こうして見ると、対面営業は従来型の「売り買い」を受注する御用聞きからの脱却を強いられ、証券会社の経営戦略も大きな方向転換を遂げます。

もっとも、こうした変化が進む中でも、近年の人工知能(AI)の進化は、証券営業の在り方に新たな問いを突き付けています。

すなわち、前章で挙げた「3.情報提供サービス(株価情報、企業分析、投資戦略)」は、誰もが自宅のPCやスマートフォンで容易に入手できるようになり、「4.コンサルティング・人的サービス(銘柄推奨、売買タイミング助言、ポートフォリオ相談)」でさえ、AIが一定程度代替可能な時代に入りつつあります。

このような環境下で、証券人の営業スタイルは、今後どのように変わっていくのでしょうか。

Ⅲ :AI時代の「証券人」は 
・・・その未来は

私事ですが、証券業界に足を踏み入れたばかりの頃、顧客に損をさせてしまった際、先輩営業マンから「客もドキドキしたんだから、気にするな」と、妙な慰めを受けた記憶があります。

「長期産業資金調達の担い手」「国民の資産形成の防人」などと立派なお題目が並ぶ一方で、実態は公営ギャンブルにも似たエンターテインメント性を帯びていた時代でもありました。

投資家の側もまた、怪しさ半分の儲け話や市場の噂を証券人に求めていた側面があったのではないでしょうか。

それでもなお、「出来る営業ほど引き際を心得ている」という通説でも窺えるように、投資家が証券営業に求めてきた本質は、売買の巧拙ではありませんでした。

それは、自らの判断の前提を静かに整理し、思考の盲点を遠慮なく突き、さらには誰も口にしたがらない最悪のシナリオを共に想定する・・・・・・そうした“思考の壁打ち相手”であることだったのではないでしょうか。

その役割を果たせた者だけが、一時的に派手な成果を誇ることなく、長く顧客との関係を保ち、結果として商売を続けてこられたのでしょう。

現在、日本の株式市場では個人投資家の参加が着実に拡大し、新NISA制度の導入や株価上昇を背景に、「貯蓄から投資へ」の流れは現実のものとなりつつあります。

そんな環境の中で、個人投資家が本当に求めているものとは、一体、何なのでしょうか?

いわゆる「老後2,000万円問題」が、図らずもライフステージに基づく生涯投資計画に光を当てたことにより、個人投資家は「儲け話」を完全に否定しているわけではないものの、より合理的で安心志向の資産形成へと軸足を移しつつあります。

また、日本では配当や株主優待といった安定的なリターンに価値を見出す投資家も多く、市場の価格変動:ボラティリティに過度に振り回されず、心理的な安心感を重視する傾向も顕著になりつつあります。

結論として、現在の日本の個人投資家が求めているのは、単なる「儲け話」ではなく、計画性と安心感を伴った「資産形成の手段」としての株式投資ではないでしょうか。

また、富裕層においても、資産保全の観点から、安定的かつ信頼できる相談相手が身近に存在することの重要性は、これまで以上に高まっていると言えそうです。

そのようなサービスに対する対価は、先に述べた金融ビッグバン期の手数料分析においては、必ずしも手数料の中に明示的に組み込まれていたわけではありません。

従って、手数料のあり方も、従来の売買手数料中心の体系から、資産残高に連動するフィーベース型のように、今後、更なる転換が進むものと思われます。

さらに、高度な税務対策や相続戦略にとどまらず、子弟の教育や医療機関の紹介といった生活全般に関わるコンシェルジュ・サービスを担う存在となるのであれば、対面型の証券人のビジネスには、なお大きな将来性が開けていると言えるでしょう。

国内大手証券各社が対面営業の主眼として富裕層ビジネスや事業継承相談に注力している理由はここにあります。

結び :対面営業の醍醐味 
・・・おんりい・いえすたでい?

ある日、〇〇さんから「何かいい話はあるか」と声をかけられ、落ちそうで落ちない顧客のことを話した。「よし、一緒に行ってやろう」と2人で訪問した。菓子店の社長いわく「この銘柄の魅力はわかるが、今はカネがないからなあ」。これを聞いた〇〇さんん「社長、ないのはカネではなく度胸でしょう」「君、失礼なことを言うな!」と顔を真っ赤にした社長だったが、結局買い注文を入れてくれた。「伝説の営業マンはこんなセールスをするんだ」とぼうぜんとした覚えがある。

【日本経済新聞「私の履歴書」より、2020年1月11日附】

元日本証券業協会会長、鈴木茂晴氏の新人時代の一コマですが、本店営業部の上司〇〇さんと顧客訪問した折のエピソードです。

武勇伝のようなエピソードですが、それでも顧客の背中を押して投資に向かわせるという対面営業の醍醐味は感じられます。

AI時代の「証券人」も、対面営業として顧客と供に歩きながら、同じような醍醐味を味わうことができるのではないでしょうか。

<参考>

[ 2026.01.31 ]

[執筆者プロフィール]
一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。


松阪証券

導入事例インタビューVOL.2 「ODK公的個人認証サービス」

松阪証券 代表取締役社長 松江 茂 様

Q) 御社の特徴を教えてください

 当社は、地域密着型の証券会社として、個別の状況やご要望などを考慮した上で、お客様に寄り添い、一緒に伴走しながら投資などのお手伝いしていくということを大切にしております。
お客様からの受注なども、いわゆるウェブは使用せず、お客様と実際に顔を向き合わせるかもしくは電話でのきめ細かい対面営業型を基本とし、「お客様満足度ナンバーワン」の実現と「地域社会繁栄への貢献」を目指しております。

Q) ODK公的個人認証サービスご導入のきっかけは?

 金融仲介業者と業務委託契約を締結し、外国投資を販売していこうという新しい事業がきっかけとなりました。今まではこの地域に限定していたものを、東京などの地域でも販売をしていくということで、当社にとっては非常に規模の大きい話ではあります。我々が独自で影響を及ぼせる地域というのは、この三重県松阪を中心とした限られた範囲でしかないので、それをもっともっと広い範囲で販売していくという中で、遠隔地のお客様の手続きのご負担や利便性の向上と、バックオフィスの省力化が必要でした。
 当社は、基幹業務としてODKの証券総合システム「WITH-X」を使用しているため、公的個人認証もぜひ活用したいということになりました。こういったシステム事業戦略に付属してくるものに関しては、当然ODKさんでご用意いただけることが当社にとっても一番スムーズです。コスト面に加えてシステム連携面での相性みたいなものもあるでしょうし、そういう不安がないということですね。 これがやっぱり一番大きいと思います。

Q) ODK公的個人認証サービスを使い始めていかがですか?

 稼働してから日が浅いのでまだ数件なのですが、何しろ慣れていないものを使い始めたということで「今まで通りの方がいいんじゃないか」みたいな感想は出ます。 ただ、これは当たり前の話で、はじめは使い方を一つ一つ確認しながらやるわけですから慣れが必要でしょう。
 マイナンバーカードを持っていないという方も稀にいらっしゃると思いますし、さらに問題点があるとしたらパスワードですね。4桁の短いパスワードに加えて、 6~16桁の長いパスワードの方もちゃんとわかっている方でなければ公的個人認証を完了することができないので、そこがどのぐらいのウェイトで出てくるのかというのはちょっとやってみないとわからないですね。 しかし、今はこういう時代ですので、当社の既存のお客様や地域のお客様に関しても、マイナンバーカードの普及というのがかなりのスピードで進んでいるという現状もありますので、今後は積極的に展開をしていく方向で考えております。

Q) 今後のご要望などお聞かせください

  私どもは、お客様に金融のサービスを提供していくことに関して、決して気軽にウェブ化をしていこうとは考えておりません。 口座開設に関しては、現在もお客様に紙面での手続きをしていただいています。 これは対面の証券会社の中でも、一番後ろを歩んでいるというか、走っているような状態じゃないかなと思うのですが(笑)。
 しかし、今後はお客様にとっても利便性を上げるために、この部分はどんどんウェブ化していってもいいのだろうと思っています。 その第一歩が、今回の公的個人認証ということでもあったので、近い将来、口座開設の申し込みについても何とかウェブ化できないかと、 ODKさんにもそういう要望をお話をさせていただき始めております。
 これからも、いろいろな方法を探っていきたいなと思っておりますので、今後ともどうぞよろしくおねがいいたします。






目次

Ⅰ :犯収法における対面本人確認の見直し

2025年12月5日、「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」施行規則の改正案が公表され、特定事業者が行う対面での本人確認について、確認方法の見直しが進められています。

対面確認方法の見直しについては、デジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において以前から方向性が示されていましたが、今回の公示と意見募集開始をもって、いよいよ制度改正に向けた実務的な検討段階に移ることになります。


出典:デジタル社会の実現に向けた
重点計画 工程表

本記事では、改正案の要点を整理したうえで、実務に落とし込むにあたって確認しておきたいポイントを整理します。今後の対応検討の一助としていただければ幸いです。

Ⅱ :犯収法改正の要点

今回の改正案では、対面での本人確認について、外観確認だけでは判断しにくい偽造・改ざんや、真正な書類を用いたなりすまし等への備えを意識し、提示(目視確認)だけで完結しない手順への見直しが行われています。

具体的には、提示に加えてICチップ情報の読み取り等による確認を行い、また用いる本人確認書類の種類によっては住所への到達確認(転送不要郵便)も組み合わせることによって、本人性を補強する形となっています。

今回の改正対象となっている主な方式について、対面本人確認の手順がどのように変更されるか、以下具体的にご説明します。

1. 改正後イ方式:ICチップ情報の読み取りまで含めた手順に変更
従来のイ方式では、提示を受けた本人確認書類を目視で確認する運用が中心でしたが、改正後は、提示に加えてICチップ情報を読み取り、画面表示で確認することとなります。

本方式の対象となるのはICチップ付きの顔写真付き本人確認書類であり、マイナンバーカード・運転免許証・在留カード等がこれに該当します。

2. 改正後ロ方式:住所への到達確認(転送不要郵便)を組み合わせる場面が整理
改正後ロ方式では、対面での確認に加えて転送不要郵便を組み合わせることとなっています。具体的な手順については、本人確認書類の種類(ICチップの有無、顔写真の有無)に応じて以下のように整理されています。

3. 改正前のハ方式・ニ方式は削除
今回の改正により、従来ハ方式・ニ方式として利用されていた、本人確認書類を複数組み合わせて提示する方法や、提示に加えて別の本人確認書類等(補完書類やその写しを含む)の送付を受ける方法が廃止されます。

対面での本人確認は、書類の組み合わせで本人性を補う方法から、ICチップ情報の読み取り・転送不要郵便を軸にした確認へと整理されることとなります。

4. 改正後ヲ方式:非居住外国人における例外対応
上述の方法の実施が難しい非居住外国人等について、改正案では、写真付き本人確認書類の提示を受ける方法(改正前のイ方式と同等)が存置されており、これに伴ってヲ方式が新設されます。

なおこの方式は、特定事業者側において、当該顧客が非居住外国人であることを確認できることが前提とされています。例外的な取扱いが残る分、実務では「誰が、何を根拠に、いつ確認するか」を明確化しておくことが重要になります。

Ⅲ :要点を踏まえた実務上のポイント

ここまで、今回の法改正によって「何が変わるか」を解説してきました。

ではこうした要件を、日々の窓口・店舗等の手続に落とし込む場合、どこから考えると整理しやすいでしょうか。キーワードは複数ありますが、実務での検討は大きく「手順」「運用」「証跡」「例外」の四つに分けて捉えると、論点が散らばりにくくなります。

1. 手順:どこまで確認したら「本人確認完了」なのか
イ方式を中心に、対面本人確認は提示だけで終わらず、ICチップの読み取り等を含む手順として整理されます。ここで先に決めておきたいのは、読み取り等の作業手順そのものに加えて、「どの状態をもって本人確認が完了したと扱うか」です。

例えば、読み取った結果について何を確認するのか、券面と表示内容が一致しない場合にどのように扱うのか等、手順として明確にしておくと、担当者による判断の違いが出にくくなります。

2. 運用:現場で無理なく回すための「例外時の動き」を含めて整える
手順を決めても、現場では読み取りエラーや端末不調など、想定外の事象が起こり得ます。そこで、再試行の回数、別手順へ切り替える条件、顧客への説明の仕方などを、運用ルールとして揃えておくことが重要になります。こうした点をあらかじめ整理しておくと、対応のばらつきが抑えられ、窓口対応が安定しやすくなります。

また、ロ方式を用いる場合は、郵送工程も運用の一部として整えておく必要があります。取引関係文書を何にするか、送付のタイミングをどこに置くかに加え、返送(宛先不明・転居等)が出た場合に本人確認をどう扱うのか(再送するのか、別手順へ切り替えるのか等)を決めておくと、対応の一貫性を保ちやすくなります。

3. 証跡:後日説明できるよう、確認記録と添付資料の扱いを整理しておく
本人確認は、後日、説明が必要になる場面(監査・検査、問い合わせ対応等)を想定しておくことが大切です。そのため実務では、採用する本人確認方法に照らして、何を確認記録として残し、何を添付資料として扱うかを、社内の記録・保管のルールに沿って整理しておくことになります。保存期間やアクセス権限など、情報管理面の要件も併せて確認し、必要な範囲で無理のない形に整えることが、運用負担の抑制にもつながります。

4. 例外:例外運用は前提条件を具体化しておく
本改正では、非居住外国人等を対象に現行方法が一部存置される一方で、「事業者側で非居住外国人等であることを確認できること」が前提とも示されています。例外が残る場合、実務で必要になるのは、どの顧客が例外の対象になるのかを、誰が、どの資料を根拠に、どの時点で判断するのかを決めることです。判断根拠が曖昧だと、担当者によって対応が分かれやすくなります。対象判断の根拠、判断する人、判断するタイミング、判断結果の記録まで含めて手順化しておくと、運用の見通しが立てやすくなるでしょう。

Ⅳ :今後の対応スケジュールについて

本改正について、施行日は2027年4月1日が予定されています。

施行まで一定の期間がありますが、対面本人確認は窓口・店舗等の業務の進め方に影響します。準備が遅れると、手続に要する時間が延びたり、問い合わせが増えたりする可能性があるため、早めに手順を固めていくことが重要です。

まとめ

今回の改正案では、対面本人確認について、提示だけで完結させずにICチップ情報の読み取り等による確認(用いる本人確認書類によっては、転送不要郵便による住所への到達確認)まで求めることとしています。

今後の検討の中心は、法令要件を踏まえたうえで、「手順」「運用」「証跡」「例外」を無理のない形で実務に落とし込むことへ移っていきます。施行日までの期間を活用し、整理できるところから順に整えていくことが、負担を抑えた対応を進めるうえで重要になってくるでしょう。

[ 2025.12.29 ]


公的個人認証サービスご紹介ページ
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謹んで新春のお慶びを申し上げます。

皆様におかれましては新春を清々しい気持ちでお迎えのこととお慶び申し上げます。
旧年中は格別のご厚情を賜り、誠にありがとうございました。

昨年、弊社としては初の試みとなる、
FIT2025への出展ならびに対面によるセミナーの開催を行いました。
数多くのお客様にお越しいただきましたこと、厚く御礼申し上げます。
今後も継続的にソリューションサイトやセミナー等で皆様に有益な情報を
お届けできるよう努めて参ります。

本年も、これまで築き上げてきた実績を礎に一層の飛躍を図って参ります。
併せて、お客様から末永く信頼いただけるパートナーであり続けるため、
社員一同、誠心誠意努めて参りますので、
昨年同様にご高配を賜りますようお願い申し上げます。


株式会社ODKソリューションズ
証券・金融ソリューション部




目次
  • 序 振り返って、どんな一年だったか?
    1. 2025年の東京株式市場・・・何が起きていたのか
    2. 株価を支えたもの・・・2025年相場の背景
    3. 見えてきた課題・・・2026年を迎えるにあたり
  • 結び この株高は何を意味しているか?
  • 序 :振り返って、どんな一年だったか?

    それは最良の時代であり、最悪の時代でもあった
    それは知恵の時代であり、愚行の時代でもあった

    It was the best of times, it was the worst of times,
    it was the age of wisdom, it was the age of foolishness.

    チャール・ディケンズの名作『二都物語』の冒頭ですが、まるで本年の株式市場を描写したかのような一節でもあります。

    あまりに的確で、高尚な警句に、ぐうの音も出ませんが、懲りない兜町雀たちの腰折れは、あるいは次のような連句であったのかもしれません。

    忍び寄る 霧に震えつ 来たる年
    春深き 大波小波(おおなみこなみ)で おぼれつつ
    夏きたり 半導体と 円安で
    秋に舞う 五万超えの 高波よ
    年の瀬に ざわめく波頭(はとう) 荒れる海

    振り返れば、本年は、まさに波乱万丈の相場でした。

    4月7日に記録した年初来安値は31,136.58円、一方、年初来高値は、11月末までには、10月31日の52,411.34円であり、その値幅は実に21,274.76円にも達しました。

    しかも、4万円台、5万円台と、二度も節目を突破する展開となり、市場はまさしく“ジェットコースター相場”の様相を呈しました。

    では、実際に2025年は、どのような年であったのか、ここで改めて、その足跡を振り返ってみまししょう。

    Ⅰ :2025年の東京株式市場・・・何が起きていたのか


    【日経平均株価指数推移】
    【Bloomberg】

    日本経済新聞をはじめとする各種報道機関が発表した相場概況を、月次ごとにまとめると、下記のようになります。

    日経225の月次騰落率
    注:ハイライトは大台代わりの月

    1月:▲0.81%

    2月:▲6.11%

    3月:▲4.14%

    4月:+1.20%

    5月:+5.33%

    6月:+6.64%

    7月:+1.44%

    8月:+4.01%

    9月:+5.18%

    10月:+16.64%(月次で最大の上昇)

    11月:▲4.12%

    集約しますと、下記のような相場波乱要因が存在したのが本年の特徴でした。

    1. 海外要因
    米国トランプ大統領による高関税誘導発言等の“関税ショック”は4月の急落を引き起こし、その後の「先送り/緩和観測」で回復するという強い短期インパクトを与えました。

    そんなトランプ大統領の政治行動には、TACO=Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビッて逃げる)と揶揄する論調も出現し、その影響に一定のブレーキが掛かりました。

    2. 国内要因
    高市新首相誕生に関する一連の政治イベントは10月の急騰の決定的要因の一つとして市場で広く指摘されています。

    ただ、期待先行で相場が押し上げられため、今後の各種政策の実現度合いは、波乱要因になる可能性が残ります。

    3. 中期的要因
    4月の急落後は「貿易リスク後退観測」「AI・半導体などセクター期待」「為替動向(円安)」等の材料が交錯し、夏〜秋にかけて上昇基調が続きましたが、10月の「新政権への期待」による急騰後は調整圧力も強まりました。

    これらの要因は4万円台から5万円台へと、大台へ駆け上原動力になったようです。

    このように、簡単にまとめてみましたが、もう少し詳細に検討してみましょう。

    Ⅱ :株価を支えたもの・・・2025年相場の背景

    2025年、各種の媒体が報ずる今年の上昇要因を下記にまとめてみました。

    一方、グローバルな投資資金の動向はどうでしょう。

    ボストン・コンサルティング・グループ(以下、BCG)は、グローバルアセットマネジメント・レポートとして、資産運用市場と運用会社の動向についてまとめたレポートを毎年発行しております。

    本年5月29日、2024年版として「AI and the Next Wave of Transformation」を発表されましたので、例年通り、その動向を見てみましょう。

    【世界資産運用市場、BCG調査】

    2024年末の世界の運用資産残高は128兆ドルと推計されます(図表)。2023年(115兆ドル)から12%増となり、過去最高額を記録しました。

    日本における運用資産残高も12%増、5.9兆ドルでした。世界全体の新規流入資金は、年初の運用資産残高の3.7%と推計されます。

    運用資産残高が大幅に伸びた方、2024年における業界全体の成長率580億ドルのうち、70%以上が投資家からの資金流入ではなく市場パフォーマンスによってもたらされたと認識しています。

    年初からの世界的な株価上昇や、AI銘柄による熱狂ぶりを見ると、2025年も投資資金の市場への流入は続いているものと予想され、その結果、投資家のグローバルポートフォリオの中で日本株の位置も相対的に高まっているのではないでしょうか?

    Ⅲ :見えてきた課題・・・2026年を迎えるにあたり

    2025年の相場を支えた各種要因は、そのまま新年の課題ともなりそうです。

    ここでは、好材料/懸念材料に分けて整理してみましょう。

    2026年の相場動向を支える主な【好材料】
    • 企業業績の改善・上方修正
      主要企業の決算では、売上・利益ともに予想を上回る堅調な内容が目立ち、通期予想を上方修正する企業が増えています。大手証券各社も2026年度EPSの増加を見込む見方を強めています。
    • 生成AI・フィジカルAI関連テーマ株への期待
      生成AIやフィジカルAI関連への投資拡大や新技術の展開が、日本株市場へテーマとして注目され、相場を下支えする可能性があります。
    • 需給改善(ETF保有・株主還元強化)
      日銀によるETFの継続保有が、引き続き需給の引き締め要因となるほか、自社株買い・配当拡充などの株主還元の強化が投資家から好感されるでしょう。
    • 海外勢の再参入余地・バリュエーションの改善
      海外投資家の保有比率が低く、円安等の要因で割安感を維持していることから、資金流入が期待されます。
    • M&A・企業再編の活発化
      大型M&Aや企業再編が継続的に進展すれば、投資マインドを刺激する要因となり得ます。
    • 景気持ち直し・外部環境の支援
      米国景気の堅調さに加え、高市政権の景気浮揚策が効果を発揮すれば、日本株市場への追い風となる可能性があります
    2026年の相場を抑制・悪化させる主な【懸念材料】
    • 金利・金融政策リスク
      物価上昇などを背景に、日銀が利上げを急ぐ局面となれば、株式相場には逆風となる可能性があります。
    • 世界経済・米国株の調整リスク
      米国株が高値警戒感から調整入りした場合、日本株にも大きな影響が発生するでしょう。
    • 為替・円相場の変動リスク
      相場の急激な変動が、輸出企業の収益や投資家心理に悪影響を与えるリスクが残ります。
    • 地政学リスク・政策不透明感
      日米、米中、米欧の関係、ウクライナ情勢、米国の中間選挙、何を言い出すか分からないトランプ政権の動向、さらには高市政権による景気刺激策や減税、規制改革の行方など、先行き不透明な要因が、投資判断を慎重にさせる可能性があります。

    結び :この株高は何を意味しているのか

    さて、私見ではありますが、本年の株式市場の高騰は、日本市場が、ようやく国際水準にふさわしい姿へと生まれ変わる過程の一里塚ではないでしょうか。

    思い返すと、バブル期には60倍台に達するPERなど、歪んだ投資指標を正当化するために、業界総出でさまざまな屁理屈を捏ねたものでした。

    いわく「土地の含み益」、いわく「持ち合い効果」、いわく「もはや株価はPERでは測れない」等々・・・・・残念ながら、これらはいずれも虚構であったことを、今では歴史が証明しております。

    皮肉にも、株価が1989年12月29日の大天井である38,957.44円から、2008年のリーマン・ショック時の6,994.90円まで下落したことにより、割り算の「分子」が激減し、各種投資指標が国際水準へと収斂する結果となりました。

    無論、企業収益を高めて「分母」を増やすことが本筋でありましたが、社会・経済全体が疲弊するなか、その余裕はありませんでした。

    株主優待のような小手先の施策ではなく、NISAの活用や、より投資家本位の配当性向の引き上げ、自社株買いなどが上場企業において継続されるのであれば、近い将来、国際的な投資判断指標に基づいて、国民が株式市場と向き合える日が訪れるのではないでしょうか。

    その結果として、日経400あたりが穏当な長期投資の対象として定着し、「オルカンだ!」「S&Pだ!」と右往左往する投資家の耳目を集める日が来ることを、切に願っております。

    <参考>

    [ 2025.12.26 ]

    [執筆者プロフィール]
    一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。




    目次

    Ⅰ :Business Continuity Plan

    金融システムの安定性と維持は、国力や国際競争力であるばかりでなく、公共財としての重要性が認識されております。

    それ故に、市場関係者の間で、非常時対応の必要性が共有され、監督官庁も金融機関や市場に対し、いわゆる、BCP:Business Continuity Plan、事業継続計画の策定を指導しております。

    それは、自然災害、事故、テロなどの緊急事態が発生した際に、事業への損害を最小限に抑えつつ、中核事業の継続や早期復旧を可能にし、従業員や顧客の安全を確保し、市場や企業への信頼を維持・向上させるための必須条件でしょう。

    私は香港駐在中に、香港の監督機関や日本の金融庁のガイドラインを参考にしながら、BCPの策定とその演習に腐心したものです。

    その主要な項目はこのようにまとめられます。

    日本ではBCP策定に際し、最も想定される事態は地震ですが、香港では地震がほとんど無いこともあり*、台風や火災、9.11以降はテロ、といった事態を念頭に策定しました。

    Ⅱ :思いがけない発動

    香港現地法人でBCPが発令されたのは、21世紀の感染症として猛威を振るった、重症急性呼吸器症候群:SARS、通称サーズが契機となりました。

    2002年11月に広東省で発生した重症急性呼吸器症候群:SARSは、翌年2月に感染地の広州市から親族の祝宴にかけつけた医師により香港にもたらされたとされる。同医師の宿泊したホテルから感染者が続発し、そのうちの1人が入院したプリンス・オブ・ウェールズ病院で、医療関係者、入院患者、見舞客など100名以上の集団感染が発生した。さらに、その外来透析患者の1人が高層団地群の淘大花園(アモイガーデンズ)アパートE棟を訪れたことから、団地全体で感染者321名、死者42名の惨劇となった。6月23日に世界保健機構(WHO)が感染地から除外するまで、香港では1,755名が罹患し299名が死亡した。感染が終息するまでに、計4カ月を要した。

    【JETRO、地域分析・レポート『(中国・潮流)SARSを踏まえた香港の新型コロナウイルス対策』より】

    思いがけない事態でBCPが発動され、また、内外の人的往来が遮断され、孤立無援といったところでの業務継続は、なかなかスリリングな体験でした。

    欧米の金融機関では、サーズの流行以前に中国南部で謎の病気が蔓延しているとの情報から、いち早く家族を本国に返す措置をとりましたが、日系の金融機関はワンテンポ遅れていた記憶があります。

    欧米の金融機関が独自にWHOとの情報パイプを持っていたのか、あるいはアジアでの医療体制に不信を抱いていたのか、真相は不明です。

    遅ればせながら、家族を日本に返した日系企業の駐在員が、香港の繁華街で羽を伸ばす姿は、いささか悲哀に満ちたものでした。

    Ⅲ :阪神・淡路大震災と東日本大震災

    さて、私は阪神・淡路大震災と東日本大震災という、日本を揺るがした未曽有の大地震を、香港駐在中に目撃することになりました。

    無論、発生直後には出張中の従業員の安全確認、駐在員の家族の安否確認に集中しておりました。

    阪神・淡路大震災の折にはインターネット前夜の時代で、オフィスのQUICK端末を叩くたびに犠牲者の数が増えていく様子に慄然といたしました。

    若い金融人諸氏には、何のことか理解できないもしれませんが、株価やニュースのリアルタイム確認にはQUICK社の卓上端末が主流だった時代、その画面は自動更新されず、いちいちキーを叩いてアップデートする必要があったものです。

    東日本大震災では、それとは全く異なった光景が展開されました。

    BBC やNHKの衛星放送、さらにはネット映像は、地震で発生した津波に人や車がのみ込まれるさまが同時中継されるという凄惨なものでした。

    そんな状況の中、週明けには東京本社在勤であるはずの外国人スタッフが多数、香港に避難してくるという事態に現場は混乱します。

    それは本社におけるプロダクト毎のBCPがありながら、香港現地のBCPと事前すり合わせが充分でなかったことが混乱に拍車を掛けた原因でしょう。

    Ⅳ :巨大地震と金融市場

    さて、政府の発表している地震の長期予測*では、南海トラフ地震や首都直下地震の発生がかなり高い確率で予想されており、日本海溝や千島海溝で地震が発生した場合の影響などが報告されております。

    *地震調査研究推進本部の紹介
    平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の経験を活かし地震に関する調査研究の成果を社会に伝え、政府として一元的に推進するために設置された特別の機関です。

    【地震調査研究推進本部HPより】

    日本の地震予知研究の第一人者、長尾年恭 東海大学客員教授によると、関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災、能登半島地震が、近代日本における巨大地震と目されているようです。

    長尾 年恭(ながお としやす)

    • 1955年生まれ
    • 東京大学大学院理学系研究科修了・理学博士
    • 静岡県立大学および東海大学客員教授
    • 地震・火山に関する電磁現象国際WG委員長
    • 一般社団法人「日本地震予知学会」会長
    • 認定NPO法人「富士山測候所を活用する会」理事
    • 東海大学海洋研究所教授時代に、地震予知研究センター長、海洋研究所長、地球環境科学研究科長等を歴任
    • 専門は固体地球物理学。
    • 地震予知研究を通じた減災や、富士山噴火予知をライフワークとし、大学院在学中に第22次日本南極地域観測隊に参加、昭和基地で越冬した経験を持つ
    ≪Amazon 著者紹介より≫

    兜町の古老の記録では、1923年9月1日(土)に発生した関東大震災は、このように記憶されております。

    東京株式取引所の建物も全焼し、兜町一帯が焼野原となった中、10月27日から焼け跡の天幕内で株式の現物取引を開始しました。その後、株式市場は回復し、兜町はすっかり近代的な街並みに生まれ変わりました。

    【日本取引所グループHP株式取引所
    開設140周年より】

    東京株式市場は一時閉鎖、震災直後の混乱で株価は急落したが、復興特需により数年で持ち直した様子です。

    時代は、東京市場が国際的な投資家を呼び込むどころか、単なるローカル市場に過ぎないものでしたので、市場の閉鎖が国際金融市場に影響を与えることはありませんでした。

    それでは、それ以降の巨大地震の影響はどのようなものでしょうか?

    Ⅰ.1995年1月17日(火)阪神・淡路大震災
    Ⅱ.2011年3月11日(金) 東日本大震災
    Ⅲ.2024年1月1日(月) 能登半島地震

    この三つのケースをまとめると、大地震発生後の市場には次のような傾向がうかがえます。

    1. 短期的なショック安
      大地震発生直後は不安心理と経済活動停滞懸念から株価は下落。特に原発事故など「全国的リスク」が伴う場合は下落幅が大きい。
      損害保険会社は巨額の保険金支払いが予想され、銀行も融資不安から影響を受けるため、金融・保険株や、鉄道、電力、建設など直接打撃を受けるインフラ関連株が一時的に売られる。
    2. 復興需要による持ち直し
      建設、資材、住宅関連株が上昇し、市場全体も政策対応を背景に数週間〜数か月で回復する。
      ただ、被災地の生産停止やサプライチェーンの寸断は、マクロ経済と企業収益に影響を及ぼし、特に輸出産業である自動車・電子部品な銘柄の株価の重しになる。
      また、東日本大震災後、原発停止に伴い、エネルギー政策や規制の変化から、電力株が下落し、代替エネルギー関連が上昇した場面もありました。
    3. 影響度の差
      被災地の規模と全国への波及度によって市場へのインパクトは大きく異なる。
      結論は、「大地震=短期的にはショック安+長期的には復興期待で回復」という傾向のようです。
      ただし、東日本大震災のように原子力事故など複合的なシステミックリスクが重なると、下落規模も回復までの不確実性も、格段に大きくなります。

    Ⅴ :備えはできていますか?

    おおいなる 
    もののちからに 
    ひかれゆく

    わがあしあとの 
    おぼつかなしや

    さて、この歌は、関東大震災の震災復興事業に奔走した京都生まれの女流歌人、九条武子のもので、この句を刻んだ歌碑が東京、築地本願寺の境内にあります。


    【中央区観光協会】

    本願寺派布教使の田坂亜紀子氏によると、本句は自分を奮い立たせしっかりと生きているようでも、自らの力ではどうにもならない出来事を目の当たりにした時に、そうはできない自分を思い知らされることがある、と解かれております。

    確実にやってくる大地震への心の備え、できていますか?

    <参考>

    [ 2025.10.31 ]

    [執筆者プロフィール]
    一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。




    目次

    Ⅰ :犯収法改正の振り返り

    2027年4月1日に改正案の施行が予定されている「犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)」では、これまで多くの金融機関がオンラインでの本人確認方法として利用してきた「」方式が廃止されます。これが金融業界に大きな衝撃をもたらしたことは既知の事実かと思います。

    一方で、対面はどうでしょうか?これまで、2024年のデジタル庁が公表した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」で、対面でも公的個人認証(JPKI)を進めるなどし、本人確認書類のコピーはとらないと明記されて以降、パブリックコメントなどで明言されることはありませんでした。

    しかし、対面中心の金融機関であっても郵送による非対面本人確認を実施しているケースも少なくありません。

    そこで、今回はオンラインの側面で語られてきた犯収法改正を、対面、特に郵送方式における影響という観点で解説していきます。

    これまで影響は少ないと考えてきた方々にも落とし穴があるかもしれません。

    ぜひ最後までご一読ください。

    Ⅱ :改正における主な変更点

    今回の改正では「」方式の廃止以外に大きく2つの変更点があります。
    それは下記となります。

    1. 改正前「」方式(改正後「」方式)において本人確認書類画像の送信が削除
    2. 改正前「」方式の廃止

    特に非対面(郵送方式)において、②改正前「」方式の廃止の影響は大きいと思われます。

    改正前「」方式とは、
    「本人確認書類2点の送付 or 本人確認書類の写し1点+補完書類1点の送付+転送不要 郵便物等」となります。

    具体的には運転免許証や健康保険証、住民票などのコピーを2種類郵送いただき、転送不要郵便と組み合わせることで本人確認を実施します。

    この「」方式後は、対面事業者による、郵送を活用した非対面本人確認においては、どのような方法が可能となるのでしょうか。

    ここからは、改正後の細分(イロハ順)で解説していきます。

    まずは先に述べた改正後に変更となる、「」方式となります。

    」方式とは、
    「本人確認書類の原本1点の送付 or 専用ソフトウェアにてICチップ付き本人確認書類のIC情報の送信 +転送不要郵便物等」となります。

    改正前は、本人確認書類の送付つまり画像のアップロードが可能とされておりましたが今回の改正により、この条文は削除されています。

    また、用いられる本人確認書類が厳格化されており、改正後は印鑑登録証明書や住民票の写しの原本など公的機関が発行する偽造が困難な書類のみに限定されています。

    また、これまで同様に「」方式での本人確認は可能であり、

    」方式とは、
    「本人限定郵便(受取時の確認書類は、写真付き本人確認書類or カード代替電磁的記録の送信)」となります。

    一部限定された用途で「」方式は継続して認められています。

    」方式とは、
    「住所記載の本人確認書類の写し1点の送付 or 本人確認書類1点の写しと住所記載の補完書類1点の送付 + 転送不要郵便物等」

    その他、今回の改正によりこれまで本人確認が困難であった海外在住者などを対象とした新たな」方式」方式が追加されています。

    」方式とは、
    「本人確認書類の原本1点の送付 or 写真付き書類の写し1点(厚みその他の特徴&本人確認時に撮影されたもの)の送信 + 転送不要郵便物等 ※住民基本台帳法の適用を受けない者又は同法第17条第3号に規定する国外転出者が該当。」

    」方式とは、
    「現住所記載の本人確認書類の写し2点の送付 or 現住所記載の本人確認書類の写し1点と現住所記載の補完書類1点の送付 or 現住所未記載の本人確認書類の写し1点と補完書類2点(内1点は現住所記載)の送付 + 転送不要郵便物等」

    住民基本台帳法の適用を受けない者、国外転出者が該当

    Ⅲ :対面金融機関における影響とは

    つまり、ここまで影響の少ないと考えられてきた対面中心の事業者にも、郵送による非対面での本人確認を実施している場合、業務フローを見直す必要が生じます。

    また、ユーザー目線に立つと、コンビニでマイナンバーカードによって取得できるようになったとはいえ、一定の手間とコストをかけて住民票などを入手する必要が出てきました。

    そこで有効なのはやはり「」方式(旧「」方式)、つまり公的個人認証の活用ではないでしょうか。

    」方式とは、
    「公的個人認証(署名用電子証明書を用いた本人確認方法)」

    公的個人認証は、マイナンバーカードに格納されたICチップをスマートフォンのアプリで読み取ることで、本人確認を行います。

    マイナンバーカードの普及が全国民の8割に迫る今、法改正のみならず、顧客の利便性向上の観点で、公的個人認証の利用を検討されるのも一つの手段ではないでしょうか。

    弊社では、対面利用での導入実績や、活用法のノウハウがございます。

    ご検討の際には、是非お問い合わせください。

    Ⅳ :SAKIX公的個人認証サービス

    弊社公的個人認証サービスでは、お客様がご自身のスマートフォンにApp StoreやGoogle Playから『マイナンバーカード読取アプリ」をダウンロードすることで、最短1分で本人確認を完了させることができます。

    弊社共通アプリをご利用いただくことで、初期開発コストを大幅に削減してご提供が可能となります。

    [ 2025.10.31 ]


    公的個人認証サービスご紹介ページ
    ▼ ▼ ▼



    「FIT2025」(金融国際情報技術展)は、金融総合専門紙「ニッキン」(日本金融通信社)が主催する国内最大の金融機関のためのITフェアです。過去23回の開催では、のべ33万人以上の金融機関、金融機関関係者が来場し、出展社との商談、情報交換の場として、高い評価を得ています。

    今年も2025年10月9日(木)~10日(金)に東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて開催され、2日間で21,910人(昨年比なんと+2,528人!)もが来場しました。

    株式会社ODKソリューションズは、ブースの出展に加え、公的個人認証の動向についてのセミナーも実施いたしました。

    世界最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、このように定義づけております。

    目次

    Ⅰ :開催概要

    FIT2025

    名称FIT2025(金融国際情報技術展)
    会期2025年10月9日(木)~10日(金)10:00~18:00
    会場東京国際フォーラム
    出展ブースホールE 小間番号EB47
    主催日本金融通信社(ニッキン)

    セミナー概要

    タイトル迫る犯収法改正
    【地方金融機関に学ぶ】公的個人認証活用による口座開設のペーパーレス化
    日時2025年10月10日(金)15:10~15:40
    会場東京国際フォーラム ガラス棟4階(対面開催)
    定員40名

    Ⅱ :ブースの様子

    2-1.準備から開場まで

     今回のFITは、弊社としては初の出展。右も左もわからないことが多く、担当者の私は準備期間の数カ月、社内外多くの皆様のお力を借りながら目まぐるしく準備を進めておりました。初めてのことで、実際の会場のイメージも怪しい中、どうすれば会場内で目を引くことができるのか?どうすればより多くのお客様に「ODKソリューションズ」や「SAKIX」ブランドを知っていただく事ができるのか?などなど、営業課内で昼夜様々な議論を繰り広げたものです。

     熱烈な議論の末、最終的に選ばれたブースのデザインはなんと「真っ黒」!地味では?暗い印象にならない?と社内で最初は反対の意見もありましたが、完成したブースをみると、シャープな印象がでるとともに、周りが白の会場であったこともあり、存在感を出すことに大成功。反対していた社員も、「やっぱり黒だね」などと意見を翻しておりました。

     単なる真っ黒ではなく、夜明けのようなデザインにすることで、これからの明るい未来を想起できるようにしあげたところも担当者のちょっとしたこだわり。試行錯誤した甲斐もあり、お立ち寄りいただいたお客様からも、ご好評いただくブースを作る事が出来ました!

    2-2.いろいろなお客様にご来場いただきました!

    弊社ブースでは、主力サービスである証券系基幹システム『WITH-X(ウィズクロス)』や、2025年2月にリリースした『公的個人認証*1サービス(JPKI)』をはじめとする『SAKIX(サキガケ)』シリーズをご紹介いたしました。

    当日は、地方銀行や信用金庫、更には信用組合、ネット銀行、生命保険会社、証券会社などなど、幅広い金融機関のお客様にお立ち寄りいただきました。お越しいただいた皆様、誠にありがとうございました!

    犯罪収益移転防止法(以下、犯収法)改正への対応の影響もあり、特に新サービスである『公的個人認証サービス』は多くのお客様にご関心をいただくことができました。多くのご来場の結果、ブースに入りきらないなんてことも。これなら来年は少し大きめのブースも要検討?なんて気が早いですが思ったり…。(*1)

    (補足)

    2-3.お客様の関心のポイントとは…?

    お立ち寄りいただいた皆様から寄せられた声で多かったのは、なんと「公的個人認証を『対面』で活用する話を聞きたい」というお声!

    オンライン本人確認手法であるため、金融機関の皆様にとっては、非対面取引時の本人確認としての利用がメインで、弊社ブースが対面での活用を売りにしても興味を持ってもらえないのでは…?という不安も会期前は正直ありました。しかし、お越しいただいたお客様からは、「所属協会から対面でも活用するように言われていて困っている」「せっかくなら非対面・対面双方で活用したい」というお声が多数。「対面」での活用を掲げた弊社だからこそお立ち寄りいただいたとお聞きし、弊社としてはとってもうれしい誤算となりました。

    2023年のデジタル庁の提言でも、「対面でも公的個人認証の活用を進めるなどし、本人確認書類のコピーを取らないようにする」ことが推奨されています。そのような背景もあってか、対面取引時でも公的個人認証を活用することが多くの金融機関で注目されているんだなぁと改めて実感することとなりました。

    公的個人認証サービス
    紹介ページはこちら

    Ⅲ :セミナー登壇レポート

    3-1.セミナー内容を少しだけ公開…

     2027年4月1日に改正される犯収法では、非対面(オンライン)での本人確認がより厳格化されます。ここで特に注目されているのが、本人確認書類画像の送信を受ける方法の廃止。本セミナーでは、まず最新の法改正の動向をわかりやすく解説しました。

    画像の送信を受ける方法の廃止はご存じの方が多いですが、実は、非対面取引だと郵送の方式にも厳格化が進んでおります。(詳しくはSAKIXサイト内別コラムでも解説中!)セミナー受講者の方からは「eKYCが厳しくなるのは知っていたけれど、まさか郵送も影響があるとは…」というお声も。

    また、弊社は、セミナーでも公的個人認証の対面での活用に焦点を当てました。対面での活用によって多くの金融機関でペーパーレス化や事務コストの削減を見込めます!弊社の実際の公的個人認証活用の事例の紹介として松阪証券様をはじめ、3社ご紹介いたしました。証券会社向けサービスが中心であった弊社ですが、本サービスは銀行、信用金庫などの導入実績も続々できております。

    これらの事例の詳細を知りたい方は下記よりお気軽にお問い合わせください

    お問い合わせはこちら
    3-2.セミナー参加者アンケートの声

    セミナー当日受講の皆様にアンケートを実施いたしました。(ご協力ありがとうございました!)

     そちらのアンケートご回答者の約70%にとても満足・満足とご回答いただきました!皆様に満足いただけるセミナーとなり、ほっと一安心しております

     セミナー参加者のご興味のあるトピックは、やはり1位は「公的個人認証」、次いで「犯収法改正」との結果でした。法改正も約1年半後に迫り、公的個人認証や改正の状況には関心が集まっていることを実感しました!

     また、ご感想として、「対面(店頭)での運用事例やサービスを知りたい」「既存システムとの連携をもっと知りたい」というご意見をいただきました。これらの意見は、次回以降のセミナーやコラムにも盛り込むことを検討しておりますので、ぜひぜひ続報をお待ちください…!

    Ⅳ :まとめにかえて

     初の出展となったFITですが、予想より多くのお客様とお会いすることができました。

     改めて、ブースにご来場いただいた皆様、セミナーにご参加いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

     ぜひ引き続き、ODKソリューションズを何卒よろしくお願い申し上げます!

    資料請求はこちらから

    [ 2025.10.31 ]

    [執筆者プロフィール]
    戸祭陽菜。新卒でODKソリューションズに入社し、証券・金融ソリューション部に配属。配属後は新規営業担当として、お客様の課題を把握し、様々なニーズに合わせた公的個人認証サービスの提案を行っている。
    自社マーケティング施策の企画・運用を担当。


    ▼ 関連コラム ▼

    対面金融機関に見る犯収法改正

    対面金融機関に見る
    犯収法改正


    目次
    1. インドと聞いて?
    2. インド市場への道
    3. インド・ビジネスの難しさ
    4. 「インド:台頭するグローバル・パワー」
    5. インドへのお誘い!

    Ⅰ :インドと聞いて?

    インドと聞いてみなさんは何を思い浮かべるでしょうか?

    多種多様なスパイスを使ったカレー料理、チャイに代表される紅茶文化、色鮮やかな民族衣装、仏教やヨガの聖地、ヒマラヤ山脈やデカン高原のような自然環境、インド象やベンガル虎といった野生動物、タージマハールの威容、多民族・多文化・巨大人口による大変な雑踏・・・

    近年はボリウッド映画と呼ばれる映画も人気を博したり、政治的にはグローバルサウスの盟主として存在感を高めております。

    また、日本の金融界では、*西暦2000年問題に対応するため、多くのインド系技術者の来日が話題になりました。

    *2000年問題:Year 2000 problem
    西暦(グレゴリオ暦)2000年になるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた問題

    【Wikipedia より】

    それを契機として、インドの高度な数学・理系教育や、急成長するIT産業、その象徴たるインドのシリコンバレー、バンガロールなどが注目を浴びました。

    外務省による国・地域概況にインドは下記のように紹介されております。

    1.面積  328万7,469平方キロメートル
    (日本:37.8万平方キロメートル)
    2.人口  14億3,807万人
    (日本:1億2,156万人)
    3.首都  ニューデリー(New Delhi)
    4.民族  インド・アーリヤ族、ドラビダ族、モンゴロイド族等
    5.言語  連邦公用語はヒンディー語、他に憲法で公認されている州の言語が21言語
    6.宗教  ヒンドゥー79.8%、イスラム14.2%、キリスト2.3%、
    シク1.7%、仏教0.7%
    7.識字率 73.00%(2011年国勢調査)

    思い返すと私が子供の頃、戦後の日本では、今以上にインドとの関係が濃密であったような感があります。

    インドから寄贈された上野動物園のインド象インディラと当時のネール首相、ガンジーの非暴力主義、独立の英雄チャンドラ・ボースの伝説と新宿中村屋のカレー、極東軍事裁判におけるパール判事・・・といった歴史的トピックスは小学校の教室でも随分にとりあげられたものです。

    そういった積み重ねが希薄になったのか、投資の世界におけるインドという国への視線も、時折に噴火するような情報群に注目するばかりで連続性に欠け、かつてあった中国ブームやベトナム・ブームといった投資ユーフォリアと同じような、地に足がついたものではないのかもしれません。

    ただ、インド株に投資する投資信託が登場し、さらにはETFも上場され、投資の選択肢が広がりつつあることは歓迎すべきでしょう。

    Ⅱ :インド市場への道

    一般社団法人 投資信託協会の総合検索ライブラリーで「インド」という語句で検索すると、100以上の投資信託が検索されます。

    そのうち、時価総額十傑は下記のようになります。


    基準日:2025年09月22日

    日本取引所グループのHPからインドを冠した東証上場ETFを検索すると、下記のようなものが挙げられます。

    ただ、上記は投信もETFもインドを主たる投資先とするもので、「グローバルサウス」や「新興国」といった分類でインドに投資している金融商品が存在する可能性もあります。

    一部の商品がNISA適格のお墨付きを得たことにより、ちょっとしたインド投資ブームの様相を呈したことも記憶に新しいところです。

    一方、日系企業の現地進出は、スズキの大成功がいつも取り上げられるばかりで、いささか実態が見え難いものがありそうです。

    インドへ進出する日系企業は2024年10月時点で、在インド日本国大使館、総領事館及び日本貿易振興機構(ジェトロ)のとりまとめによると、日系企業数(現地法人の本社、本店等)の合計は、1,434社(2023年:1,399社)、拠点数合計は、5,205拠点(2023年:4,957拠点)とされております。


    ここ10年ほどは1,400社程度で推移している一方、在留邦人も8,000名程度で推移しております。

    これだけの市場規模を持つ大国、インドにしては在留邦人の数は少なくみえます。



    【筆者作成】

    中国の9万7,538人は別格としても、ベトナムの在留邦人1万7,410人の約半分です。

    【参考】
    タイ:70,421、韓国:43,064、シンガポール:32,565、台湾:21,696、マレーシア:20,025 、インドネシア:14,934、フィリピン:12,648

    【Wikipedia より】

    この構造から、厳しい駐在・ビジネス環境の中で、少数精鋭で現地採用の職員を指揮しているというインド・ビジネスの特徴が伺えるのではないでしょうか。

    私自身も証券現地法人設立のためにムンバイやデリーを頻繁に訪問した時期がありますが、その生活環境の厳しさには頭を抱えました。

    そんな体験から、私が感じたインドにおけるビジネスの困難さを簡単にまとめてみます。

    Ⅲ :インド・ビジネスの難しさ

    そんな困難なビジネス環境でも、インドの存在は、世界にとっても日本にとっても、大きくなるばかりです。

    Ⅳ :「インド:台頭するグローバル・パワー」

    外務省から定期的に発表される、日印関係に関したレポート、最近でも、2025年9月25日附で「最近のインド情勢と日インド関係」と題したレポートが発表され、「インド:台頭するグローバル・パワー」という章が設けられ、下記の6点が挙げられております。


    同じレポートで「最近のインド経済」として次のようにまとめられております。

    モディ首相のリーダーシップに世界の注目が集まったのは2023年9月に開催された G20ニューデリー・サミットの成功でしょう。

    日本からは、岸田文雄内閣総理大臣(当時)が出席されましたが、「一つの地球、一つの家族、一つの未来(One Earth, One Family, One Future)」のテーマの下、食料安全保障、気候・エネルギー、開発、保健、デジタルといった重要課題について議論が行われ、議論の総括として、G20ニューデリー首脳宣言が発出されました。

    「10日に閉幕した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国の首脳がG20での地位固めに向けた言動を強めた。首脳宣言のとりまとめでも結束し、西側諸国と中国・ロシアの双方に妥協を迫った。」(日経 2023/09/10)

    グローバルサウスの結束と台頭を報じる日経ですが、先にも述べましたように、議長国インドのモディ首相のリーダーシップを、あらためて世界に印象付けるにこととなりました。

    当時は、先端産業の分野で中国の影響力を削ぎたい米国の思惑(日本の思惑でもありますが)も追い風になり、一気にその地位を上げた感がありますが、トランプ政権下での世界的混乱においても、その外交上手ぶりは際立っております。

    Ⅴ :インドへのお誘い!

    日本人にとって、中東やアフリカと同じように、インドもなかなか身近にその姿をとらえ難いものですが、書店には多種多様な関連書籍が並んでおります。

    いろいろと目を通しても、インドの故事「群盲象を評す」を思い起こさせるばかりなのですが、思い切って手元の書架からインド関係の軽い読み物調のモノを選んでみました。

    このあたりからインドを探ってみては如何でしょうか?

    インド日記―牛とコンピュータの国から

    小熊 英二 (著)

    小熊英二先生の著書は難解な社会学の研究書が多いのですが、本書は比較的読み易く、興味深い本です。

    2000年の1月から2月にかけて、国際交流基金の専門家派遣事業でインドのデリー大学に赴き、中国・日本研究科の客員教授として日本近代史を講義した氏は、二ヶ月の滞在のあいだデリーをはじめインド各地を回り、近代日本の歴史を講義して回られ、その間の経験や観察、あるいは現地の人びとと話したことを、日記に落とし込みます。

    おりしも、インドは高度経済成長とグローバリゼーションに揺れ、急速な社会の変化や価値観の動揺、そして右派ナショナリズムの台頭に直面しており、「コンピュータ・カフェの門前に牛が立ち、お寺が最新式の音響システムを使っている」といった現代インドに出会い、古いものと新しいもの、伝統と近代が入り混じった状態にある。インド人にむかって近代日本の歴史を描いてみせ、その反応を聞くという経験もさることながら、こうしたインド社会の状況も十分に刺激的なものだった

    【著者:あとがき」より】
    Curry: A Tale of Cooks And Conquerors

    Lizzie Collingham(著)

    英文ですが、カレーに関する話題満載で、カレー好きとして何度も読み返す私の愛読書です。

    深夜特急3 ーインド・ネパール

    沢木 耕太郎 (著)

    バックパッカ―のバイブル化した本シリーズですが、インドとがっぷり闘ったというより、旅行者:通過者としての見聞録という性格から、いささか薄味ですが、それでもインドという国の一断面を見せてくれます。

    インド夜想曲

    アントニオ タブッキ (著) 
    須賀 敦子 (翻訳)

    イタリアの作家、アントニオ・タブッキの代表作である本作の主人公は、失踪した友人を捜しながら、インド各地を巡ります。

    アントニオ・タブッキ
    Antonio Tabucchi

    (1943年9月23日 – 2012年3月25日)
    イタリアの作家。また学者として、シエナ大学でポルトガル語および文学の教鞭を取り続けていた。

    【Wikipediaより】

    それは大都市の吹き溜まりのような売春街の安宿、ゴキブリだらけの不潔な病院、自前の浄水器を誇る超高級ホテル、英国植民地時代に築かれた壮大な鉄道駅舎、謎の神学研究所の本部、長距離移動バスの粗末な休憩所、インド洋に面する砂浜、リゾート地の高級ホテルなどを巡りながら、主人公は徐々に「友人を探している自分」を見失っていきます。

    特に長距離バスの粗末な休憩所で出会う異形の占い師から「あなたは、もうひとりの人、この世の仮のすがたにすぎない。あなたはここにいない。どこにいるかは言えない」と指摘される主人公の困惑と戸惑いは、読者のそれと同一でしょう。

    その美しい文章は、イタリア文学の翻訳と随筆家として多くの崇拝者を持つ故須賀敦子女史に負うところが大きく、端正な言葉選びは原作の世界をぐっと身近にひきつけてくれます。

    須賀 敦子:すが あつこ
    (1929年1月19日 – 1998年3月20日)
    20代後半から30代が終わるまでイタリアで過ごし、40代は専業非常勤講師として過ごす。50代以降、イタリア文学の翻訳者として脚光を浴び、50代後半からは随筆家としても注目を浴びた。

    【Wikipediaより】
    インド夜想曲

    1989年 フランス

    本作は、フランスのアラン・コルノー監督により、「ベティ・ブルー」などで知られるジャン・ユーグ・アングラードを主役に迎え映画化されており、原作の世界を見事に映像化した素晴らしい作品となっております。

    <参考>

    [ 2025.09.30 ]

    [執筆者プロフィール]
    一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。




    目次

    ■ The Big Sleep

    ESG投資とは何か?

    世界最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、このように定義づけております。

    [GPIF ホームページより、下線は筆者]

    この分野は欧州において、その理念の構築と検証が先行し、米国で拡大され、アジアにも波及したという、歴史があったと、私は記憶しております。

    欧州では、旧ソ連のウクライナにおけるチェルノブイリ原発の大きな事故*もあり、1980年代後半から1990年代の初頭にかけ、環境団体や検証機関が数多く立ち上がり、投資家、金融機関、投資アドバイザーの間でも、投資行動に環境問題を加味すべきという機運が高まりました。

    チェルノブイリ
    原子力発電所事故

    1986年4月26日午前1時23分(モスクワ標準時)に、ソビエト連邦の構成国であるウクライナ・ソビエト社会主義共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で起きた原子力事故。のちに決められた国際原子力事象評価尺度 (INES) では深刻な事故を示すレベル7に分類された。
    【Wikipediaより】

    1990年代半ばには、このような欧州系の環境団体や金融関係者が、日本の金融機関や機関投資家を訪問し、その投資アイデアや環境関連指数などの販売や啓蒙活動を図った時期がありました。

    私自身も、幾つかプレゼンテーションや面談を受けたことがありますが、残念ながらバブル経済の崩壊に苦悶する我が国には、それに応える余裕はありませんでした。

    米国では、2006年、クリントン政権下の副大統領であったアル・ゴアも出演したドキュメンタリー映画、『不都合な真実:An Inconvenient Truth』(デイビス・グッゲンハイム監督)が大きな話題となりました。

    しかしながら、時のブッシュ政権はグローバルな地球温暖化対策の国際的枠組みである京都議定書を批准しなかったため、皮肉にも米国内では環境問題に対する関心が一気に高まったようです。

    日本では、先のGPIFのコメントでも述べられたように、アナン国連事務総長(当時)の呼びかけで、世界の有力機関投資家が結集して制定された責任投資原則(PRI)により、“ESG(環境・社会・ガバナンス)”という言葉が定着します。

    さらには、2011年3月11日、東日本大震災による福島第一原発の事故を契機に、環境問題に対する関心が大きく高まりました。

    それでは、日本の金融市場においてESG投資や社会的責任投資の状況は、どのようなものなのでしょうか?

    ■ Playback

    ⇒ 日本におけるESG投資や社会的責任投資の課題

    1. 年金基金や機関投資家の運用
    【金融庁「持続可能な社会を支える金融システムの構築」2021年6月より】


    まず、ESG投資が制度的に義務化・標準化されている、EUのサステナブルファイナンス開示規則を例に見てみましょう。

    2021年3月にEUの欧州委員会はサステナブルファイナンス関連情報開示規則:SFDR (Sustainable Finance Disclosure Regulation)を施行し、金融商品を取り扱う企業や機関投資家に対し、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報開示を義務付けました。

    一方、米国では一部の投資規制法において、他の投資との間でリスク・リターンなどの条件が同じであれば、ESG投資を採用して問題ないとの解釈がなされていましたが、投資評価は財務的要素のみに基づいて行わなければならず、非財務的要素を考慮する場合には、その内容を文書化するなどの議論が発出しました。

    日本では、2020年のスチュワードシップ・コード改訂において、機関投資家の「スチュワードシップ責任」の中に、「運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮」が明記されております。

    例えば、GPIFはESG活動報告を発表しており、その透明性を表明しております。

    ただ、ESGスコアなどを明確に反映したアクティブ運用は限定的の様子です。

    私見ですが、国内機関投資家はリスク回避志向もあり、パッシブ運用が中心となりがちで、ESGのような要素を積極的に評価しにくい傾向もあるのではないでしょうか?

    2. 企業の情報開示と品質の問題

    日本企業のESG情報開示は、定量性・比較可能性が乏しいと評価されることが多いようです。

    しかしながら、2023年版のFTSE RussellのESG評価では、「日本企業と欧州企業の ESGパフォーマンスの差は縮小し、環境スコアはほぼ同等に近づいている。しかし、日本企業のソーシャル領域での開示率は、欧州に遅れをとっており、課題が残っている」とされております。 【日本企業のESGスコアの改善と課題 2024年6月FTSE Russellより】


    差は縮まりつつも、欧米企業と比べ、CO2排出量や人権対応などの開示項目にバラつきがあるといったところでしょうか。

    3. 個人投資家の認知度の低さ

    日本証券業協会の2024年調査によると、個人投資家のESG認知率は30%を下回っており、具体的な内容を理解している層はさらに少数とされております。


    【個人投資家の証券投資に関する意識調査 2024年10月16日 日本証券業協会より】

    一方で米国や欧州では、ESGを「長期的なリターン確保のための重要要素」と捉える個人投資家が多数派とも報道されておりますが、近年の株高によるバイアスもあるかもしれません。

    4. 短期的利益志向の市場文化

    日本企業の多くが四半期決算を重視して、ESGのような定性的、中長期的な取り組みが投資家に評価されにくいとの見方もあるようです。

    近年の東京証券取引所による市場改革でも、ROEやPBRの改善が主眼とされ、ESGは副次的な扱いであるのは今後の課題とも思えます。

    5. ESG評価基準の不統一と信頼性の課題

    各ESG評価機関(MSCI、FTSE、Sustainalyticsなど)の間で、その評価が大きく異なるようです。

    ESGスコアの不透明性や恣意性が、投資判断の基準になりにくいという批判もありますが、格付けと同様に、適正な判断を下す機関に淘汰されて行くのかもしれません。

    6. 政策誘導の弱さ

    日本政府は「グリーン成長戦略」や「気候関連財務情報開示タスクフォース」への対応を推進していますが、罰則や義務化が弱く、企業の自主的な対応に留まっております。

    EUのように、義務的な開示制度の整備により、ESG非対応企業は資金調達面でハンディを負うなど、罰則よりも実務上の影響が生まれる方が誘導への道筋でしょう。

    7. 上場企業のガバナンス改革の遅れ

    取締役会の多様性(ジェンダー、人種、外部取締役の比率等々)が低水準である、コーポレートガバナンス・コードも「形式的遵守」が多い、といった批判も多く、株主総会などでも、しばしば議論の的となっております。

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    さて、ESGのような特定のテーマを掲げた投資信託、例えば、最近はやりのAI、脱炭素、宇宙開発、フィンテック等々、こういった投信が必ずしも振るわない印象がありますが、その理由はどこにあるのでしょうか?

    私自身が体験的に感じた問題点を「市場」「投資家」「業者」の三つの視点から整理してみまししょう。

    ■ Farewell, My Lovely

    ⇒ 体験的に感じた問題点

    1. 市場側の要因

    2. 投資家側の要因

    3. 運用会社・販売会社側の要因

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    若干、ネガティブな見方になりましたが、ここでESG投資や社会的責任投資にお別れしてしまうのは、もったいないものです。

    では、日本のESG投資を根付かせるための課題と展望をどう考えれば良いのでしょうか?

    ■ The Wrong Goodbye

    ⇒ 誤った地点に留まらないために

    課題1.制度強化
    ESG情報開示の義務化と統一基準の導入

    課題2.市場メカニズムの確立
    ESG評価が資本コストや資金調達に直結する仕組みづくり

    課題3.教育・啓発
    機関投資家・個人投資家へのESGリテラシーの向上

    課題4.社会的コンセンサスの変化
    「社会課題はコスト」ではなく「変革への機会=投資機会」と捉える視点の普及

    日本でESG投資を根付かせるためには、制度の未成熟さの解消と、文化的背景の改善にあると言えるでしょう。

    制度+市場+文化が三位一体で連動する仕組みを構築できるかが今後の課題ですが、その継続性を担保する経済成長も必須でしょう。

    その経済成長のドライビングフォースをESG投資や社会的責任投資が担うとすれば、両者はコインの裏表なのです。

    <参考>

    [ 2025.08.28 ]

    [執筆者プロフィール]
    一燈。1980年大手証券会社入社。企業派遣留学として米国でMBA取得。その後、シンガポール・香港駐在を通じアジアビジネスに、 また本社経営企画部門で経営戦略の立案等に関わる。